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NYCショート vol. 6 / 同時通訳ブルース 2・「日本人は、そういうこと、しないんです」
前回に続いて、通訳の話です。
今回もデポジションでした。
原告側の日本人女性が、被告側の弁護士からの質問に答え、それを裁判速記官が記録にとる。
概要は、至ってシンプルです。
勤務している会社が入っているオフィスビルの廊下で転んだ。床が濡れていたので、ビルのメインテナンスがいけない。
ということで、ビルのオーナー相手に、治療費などを払えと訴えたケースでした。
被告側の弁護士が、いつものように原告人である日本人女性の名前、住所、年齢、いつアメリカに来たのか、今住んでいるところは賃貸か、などの質問をした後に、転んだ時の状況についての質問に入りました。
「退社時間だったので、エレベーターに向かって歩いている時に転んだんですよね。その時に、誰かに助けを求めましたか?」
「はい、転んだ時に、痛みで叫んだら、同じ会社の同僚が来て助けてくれました」
「オフィスからエレベーターまでの距離は?」
「大体20ヤードぐらいです」
「床のどの部分が濡れていたのですか?」
「会社を出て、エレベーターに向かうには、まっすぐ20ヤードほど歩き、左に曲がらないといけないんですが、そのあたりが濡れていて、転びました」
「床はどの程度濡れていたんですか?」
「ビショビショと言えるほど、濡れていました」
「助けにきた同僚も、その濡れている床に気づきましたか?」
「はい、気づ来ました。『なんでこんなに濡れているの?』と言っていたので」
このあたりから、被告側の弁護士は、色々と突っついてきました。
「転んだのは、もう今から2年前ですよね?」
「はい、そうです」
「転んだ後、病院に行ったり、お医者さんの診断を受けましたか?」
「いえ、そのままにしてました」
「なぜ2年も経ってから、診断を受けたのですか?」
「痛みがおさまらなかったからです」
「どこの痛みが残ったんですか?」
「右腰と右肘です」
「転んだ時に、なぜ救急車を呼ばなかったんですか?」
「日本人は、そういうこと、しないんです」
「それはどういう意味ですか?」
「他人に迷惑をかけてはいけない、と考えました」
「あなたの証言によると、濡れている廊下だったんですよね。それが理由で転んだのに、ですか?」
「はい、日本人は、そういうこと、しないんです」
「怪我をしたかもしれないのに、ですか?」
「はい、そうです」
「それでは、日本では、怪我をしても救急車は呼ばないものなのですか?」
「大怪我でない限り、呼ばないと思います」
東京に住んでいるアメリカ人の友人が、こう言ってたことがあります。
日本で、変なことする外国人がいると、必ず「なんであんなことするんだ?」と聞かれる、と。
その外国人がアメリカ人でもアフリカ人でも、なんでだ?外国人ならわかるだろ、といった感じで。
同じアメリカ人だったとしても、隣に住んでいるやつだって何を考えているのかわからないんだから、なんでだ?と聞かれても困る。
そんなことが起きるたびに、日本人は集産主義だなぁ、と感じるとその友人は言っていたんです。
なんでも「カテゴリー」分けして、当てはめていかないと、安心しないのかな。
確かにそうなんだよね、と思いました。
今の世の中、たとえば、些細な夫婦喧嘩でもすぐに警察呼ぶような人、日本にいますから、そう考えると、日本人もどの国の人も千差万別。
この原告の日本人女性の「日本人は、そういうこと、しないんです」という言い分がどれだけ通じるのか?
通訳なんで、その後どうなったのかはわかりません。
調べればわかるかもしれないんですけど、別にそこまでしないんで。
怪我しても、医者に行かず、2年も経ってから訴訟を起こしているんで、そうなると、医者の診断書が一番の争点になるような気がします。