にゃんこう

人生で一度は本を出してみたいと夢に見る物書き。短編小説を投稿しています。 冬はコタツがなければ生きていけないにゃんこうです

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  • きっと元気がでる短編小説

    元気が出るような短編小説の本棚になります。

最近の記事

短編小説#12 赤は止まれ。青は進め。黄色はアナタに口づけを

 私の制服が色褪せていることに気が付いたのは卒業式の日のことだった。  つま先から舞台まで一直線に敷かれたレッドカーペット。端っこには園芸部が手塩をかけて育ててくれたパンジーの花壇がフットライトのように並べられていた。吹奏楽部が奏でるファンファーレを合図に私たちは軍隊のように列をなして歩いていく。塗装の剝がれた体育館の扉を名残惜しそうに指でなぞって私は歩きはじめた。  体育館を揺らすほどの盛大な拍手は今日が卒業式の本番であることを嫌でも実感させてくる。だからといって涙が出る

    • 中編小説#1(3/6) 警視庁機動隊爆発物処理専門部隊ボマー川崎

       私は眉をひそめて彼の言葉を待つ。 「残りの半分は無作為に選ばれた人間の心臓に繋がれています。そのコードを切れば心臓が裂けるそうです。実際に一人…目の前で亡くなりました。豊部長です。部長が命と引き換えに証明してくれました」 「そんな…豊部長が…」  豊部長が死んだ。動揺が隠せずに目線に落ち着きがないのは自分でもわかっていた。胸をぎゅっと押さえるも、その苦しさは増すばかりだった。 「コードが繋がれている人間の中にも警察内部の人間はたくさんいました。僕の同期だけじゃない、佐

      • 中編小説#1(2/6) 警視庁機動隊爆発物処理専門部隊ボマー川崎

         それは突如として上空に現れた。人はそれを未確認飛行物体と呼ぶ。  ペガサスのような空想上の存在だと思っていた未確認飛行物体が、人間の目にはばかることなく姿を現した。己の眼でその存在を認知してしまったことで一気に血の気が引いた。それはきっと私だけではないはずだ。  未確認飛行物体といえば銀色でコーティングされた円盤型の飛行物体を思い浮かべるだろうが、上空を支配しているソレはまったくの別物だった。別物であっても未確認飛行物体には違わない。そのフォルムは飛行船のような丸みを帯び

        • 中編小説#1(1/6) 警視庁機動隊爆発物処理専門部隊ボマー川崎

           警視庁機動隊爆発物処理専門部隊に所属していた私は、本日をもって退職した。不祥事を起こして懲戒免職となったわけではない。ただの自己都合退職。6年ものあいだ爆弾処理に携わってきた私の心はもはや限界だった。 「本当辞めてしまうんだね、川崎さん」 「あははっ、泣かないでください。豊部長の悲しそうな顔を見ると後悔が残ってしまいますから」 「ああすまない」  大のおとなの男が涙ぐんでいる。普段は寡黙で表情が硬く、それでいて取り調べでは鬼のような形相なのに、いまの彼は卒業式に涙を我慢

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        • きっと元気がでる短編小説
          3本

        記事

          詩#5 お休み

           僕が「今日の晩御飯はハンバーグ食べたい」と言ったら、お母さんは「それじゃあファミレスに行こう」と言った。  次の日は「唐揚げが食べたい」と言ったら、お母さんは「買ってきたわよ」と言って揚げたての唐揚げを買ってきた。  ほんとはお母さんの手料理が食べたかった、僕はそのことを伝えるとお母さんは嬉しそうにこう言った。 「GWはお母さんもお休みなのよ」

          詩#5 お休み

          詩#4 十月桜

          桜とは人生の変わり目を表す。 三分咲きは別れを惜しみ。 五分咲きは未来を語り合い。 八分咲きは胸を躍らせて。 満開の頃には未来へ歩き進める。 そんな僕は十月桜。 ただ少し、みんなと違うだけ。

          詩#4 十月桜

          詩#3 しんじゅ

          「おかあしゃんおかあしゃん!」  ある晴れた公園で娘と一緒に散歩をしていると、とつぜん娘がわたしの服を引っ張る。 「どうしたのゆいちゃん?」とわたしが声を掛けると。 「おかあしゃんにぷれぜんと! めぇ、つぶって」と天使の笑みをうかべる。  ああ、なんて可愛らしいんだろうか。  わたしは言われたとおり目をつぶる。すると娘はわたしの手に触れ、球体を持たされる。 「しんじゅ! さっきそこで、しんじゅ見つけたの!」  真珠となっ! 「あら嬉しい、どれどれ……」  それ

          詩#3 しんじゅ

          詩#2 ユメ

           小学校の卒業アルバムに君は『夢』を書いた。  中学校の卒業アルバムには偽物の『夢』を書き、  高校生の卒業アルバムには現実味ある『夢』を書いていた。  そして君の命が尽きる時、君は自身の執筆した本を持って静かに眠りについた。  ねぇ、君は本当の『夢』を叶えられたのかい?

