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#8 ベテラン経営者が語る「いま20代だったらどうする?」

NUTSはインターネットが普及し始めて間もなくオンラインショップを始め、20年以上その営みを続けてきました。もちろん、すんなりここまで来られたわけではありません。資金面の苦労や、取引先の消失など、幾多の壁を乗り越えいまに至ります。

創業者であり代表のヌマオが、SEIKOの製品開発という大きな組織を辞め独立したのは90年代後半ごろ。会社に所属することに、今よりうんと大きな信頼が置かれていた時代のことです。

それから20年あまり経ち、めまぐるしく流動的に社会がアップデートされるようになりました。何が正しく安全な道なのか、わかる人はきっと誰もいません。

これまでNUTSの過去振り返るインタビューを続ける中で、編集担当のカタヒラはあることに興味を持ちました。それは、社会人生活の長い年月を“挑戦”に掛けてきたヌマオがこの不確実性の高い時代に“若者”だったとしたら、どんなことを考え、どんなことに取り組むのかということ。

そんなお話は、多くの人が働き方に悩むこの時代のヒントになるかもしれません。

○こんな人におすすめ
・働き方に悩む若手
・アイデアを探している人
・経営に興味がある人

ベテラン経営者の“若手時代”

「僕が20代,30代の頃、好きだったのは、今も変わらないけど、やっぱりデザインだね。デザインっていうのは、ファッションやアート、建築などいろいろ。

大学では経済学部だったから、デザインを学ぶ機会なんてなかったんだけど、SEIKOに入社して企画部に配属されて働くうちに段々と興味を持っていきましたね。

でも、腕時計のデザインってどれも似たり寄ったりで。多くが丸型の文字盤の中心に針が配置されているデザイン。それがつまらないなと思ったんです。枠から外れた、違ったデザインの時計があってもいいんじゃないかって。例えば、アーティストにデザインしてもらうのもいいんじゃないか、とか。

だから、僕は変わった時計の企画ばかり出してました。あえて奇抜なものを作ろうとして。それが後に横尾忠則ウォッチなどに繋がっていったんだと思う。(詳しくは第1回目のお話

実際に、時計やものづくりの世界って、これが売れるという既成概念が作り手側にあるわけよ。サイズはこれくらい、文字盤のデザインはこう、とか。

でも、結局はどんなものが売れるかはわからない。だから守りに入っちゃうんだよね。

僕が企画として出してたものは、その固定化されたデザインから外れたものばかりで、ボツになったものも多かったかな。売れたものもあれば、全く売れなかったものも当然あった。

SEIKOの商品チャートみたいなものがあったとしたら、スタンダードから外れたところにある時計は大体が僕のものだと思うよ。でも、その一方でSEIKOのザ・スタンダードである“グランドセイコー”の復活も企画したんだけどね(笑)」

コストがかかる物事に対して、決裁権を持つ者が慎重になってしまうのは当然のこと。製品開発のように額が大きいものなら尚更です。一方の企画を提案する側も、必ず売れるものを作りたいと考えるのが普通です。

こうやって決裁側と企画側の双方が“売れる勝ちパターン”を求めてしまうことで、過去の実績に頼る構図が生まれる。これは珍しくありませんね。とはいえ、それに反発して予測しづらい変化球だけを押し出していくことも難しい。

じゃあどうすればといっても、製品開発の当事者になったことのない私には正解なんてないのですが、一つ感じるのは会社はいつでも勢いのある意見を求めているということ。それが本当に優れたものかは別として。なぜなら、若手の、勢いある意見があることで議論が前に進み始めるから。そしてそれが新しい議論に呼ぶから。

社会において若手に必要とされるのは、自分の意見を持ち、表現していくということだと思います。ヌマオさんのように、奇抜なデザインを“あえて”出すことは、ある種の社会への問いかけなのかもしれません。

90年代に起業を経験した人が、いま若者だったら

会社員としてもやむことなく“挑戦”をしてきたヌマオさん。もし、この不確かな時代に若者だったとしたらどんなことに興味を持ちそうか、訊いてみました。

僕がこの時代に2,30代の若手だったとしたら今の僕と同じで、ずっと会社では働かないと思うよ。それに、いまはいろんなことが始めやすくなっているじゃない?だから会社に入ったとしても、早くに独立しているかもね。

いまは学生ベンチャーを立ち上げる人も多いし、もし僕が就活生だったら、まあ大企業にはいかないと思う。

昔と比べて、初めの資金がなくてもやれることが沢山あるでしょ。ネットも発達してるし。それなら尚更、僕は早々に会社は辞めて自分が始めたいことをやってたと思う。」

“資金がなくても始めやすくなった”。ヌマオさんのお話を伺う中で、かつてと今の社会の違いで最も大きいのはこれではないかと感じていました。

ヌマオさんは資金面でも商品の調達面でも、並々ならぬ労力を費やしてきたことは連載でお届けしてきた通り。販路だって信用だって、自分で作り上げなければならなかった。

でもいまは、初期費用0円で始められるECサイトがあったり、低ロットで自分の好きな商品を作れたり、いろんなことができます。磨けば光る小石のごとく、世の中にはチャンスが転がっているのです。

ゴルフ業界にある可能性

最後に、もしヌマオさんがEC以外の仕事をするなら、どんなことをしたいのか聞かせてもらいました。いまある日常をすこし俯瞰してみると、思わぬアイデアがあることに気付かされます。

これまでやってきた仕事とは別の何かをやるなら、好きなゴルフ関連の仕事をやってみたい。

日本のゴルフって古いなと思うんです。コースや設備にお金がかかりすぎているから、利用料金が高い。これでは新しく始める人も増えないし、まさに旧態依然としてるんです。

一方で、アメリカにはもっと小さな施設があったりする。日本みたいに何人かでコースを周るのではなく、1人でも気軽に楽しめる。小さなコースがいくつもあるから、打ちたいときに行って好きな時に帰ってこれるみたいな。当然、料金も安い。日本にもそういった施設は一部にはあるんだけど、もっと身近に増えてもいいと思ってる。

日本には、ゴルフの練習施設として打ちっぱなし場があるじゃない。それはそれでいいんだけど。ゴルフで大事なのはグリーン周りのアプローチなんだよね。どうボールをグリーンに乗せて、パターに繋げるか。そこが一番スコアに差をつける。だから、その練習をもっとできるようにすべきだと思う。

例えば、潰れそうなゴルフ場を丸ごと練習場にしちゃって、一つのホール時間貸で自由に使って練習できる、みたいな。ドライバーの練習とか、グリーン周りとか、自分が練習したい部分を重点的にできるようにする。

それか9ホールだけのコースを作るとかね。18ホール全て周らなくても十分楽しいし。正直、いまのゴルフって長くて大変だから。朝早くに出て、コース周って、食事して、お風呂に入ってというのを毎回やるのは結構なものでしょ(笑)

他にもウェアや、キャディーバッグなどもあまりいいデザインのものがなかったりするし、まだまだ可能性は秘めていると思う。

全体的にもっと新しくて楽しいやり方があるんじゃないかな。

(取材・編集 カタヒラ)

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