「何も考えていない人」から脱出したときのこと。
現地の言葉も、英語もまともに使えず乗り込んで、当然ながらうまく行かないことがあったフランス・イギリス旅。
今回は前の記事の後半戦です。
(が、コミュニケーションできるほど外国語が話せないままパーティーに参加して失敗した、ということがわかればこの記事は読めます)
***
立食パーティーからのディナー。
会場を移動することになり、私の足取りは重かった。というかあまり記憶がない。きっと手前で言われた「Do you study English?(英語の勉強はしているの?)」という言葉が頭の中を駆け巡っていたからだ。
これ以上の失敗は夫や他の方々の迷惑になる。
でも、可能ならこの状況を脱したい。
せっかく数時間前に、「英語が下手でもコミュニケーションを取ろう」と思ったのだから。
会場にたどり着くと、そこには結婚式の披露宴のような10人がけの円卓が数十個並べられていた。
私達は運営をされていたフランスの方々2名と私たち夫婦と他に来ていた日本の方々らと1つの円卓を囲むことになった。
***
円卓で話の中心にいたのは、この展示会で講演会をし、私に言葉はツールだと実感させてくれた方だった。その方の話題量は豊富で、食事をしながら楽しく耳を傾けることができた。
この円卓には英語のネイティブスピーカーはいない。
だからこそ、お互いわからない単語があっても察し合おうという雰囲気もあって、さきほどの立食パーティーよりも緊張しなくてすんだ。
少しすると会場が賑わい始め、騒がしくなってきたので、円卓全員で話をするのは少し難しくなった。すると円卓のメンバーはなんとなく3つに別れ、私は夫と展示会の運営をされていたフランスの方のうち1人と3人でお話をすることになった。私は相変わらず聞くばかりだったけれど。
その方も色々なお話ができる方で、フランスの文化やおすすめの観光地、バカンス場所などを色々教えてくれた。自分のこと、フランスのこと、ヨーロッパのことや日本のこと。話すことを商売にしているのではと思ってしまうくらい話題を持っていて、バランスよく夫にも質問や話を求めてくる。
そしてフランスの方同士でネタのパス出しをして、話を発展させたりもする、コミュニケーションの匠のような人だった。
その円卓にいた、残りのフランスの方2人も同じように他の人たちに話題を提供し、話し、ときに意見を聞き、他の方にパス出しをする、ということを繰り返している。だから会話が途切れないのだ。
私達が日本から来たゲストだから接待をしようという気持ちがあったとしても、会話全般が上手すぎる。
その時ふと以前読んだ本を思い出した。
そこには、フランスの人が集まるディナーは食事が冷めることよりも、来ている人との会話を大切にする、書いてあって意外に思ったのを記憶している。
食へのこだわりが強そうなフランスの人が、食よりもコミュニケーションを大切にする、というのが私の持っていたフランスとのイメージと少し違っていたのだ。
でも、もしそれがフランスでは普通のことであるなら、日頃からそういう場に参加するフランスの方たちはエピソードトークのようなものをいくつか持っているのが一般的ということになる。
いつでも話せるように日頃から見つけては、懐で温めているのかもしれない。
他の人の持つエピソードもある程度把握していて、ときにパス出しをするのも日常茶飯事なのだろう。
連携しながら会話を止めない、というのがどうやら文化らしいということがわかった。(少なくともこの場では)
***
私は夫と反対隣に座っていた、年下の日本女性とも話をした。すると、意外なことを知った。彼女も英語がほとんど話せないらしい。
展示会のブースで現地の方と英語でやりとりをしていたところを見ていたけれど、彼女は私と同じように英語に苦手意識を持っているらしかった。
英語が話せないのは自分だけと思って焦っていたけれど、意外なところに似た境遇の人がいた。彼女は英語が堪能なもう一人の日本女性の隣で、自分のできることを精一杯やっていたのだと思う。
立場や状況は違うけれど、彼女も似たような緊張感の中で、この場を乗り越えようとしているのだと知った。
少しだけ、勇気をもらえた気がした。
***
大人数のディナーともなると、長丁場になる。
実際そのディナーは3時間以上に渡るもので、立食パーティーから数えると5時間にもなる。