          詩#2 ユメ

          短編小説#11 濡れる女

          私はいま、雨に打たれている。 傘を差さず雨に打たれている。 笹の葉が風に揺れて擦りあっているような。草原を風が駆けていくような。 上品な雨音を肌で感じながら聴いている。 高低差のないやわらかい雨音は社会の雑音を遮断してくれる。 水を含んだ服がカラダにへばりつく。 その感覚が気持ち悪くて不快に思う人がいるらしいが、私はそう思わない。 誰かに体を抱きしめてもらっているみたいで心が温かくなる。安心感を覚える。それで満たされてる私を滑稽だと笑う者は正常者であろう。私がおかしい

          短編小説#11 濡れる女

          詩#1 孤独

          連絡を返さなければ沢山の連絡が来る。 僕はごめんと笑いながら返事をした。 入院すれば友人達がお見舞いにやって来る。 僕はありがとうと微笑んだ。 部屋に引き籠れば、元気付けようと外へ連れ出してくれる。 僕は心配掛けてごめんと言った。 結局、いつまでもたっても僕は孤独になれない。

          短編小説#10 ボンジュール学園BL化計画

          『ボンジュール学園』とはいわゆるお嬢様学校であった。  純白のお城のような校舎。教室や廊下、制服ですら穢れの知らない白色で統一されている。  セキュリティは最新の技術を駆使したものを使用。挨拶も『ごきげんよう』から始まり『ごきげんよう』で終わる。徒歩で登下校する者は誰ひとりおらず、送迎の待ち時間はアフタヌーンティーを嗜む。そんな絵に描いたようなお嬢様学校がこのボンジュール学園である。  だが昨年度から学校の方針でボンジュール学園は男女共学へと変わった。 『恋を知れ、さす

          短編小説#10 ボンジュール学園BL化計画

          短編小説#9 東京instrumental

          『東京』と聞くだけで鼓動が速くなった。  勝手に想像した東京の街で、自分が活躍する妄想をして一日を終えたこともあった。そんな東京に憧れている田舎娘が私、津島柚子である。    東京へ行けば芋女の私でも輝けるんじゃないか。憧れの向こう側にはハイヒールを鳴らしながらビジネスウーマンとして働く私が見えた。その背中を見つめながら上京した20歳の冬。都内の小さな印刷会社に就職が決まって、田舎とのギャップに苦労しながら も東京色に染まりつつあった。  田舎娘が東京に上京し、見知らぬ地で

          短編小説#9 東京instrumental

          短編小説#8 End Summer 後編

           夕刻。美しい夕陽を横目に高速道路を走っていた。疲労困憊のわたしは助手席で眠気と戦っていた。車から流れるバラード曲が眠りを誘う。双葉も眠いはずなのにひとつも文句を言わずに慣れない運転をしてくれている。彼氏ができるとしたらこんな男がいいな。 「湯崎は将来の夢とかあるのか?」  双葉は落ち着いた声でそう言った。わたしは「んー」と唸る。 「俺は教師になりたいんだ。あわよくば水泳部の顧問にもなりたい。湯崎は?」 「わたしはアイドルになりたかったなぁ。踊って歌ってちやほやされるア

          短編小説#8 End Summer 後編

          短編小説#8 End Summer 前編

           八月三十一日は夏休み最終日。  高校三年生であり受験生でもあるわたしの高校生活最後の夏休み。それなのに友人達との思い出作りなんて皆無で勉強漬けの毎日だった。    そんなわたしは最期の夏休みを満喫したくて旅行に出かける決意をした。和室部屋のタンスから蝶々がデザインされた白いワンピースと小麦色の麦わら帽子を取りだして着替える。そしてキャリーケースに荷物をつめて家を出た。 ―――ミーンミーンミーンミーン。  深海のような碧い空。大きな入道雲。日本特有のじめっとした猛暑と蝉の

          短編小説#8 End Summer 前編

          短編小説#7 さよなら、いなり寿司 後編

          「――それでね、いつか二人でいなり寿司のお店を開業しようね。それにはまずは節約だね。家賃の安いアパートに二人で住もう。そこでコツコツお金を貯めながら真田君との子供を授かって、いつか一軒家で家族みんなで幸せに暮らしたいね。あ、子供はね女の子と男の子が欲しいの――」  彼女の妄想話は右耳から左耳へと通り過ぎていく。勝手に決められて語られる未来に気持ち悪さを覚えることすら、今の僕には余裕がなかった。  太ももが痛みを通り越して麻痺してきている。もう痛いのは嫌だ。早くこの場から解

          短編小説#7 さよなら、いなり寿司 後編

          短編小説#7 こんにちはいなり寿司 前編 

           顔も知らぬ美術部の先輩が残した『青春朝露の如し』という言葉が僕は好きだった。    学校の廊下のコンクリート壁に彫刻刀で刻まれたその言葉は、ヒトの人生は短くはかないことを例える四字熟語、『人生朝露の如し』を改変した造語だった。青春は短くてはかない、ゆえに大いに楽しめ後輩よ、という先輩からのメッセージである。複数人の教師に激怒されたという先輩の卒業作品。  その先輩はどんな思いでその言葉を刻んだのだろう。  楽しい青春を過ごしたから?  それとも後悔が残る青春を過ごしたか

          短編小説#7 こんにちはいなり寿司 前編