100万円払って得られた自信と知覚過敏
2年半ほど前、大学3年生のときに歯列矯正をはじめた。
当時、私の歯は前歯の2本が少し前面に出ていた。
また少し開咬気味だったので前歯で肉を噛みちぎることができなかった。
しかし、学校の定期健診では特に問題がなく、両親にも「あんたは歯並びが良いから、ちゃんと歯磨きしてキレイに保ちなさい」と言われ続けてきたので、私も歯並びについて特に気に留めたことはなかった。
矯正をはじめた経緯
大学1年生の頃、私は韓国アイドルにドハマりしていた。
小学生の頃から自分の顔にコンプレックスを抱いていた私は、まるで人形のように整った彼らの顔に憧れを抱くと同時に、コロナ禍ということもあり自宅で鏡、すなわち自分の顔と向き合う時間が増えた。
そんなある日、何の話をしていたのかよく覚えてはいないが、同じ韓ドルオタクの友人に「たしかに、ちょっと歯並びは悪いよね」と言われた。
衝撃が走った。
それまで何の疑念も抱いていなかったが、よく見れば確かに韓国アイドルのそれとはまったく違う、ガタつき波打った歯が鏡に映っている。
この時初めて、自分の歯並びの悪さを自覚したのだ。
それからというもの、歯列矯正に関する情報収集をし、実際にめぼしの矯正歯科のカウンセリングへ何件も足を運んだ。
矯正費用の工面
そして、医者の視点からしても私の歯がガタつき開咬気味であること、歯列矯正は時間とお金がかかることを知った。大体100万円と2年間。
自分で工面するのは難しそうだったので、まず両親に事のいきさつをパワポ付きで説明し、お金を一部だけで出してくれないかと交渉した。
あえなく失敗に終わった。
(一応、矯正代に対する医療費控除額はいただくことが許された)
結局、毎月3万円の院内ローンを組み、自腹で矯正をはじめた。
さいわい、実家暮らしだったためアルバイトのお金をそのまま充てることができた。
今でもタイミングを見計らっては、「ちょっとでいいから……」と部分補填をお願いするが、両親の意見としては、
「学校の検診で異常なしだったんだから、美容目的のお金は出しません。」
と、一貫していた。
この「美容目的」に関して、私はずっと異論を唱え続けている。
矯正により得られた健康
歯列矯正のカウセ巡りをしていた時、ほとんどの医院で歯茎の腫れを指摘された。私自身も何度か歯磨き中の出血を経験していた。歯のがたつきのために、歯ブラシが届きにくい箇所に磨き残しがあったためである。
しかし、矯正後は雑に歯磨きしても出血とは無縁の、引き締まった歯茎が保たれている。
また、開咬部分の噛み合わせが良くなったために、歯を全体的にバランスよく使うことができ、肉を噛み切ることも容易になった。
そして何より、心の健康である。
歯列がきれいに揃ったことで、笑顔だけでなく、顔自体に自信が持てるようになった。
八重歯だとか、ちょっと歯並びが悪い方がチャームポイントで可愛らしいとされる感性があることは十分に知っている。
カネコアヤノも『君って歯並び悪いね今気づいたよ』と高らかに歌っており、私はこの歌詞が好きだ。なんだか嬉しい気分になる。
だが私は私を愛するために、歯並びをどうしても綺麗にしたかった。
別に目や鼻、輪郭に満足していたわけではなく、むしろ歯並びは友人に指摘されるまで気に留めていなかったぐらいなのに。
何故だろう、食事機能や清潔感に直結するからだろうか?
今考えても具体的な理由を見出すことは出来ない。
ただ、矯正してからというもの、明らかに顔面コンプレックスが低減した。鏡と向き合い自分の顔の欠点探しをする時間が98%減した。(今でもたま~にすることがあるが、自分なりに落としどころを見つけてすぐにやめる。)
健康の代償:健康
ただ、代償として知覚過敏になった。
矯正中は何ともなかったのだが、ワイヤーを外し、保定装置をつけるようになってからというもの、常温の水を飲むだけで歯が痛い。
矯正のリスクとして知覚過敏があることは知っていたが、まさか治療後に生じるとは想像していなかった。
現在、地元の歯医者で塗り薬を塗ってもらい、シュミテクトで歯磨き治療をしているが、まだ治る気配はない。
調べてみると、矯正で起こる知覚過敏は2週間から1か月かけて治ることがほとんどだそうだ。一向に治る気配はないが、治療を始めてちょうど2週間程度なのでもう少しの間、期待を抱いてみる。
今もホットコーヒーを飲み、じんわりと痛みを感じながら執筆している。
その度に、支払った100万円の矯正代や、矯正中に何度も生じた口内炎、友人との食事の度にワイヤーに挟まった食べ物を舌でこっそり取っていた思い出がよみがえる。
あんな苦悩を経験してまだ尚、私は歯に苦しめられなければならないのか。
沸きあがる怒りを噛みしめながら、私は今日もシュミテクトで歯を磨く。
鏡には綺麗な歯で「い」の口をした私が映っている。