晩秋に読みなおす「三島由紀夫」②小説『宴のあと』
三島由紀夫には多くの作品があります。
おすすめの作品は何ですか?と問われたら、私としては『宴のあと』を挙げたいと思います。
あらすじ
あらすじなどは、wikiにも出ています。
村田亜矢子さんのnoteで裁判資料でのあらすじがあります。コメントも興味深く勉強になります。
愛知県蒲郡市も登場
たった数行なのですが、愛知県蒲郡市も小説の舞台になっているのも私としては魅力の一つです。
三島由紀夫の小説では、ふたつの概念を対比させた比喩表現が多く出てきます。
昭和天皇も宿泊されたことのあるクラシックホテルはいわば西欧や近代のイメージです。小説の中の「野口雄賢」がいかにも好みそうな貴族趣味を感じます。一方で竹島の中の八百富神社は、田舎の「日本」や海を印象づける「福沢かづ」のイメージです。この二つが数行で対比されています。
画像でならべるとこの対比が非常に面白く感じます。
西尾幹二先生の解説
また、私が気に入っている点として新潮文庫本で西尾幹二先生が解説を書いていることです。これが小説に匹敵する評論になっており、文壇デビュー間もないころの若き日の西尾先生の文芸評論としても非常に興味深い内容で、現在に至るまでの通底するものを感じます。
時代背景としての「革新」
この小説の時代背景としての昭和30年代の革新のイメージには注意が必要かもしれません。戦後日本には左派でなければ知的でないという「革新幻想」が一時期ありました。今や政権交代が起きるぐらいに、当時は思われていたようです。今風に言えば「リベラル」と言う表現かもしれませんが全く違います。
今の「リベラル」(と称する勢力)は、私からするとダブルスタンダードの陰湿、弱者目線の偽善、弾圧を平気で行う卑劣、頭がお花畑で幻想を抱いている人たちですが、当時の認識は根本的に違います。
この時代の雰囲気を直接知らない私としては竹内洋氏の著作が非常によくわかる解説になっています。
この小説のヤマ場は野口雄賢(≒有田八郎)が革新陣営から担がれ、都知事選に出て敗北するのですが、当時は革新陣営の勝利のほうが可能性としては高かったのです。
竹内洋氏の『革新幻想の戦後史』では有田八郎が新潟県の佐渡島に生まれてからの人生を取り上げつつ、戦後の革新幻想の誕生を丹念に追っています。
政治家のイメージ
この革新に担がれるインテリ・野口雄賢(≒有田八郎)と保守系の悪徳老政治家・永山元亀(≒吉田茂)や佐伯首相(≒佐藤栄作)の絶妙な対比も魅力です。
政治をめぐる人物像・キャラクターは現在の政治家を論じるだけでも楽しめるネタなのですが、「野口雄賢」にイメージとして近い現代の政治家は誰だろうと考えてしまいます。私が思いだしたのが、宮沢喜一さんでした。
卓越した英語力の一方で、漢籍に強い。それでいて政治的手腕には疑問符が付くという点で、作中の野口と似た点があるような感じがします。
一方で失礼ながら悪徳政治家(っぽく見られる)麻生さんや二階さんなど、現在の政治家でも有象無象がひしめいていると言ってもいいかもしれませんん。しかし、この愚直で謹厳実直でインテリなキャラクターが現在の政治家にはなかなかいないように思います。「悪徳」のしぶとさに比べて滅んだ「革新」を懐かしむ、という点でも「昭和」を感じます。
もし、映画化するなら
私としては、原作を忠実に反映した映画を(勝手に)希望したいところです。以下のキャストはどうでしょうか。映画「春の雪」での原作にできる限り忠実にした形であればと思います。
映画化したときに配役を誰にするかを考えるのも小説を読んでの楽しみの一つです。
「福沢かづ」は鈴木京香さんでしょうか。
2007年のドラマ「華麗なる一族」での高須相子役の野心を持った狡猾さが印象に残ります。
これが「福沢かづ」に通じます。
「野口雄賢」は中井貴一さんでしょうか。中井貴一さんはコメディドラマまでもこなせる名優です。ここで謹厳な野口雄賢ではどうでしょうか。
トップ画像は小説の中では「雪後庵」になっている東京都港区の料亭「般若苑」。先年、取り壊されて今はもうありません。まさに「宴のあと」です。