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毎回反省ばかりで満足することなんてない。 一度ハマったら抜けられない蟻地獄のような役者の世界。

ホラードラマの女優さんを見て役者を目指すことを志たアキさん。舞台や映像の世界にも出るようになったが、まだまだ自分に納得していないという。

役者の魅力や楽しさ、新型コロナウィルスによって舞台ができなくなってきたことも重なって、舞台に立てることのありがたみも知るように。役者を続けるアキさんの心の変化を後編では語っていただきました。

前編はこちら


まだ知らない自分の感情を表現してみたい

──お芝居していて何かアキさんに影響を与えたことはありましたか?

一時期、芝居を嫌いになりかけてたことが実はあって…… 芝居って点数つけられないから、上手くなっているかどうかもわからないし、そもそも上手いという基準はなんなのか、何を目指して良いかわからなくなっていた。その頃やっていた稽古は全然実が入っていなかったし、公演が終わってからも鬱々としていて、その時ばかりはこの先芝居続けるのもう無理かもって思っていた。

そんな時、新しく演技のスクールが開校したというのをテレビか新聞で知って、気になってはいたけどお金ないしな〜と思って諦めかけていたら、ご縁が重なってスクールに通うことになった。そこは国内外でも役者で活躍し、監督でもあった塩屋俊さんが主催の“アクターズクリニック”というところで、レッスンで塩屋メソッドを学べたのが私の役者人生にとって、とても大きい影響があったと思う。

そこのレッスンでは「自分のフィルターを通す」ことを大事にしていて、自分を受け入れることや、自分の感情を思いっきり解放するということを体験させてもらった。

人間って生きているとかわいこぶってみたり、いい人ぶってみたりとかするやん。そういうのってその場に合わせて役を演じているのね。二十歳過ぎると自分の感情をむき出しにすることって滅多にないから、レッスンではいろんな方法で自分の感情を剥き出しにして、自分自身と向き合うっていうことをしていってた。

今までは本気で怒った芝居をしろと言われたら、その役の背景を想像して声を荒げたりするような怒りを表現していたけど、本当に怒りに満ち溢れたときにどうなるかをレッスンでやった時、自分は泣き笑いをしたのね。まさかそんな風になるって自分も知らない感情を発見してびっくりした。その発見があって、自分の心が動いた感覚で芝居をするということが、自分の中でストンと落ちた。

感情って意識しないと、自分でもよくわからないと思っていて。怒りや悲しみは人それぞれだから、役で誰かの感情を表現することって正解がなくて難しい。だからこそ自分が感じる感情の本当のところを掴んでないと表現するものって薄っぺらいものになるんじゃないかと思っていた。だからそのメソッドを知って、自分はそのままでいいんだって思えて気持ちが楽になった。恩師のおかげかな、芝居を嫌いになっていたけどもう1回芝居するのが苦しくも楽しいものって思えた。

最高傑作はまだない、
それが達成できないから役者は辞められない

──アキさん的によくできた舞台とか役ってありますか?

いや〜、ないね。あの公演のここは良かったとか、あの役すごい胸に染みたわ〜とかは言ってもらえるけど。自分としては毎回反省ばっかりやし、うまく出来たって思うことはほぼないね。上手くできたっ!最高やった!って思ったら多分私、芝居辞めていると思う。

よく役者で言うのが蟻地獄に入っていくみたいな感じで、一歩芝居の道に踏み入れたらもう出られないっていう……魅惑じゃないけど、何か抜け出せないものが芝居にはあると思っていて、「この役は今までで最高に良かった!完全やり遂げた!イエス!」て思えたら大満足してすっぱり辞められるかもしれないけど、全然そういうのはない。歯痒いよ。(笑)

──そうなんですね。私、アキさんが2018年に一人芝居したのを観て、アキさんついに自分のやりたいことして、一区切りついたかなと思っていたんですけど、違ったんですね。

実は一人芝居はどっちかというと好きじゃないねん。あれは色々タイミングが重なって、好きな作家さんとか演出さんとかダンサーさんに関わってもらえることなんて今後ないと思って、偶然に恵まれた機会に乗っかってやってみた。一緒にやろうって声かけした役者さんもいたけど、たまたま一緒にやる人がおらんかっただけやねん。思い出しても反省しかないけど、結果的にやってよかったと思う。今まで応援してくれた方々にその時できるすべてをもって全身全霊を観てもらえたし、感謝も伝えれた。一方で、自分の力のなさ加減もわかった……

舞台をお手伝いしてくれたり、台本書いてもらったり、演出してもらったけど結局最後舞台に出てる時って私一人しかいないから、当然みんな私に注目するのね、それで面白く感じてもらえなかったら、これ私の責任やんって思ってめっちゃ怖かったし、寝られへんかったと思う。

