読書録 - 「図解雑学:フロイトの精神分析」、睡眠と夢解釈編
「図解雑学:フロイトの精神分析」のうち、睡眠と夢に関する章を読みこんで重要な知識をまとめてみました。
全ての夢の共通点
人が夢を見る脳生理学的な説明として、本書では「夢は刺激から睡眠を維持するための機能である」という「睡眠保護説」と命名すべき説が提唱されている。例えばうるさい若者の集団が夜中に騒いでいたとすると、その声よりも警察・警備員の声が響き渡ることがある。刺激に相当するのが若者の騒音であり、夢に相当するのが警察の一声である。夜中寝ている人には、刺激そのものよりも警察の一声の方が響き渡って印象に残ることがある。
夢ではこのような睡眠中の外部の刺激や刺激から連想される記憶や体験が覚醒時に体験する出来事そのものとは異なる形で現れる。例えば、私は経験したことがないが目覚まし時計の鳴る音に呼応して非常ベルの鳴る夢を見るなどの例がある。夢と現実の刺激・体験が形を変えて体験されることを二次加工という。
著者の鈴木晶氏は「夢で見たエピソードは覚醒時に作り上げられ、その際に夢の記憶の二次加工が行われる。複数の夢を見た場合、それらは1つの時間の流れに従うのではなく目の前にテレビのスクリーンが何百もあるような状態で、それを誰かが同時に見ている状態である」と考える。個人的には、夢を見た順番というのは明確に覚えられているので夢を見る順・二次加工が起こる順にも順序があると考えている。
単純な夢・不可解な夢
夢は大きく分けて、夢に登場するものが現実での同じ事柄そのものを指している単純な夢・意味がわからない不可解な夢の2つに分かれる。単純な夢は主に外部からの刺激・生理的刺激・欲求不満など、直感的に体験できるような出来事で誘発される。そのため子供は単純な夢を見やすい傾向がある。フロイトの精神分析においては、不可解な夢にも不可解になる以前の意味(潜在内容)があると考える。これを「夢の解釈」と呼ぶ。
夢を解釈するには、その夢を見た人の個人史が重要となる。夢の意味はその人の経歴や性格・経験などに大きく依存するためである。
夢の顕在内容・潜在内容
深層心理学では、夢は願望を充足することを目指すという「願望充足説」を提唱している。身体や精神が切迫するとより直接的な願望充足夢を見る、特に子供ではこのような夢が多くなるという例があるが、フロイトは成人の見る不可解な夢に対してもこのような願望充足説が当てはまると考える。
例えば「宇宙人と踊る夢」を見た場合、その人が充足したい願望は直接「宇宙人に会う」「踊る」ことではなく、宇宙人と会うこと・踊ることが象徴する別の願望であると考えられる。
「宇宙人と踊る夢」が夢の顕在内容であるのに対し、宇宙人と会うこと・踊ることが象徴する別の願望は夢の潜在内容である。夢の潜在内容を普段は意識することができないのは、それらが脳や心の意識できない部位である無意識に保存されているためである。
夢に対する検閲・歪曲
夢の潜在内容に相当する、無意識での願望や欲求を「抑圧されたもの」と呼ぶ。睡眠保護説と願望充足説に基づくと、意識 / 無意識の間では刺激が強すぎて睡眠を妨げるような夢の潜在内容には検閲(歪曲)が働き、睡眠を維持できるような意識下で認識できるものに変化するという。これを「夢の作業」という。
個人的には夢の出来事で刺激が強すぎて起きてしまう事もあるので、全ての夢に「夢の作業」があるわけではないと思う。「足に釘が刺さって驚いて飛び起きる」「逃げる男を追いかけて体が興奮して目覚める」という私が見た夢の内容はむしろ適切なタイミングで自分を起床させようとしているように思える。
夢の作業を経た潜在内容には、このような検閲が行われていると考えられている。
言葉・単語の類似・こじつけ
夢に出てきた内容を解釈するには、時にイメージだけでなく言葉・単語の類似に注目することも重要となる。現実では言葉からイメージを思い浮かべるが、夢では思考回路が逆転するのでイメージからそれを指す言葉が登場する事がある。
夢の象徴
夢では検閲や歪曲により、特定の要素が別のことを意味する象徴となるという「夢象徴」が現れる。フロイトによると、夢には男性器・女性器や性行為の象徴(性的象徴)は頻繁に現れるという。これにはレム睡眠中は性器が充血するという作用が身体に働くためと考えられる。フロイトによると、傘や杖は形が似ているから、蛇口や噴水は水が出るから(笑)という理由で男性器を、洞窟や穴は女性器を(笑)象徴するという。正直こじつけが過ぎるように思えるが、無意識ではそう思っていても不思議ではない。
このようなこじつけがましい象徴表現も、夢だけでなく神話・昔話・冗談・民話・慣用句・故事成語などとして広く用いられているケースがあることから人の心理に根差したものがあるといえるのだろう。これらの文学的な象徴表現も無意識を表現していると考えられる。
シェイクスピアの「ヴェニスの商人」ではある青年が3つの箱を選び、その中から現れた1人の女性と結ばれる。フロイトの夢象徴の体系に従うなら、これは性行為を意味していることになる。
また神話の中では、水に捨てられ救出された子供が成長して英雄になるという、水と英雄の誕生が結びついたモチーフが多い。旧約聖書のモーセはまさしくこのような出生をしているし、日本の「桃太郎」も川に捨てられた川から生まれる。私の大好きな「ベルセルク」では、生まれたばかりのガッツが血溜まりから救い上げられるシーンがある。
夢の解釈はこのように行われるが、フロイトの夢象徴の体系より重要なのはその人自身の個人史となる。夢はこれらの共通する象徴体系に加え、その人自身が思い出すこと・連想することを聞き出して初めてその解釈が可能となる。
無茶苦茶なこじつけとしか思えない語呂合わせが夢の理解に役立った例として、黒いおもちゃのナイフが夢に登場した理由を分析していたら「KnifeはKnightに書き方・発音が似ている、Knightは個人的にArknightsを連想する、だからKnifeはArknightsの何かしらの断片である」という錯乱した思考に至った事がある。
この思考は実際当たっていて、その前日に黒いナイフを使って戦うキャラクター(ロビン)で「アークナイツ」の新しいステージをクリアしたのを思い出す事ができた。以降はKnifeを「アークナイツ」の一部、もしくはロビンを表す記号だと思うようにしている。