エピソードトークを携えているフランスの方々も、会話がとぎれとぎれになり始めた。それはそうだ、ほとんど休憩なく話題を挙げ続けているのだから。
円卓にいる方々は、私が英語を話せないことを知っているので、彼らが私に意見を聞いてくることはほとんどなかった。私の隣に座る女性なども含めると、そもそもこの円卓には会話を提供できる人が少ないらしかった。
11人でやるサッカーを5人でやっているようなものだから、それは疲弊もするだろう。
私など英語の話せない人たちに話しかけないのは、私を困らせないための気遣いだけれど、会話にちゃんと参加できないことが申し訳なかった。
実際、さきほど1回失敗している。
本当なら、ここで1、2つは話題を提供するのが、(少なくともこのディナーの場では)マナーのような気がした。
私は、ここがチャンスかもしれないと思った。
今なら、英語で話すことができるかもしれない。
会話も途切れがちになってきたから、間が開く分たどたどしくても話を聞いてくれるかもしれない。
ここ数時間ずっと英語を聞き続けている今、英語の聞き取りにも磨きがかかっているから、相手からのレスポンスも、よりちゃんと聞き取ることができるかもしれない。
我ながらセコいというか、ずるい思惑だらけだったけれど(笑)、今ほど英語を話すチャンスはないのだろうかと思った。
悔しいまま終わりたくない。
その気持ちが何よりも強くて、私は思い切って話をしてみることにした。
「 フランスでシードルが有名な場所はどこですか? 」
という内容を英語で尋ねた。
急に話しだしたので、ちょっとびっくりされた。
夫もびっくりしていた。
「 シードル 」はフランス語なのだが、フランス語だということを認識されなくて、英語だとサイダーだとか色々説明をして理解してもらう。
すると、説明を静かに聞いていたフランス人のおじさんが口を開いた。
「私の出身地のシードルが有名だ。
今度会うときに持ってきてあげるよ」
というようなことを言ってくれた、と思う。
通じたこと、それに対して返答がきたことだけでめちゃくちゃ嬉しくテンションが上がってしまい、結果的にしっかり返答を聞き取ることができなかったのだ。
今度持ってきてくれるというのは社交辞令だろう。でもこのレスポンスがあることが嬉しくて、この日1番笑顔になっていたと思う。
私は続けて、もう少し話を続けた。
私は日本でシードルアンバサダーの資格を持っていること。
フランスはシードルが有名だと聞いていて、フランスで有名なシードルを知りたいのだと話した。
すると、運営をしていたフランスの方2人が続けて話してくれる。
フランスの人はあまりシードルは飲まないこと。
(ワインもしくは、ビールらしい)
ブルターニュ地方の人や、クレープ(ガレット)を食べるときにだけ飲むこと。
有名なブランドのラベルや、モノプリ(というフランスのスーパー)でも売っていることなども教えてくれた。
結局レスポンスに対するレスポンスがうまくできなくて、そこまで話が広げられなかった。
でもこのたどたどしい英語の話題提供は功を奏す。
その後は、ずっと話していた方とは違うフランスの方からも話しかけてもらうことができた。
私がドイツ語を勉強中であることを別の人から聞いたらしく、自分もドイツ語を勉強したことがあるけれど挫折したことなどを細かく教えてくれた。
私もたどたどしく、発音ところころと変わっていく単語の語尾が難しいことをお話したつもりだ。きっとニュアンスだけでも拾ってくれていることを祈っている。
ディナーも終盤だったけれど、
私はやっと、この円卓でディナーをともにする参加者にになれた。
そして「何も考えていない人」から少しだけ脱出できたような気がした。
***
以上が、フランス・イギリス旅のフランス編です。
フランスは実質2日くらいしかいなかったのですが、記事が何本も書けるくらいの経験や気づきがあって、この経験を海外生活のはじまりにできてよかったと心底思いました。
今後はイギリス編に移りますが、イギリスはどちらかというと写真多めの旅レポのようになる予定です。(シンプルな観光が多いので、あまり人とのコミュニケーションが取れなかった)
引き続き読んでいただけたら嬉しいです。
ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
サポートしていただくと、たぶん食べ物の記事が増えます。もぐもぐ。