──確かに、責任重大。

そう、その怖さっていうのをここ数年ずっと感じていて、一人芝居する前からそういうのは薄々感じていたけど、やったことでより一層強く感じるようになったかも。演出家さんとか作家さん、照明さん、音響さん、大勢の人が関わる中で表舞台に立つ役者の私。みんなの想いを背負ってるというと大袈裟かもしれないけど、生身の人間も1つの公演を創り上げる一部であるっていうことにプレッシャーを感じるようになった。そして、お金と時間を使って観に来てくれているお客さんがいることは、ものすごくありがたいことなんだと気づいた。

コロナになってからより一層、お客さんと役者が出会って1つの公演を終えることって尊いことなんだなって思うようになった。だからこそ今は芝居ができることに感謝せなあかんって思うし、責任持って舞台に立たなあかんと思っている。

鼻水垂らして舞台楽しんでた時代もあんねんけどな。色々知って、いろんなこと考えるようになってしまったんかな……

いつまでたっても良く見せたい、欲があるから頑張れる

──映像(ドラマや映画の収録)と舞台、どちらも出演するようになったと思うのですが、それぞれ演技するときに何か違いってありますか?

舞台の場合は、稽古を何ヶ月かやって本番に挑むけど、映像は1シーンずつ撮るから突然舞台に立たされるようなもんかな。舞台だと公演中は舞台上で生き続けられるけど映像だと一瞬。私なんかまだまだ出番が少ししかないから、周りの役者さんと関係が作られてない状態で放り込まれる。もちろんその役とは向き合ってはいるけど「はい始まります!」「カット!」ってあっけなく終わる寂しさはあるかも。まだまだ緊張の方が多いけど、なんか物語を強制終了させられている感じかな。後で編集で繋がるんだろうけれども、気持ちが終わらない。まだ映像に慣れてないっていうのもあるかも。

舞台だったら、稽古で他の役者さんと長く時間を過ごしてきているから、周りが助けてくれる存在になったりするけど、映像だと収録日に相手と初めてお会いするから、自分を良くみせたい欲も出ちゃうんだと思う。ほんまはもっとどしっと構えてたいけど、自信のなさが出ちゃうのかな……

──そう考えると映像の方がより演技力とか集中力が求められそうですね。大変だ。

昔は一人だったけど、
今は一緒に成長できる仲間がいる。

──ちなみに、今後してみたい役はありますか?

ホラーはまだ出たことないから、ホラー映画に出たいっていう夢はめっちゃある。たぶん怖い漫画が好きで、魔夏少女の女優さんみたいになりたいっていうのはまだ諦めてないから、怖いドラマとか映画には出てみたい!

怖い物語ならどんな役でもいいけど、しいて言えば普通だと思ってた人が、夜中に死体を煮込んでるような奇怪な感じの役とか。“冷たい熱帯魚”て見たことある?ああいう世界感。出来上がり見るの怖いと思うんやけど好きやねん。(笑)

──怖いの私見れないので、アキさん出ても観れないかもですね。(笑)

あと、昔立ち上げた“Deco”というユニットの活動は今後またやりたいと思っているし、一人芝居みたいな自分発信の舞台は続けて行きたいなと思っている。

“Deco”で公演した時とか、一人芝居の時にもまっちょ(私のことをまっちょと呼んでいる)にチラシ作ってもらったり、カメラマンの友達にも関わってもらったりして、私が役者を続けていくことで周りの人たちの活躍できる場ができるっていうのも私にとっては役者を続ける意味があると思っているし、続ける原動力になっている。だから、また次何かやる時は、まっちょとも一緒にやりたいと思ってる。



自分の小さい頃本気でなれると思っていたのは、私の場合“トマト”だったなと思い出した。あの時は本当にそうなりたいと思っていたから、小さい頃の思い込みって強いんだなと思うし、それが本来の自分のやりたいことなのかも知れない……
大人になると周りと比べたり、経験的にやる前から諦めてしまったり、いろいろ知ってしまい、自分の中でNOを出している自分がいる。NOを出さずに、願った事に素直に突き進んでいけるピュアさを取り戻したいなと思いました。


[撮影場所]中之島 バラ園


楠瀬 アキ
1977年生まれ、 大阪府枚方市出身。
小学生の時に魔夏少女を見て女優を目指す。
数々の劇団を経て現在は関西を中心に舞台やテレビ、映画、CMなどでも活躍中。
タイ語を勉強してタイに遊びにいくほどアジア料理が好き。

BEC ENTERTAINMENT 所属
twitter @Norakirinakki
instagram @kusunoseaki


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