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本屋が成り立たない世界で、それでも本を作って届けるということ。|独立日記 本屋への道063

2025.2.13(木)

登録してから2ヵ月ほど経って、ようやく今日Amazonアソシエイトの申請が降りたので「Amazonアソシエイトに参加しています」という文言を自己紹介のところに掲示する。

さて、私のアフェリエイト、そしてAmazonについての考えを整理しておこうと思う。

原点に戻って考えると、私が最終的に目指しているのは、リアル本屋である。今のところ、ひとり出版の事務所の本棚を公開するというイメージで考えている。

「アフィリエイトなんて、やってる場合なのか?」である。なぜなら本屋衰退のやり玉にあげられることも多いAmazon。リアル書店の敵に塩を送るような行為ではないのかと。自問自答してみる。

お客さんがAmazonで買うようになったから、町の本屋が衰退したのではないか。その流れは否定できない。ではAmazonと絶交すればよいのだろうか。しかしそれも否である。

本を巡る事態はそれほどシンプルではなく、ややこしくて、しちめんどうくさい状況になっていると思うのだ。ぐちゃぐちゃに絡まった糸をほぐすように、様々な角度から考えたいと思った。

今まで私が本と関わってきた立場を振り返ってみたい。

まず読者から始まった。そして書評を書き始めた。小説を書いて挫折した。本を売る人として書店員になった。本を作る人として編集者になった。自分で作った本を売るための営業・広報・販売を担当した。出版部の採算が取れるよう足掻いた。会社内という枠組みで継続する限界を感じ、独立を志しているのが今だ。

趣味として、職業として、ライフワークとして、複数の立場から本と関わってきた。読者、レビュワー、書店員、小出版社の編集・営業・広報と立場が変わるにつれ、本に対する考え方は目まぐるしく変化した。

もし私が、個人書店の店長という立場を経験していたら、打倒Amazonになったかもしれない。私とAmazonとの関わりは、本を作る人として編集者になった時から始まり、作った本を売る営業時期にもっとも関係を深くした。それゆえ巨人のような書店のライバルではなく、大口取引先のひとつの選択肢だったのだ。Amazonのアフィリエイトは、出版部のHPを更新していた時に経験したことがある。そこでも書評をしていた。

小出版社を運営していた時には、常に売り先を増やすために悪戦苦闘していたように思う。2010年代の小出版を巡る状況としては、大手取次と口座を持つのは今より(今でも)困難だったからだ。

大手取次に一任して全国の書店に配本、営業周りをするという、出版社の王道ルートは歩めなかった。最初は地図共販という専門取次に口座を持ち、そこから仲間渡しで各書店まで届けていた。

仲間渡しとは「出版社→小取次→大取次→書店」というルートで、2社取次を間に入れることで小取次と直接取引のない書店にも卸せる仕組みである。

紙の本を売るために、取次経由、書店直取引、自社のオンラインショップでの販売、コミケなどの即売会、イベント販売などをやっていた。紙の本の販売以外にも、noteでの有料記事販売、自社ブログでの書籍アフィリエイトなどを組み合わせて、なんとか収入源を確保していた。

それでも、利益はほとんど残らなかった。きちんと残ったものは、疲労だ。

会社員なので、出版部以外の仕事も半分ぐらいはあった。その代わり協力してくれる社員もいたので、トータル1人分の労力での運営だったと思う。体感としては、出版と書店のセットで独立し、1人分の人件費(自分の給料を大幅に下げる)を賄うということなら自転車操業にはなるがギリギリやっていけるかもしれないと思うに至った。

この一連の経験から、自分への教訓として導き出されたことは、複数の収入源を持つのは前提であるということだ。私の能力では、Amazonの倫理的な是非を問うている余裕はなかった。

ただ、倫理的な是非についても考えておくべきであろう。

オンライン書店が隆盛したのでリアル書店が潰れたという論。それは自然の摂理という側面もある。消費者の好みの変化による部分も大きいし、時代の変化やコロナ禍など外的要因も影響した。本屋だけではなく小売り業全般が直面している課題といえる。

それよりも出版業界が抱える構造的な部分で問題視したいのは「掛率格差」である。これは出版業界用語ではなく、いま思いついた造語だ。どういうことか。

出版社からAmazonへの卸値は、町の書店と同じなのかというと、まったく違う。ケースバイケースだが、私の経験では約20%違った。返品可能で6掛に近い利率である。簡単にいうと、1000円の本を1冊売ったら、町の本屋では200円しか本屋の儲けは出ないが、Amazonだと400円の儲けが出るということ。

出版社の立場からすると、Amazonという書店はべらぼうに掛率が高いうえに、美本の基準も厳しく出庫スピードも問われる。わがままな巨人である。しかし本屋からしてみれば、Amazonに卸す掛率ぐらい書店のマージンを上げてもらわなければやってられない、である。

町の書店に8割、Amazonに6割。この掛率格差によって、ますます両者の差が開いているという側面もあると思う。

掛率の話をすると、Amazonへ卸すのと同率ですべての書店に出版社が卸せるような仕組みを取る必要があると、私は考えている。しかし物価が高騰して紙代も人件費も値上がりしているが商品価格をこれ以上あげられないことも鑑みると、出版社が取り分6割で運営できるのかもギリギリのはずで、死活問題となっている。

委託か直販かなどの契約面も含めて、越えなければならないハードルはたくさんあるが、改善すべきはそこ。掛率格差が是正されない限り、リアル書店の存続は年々厳しくなるだろう。

私はこれまでの会社での小出版社の運営は買取60%、委託70%でやってきた。どこの書店でも同一条件である。初めての取引でも、少部数発注でもスタンスは変えない。その方が管理面でも手間がかからず楽である。このスタイルが馴染んでいるのと、思想的な部分も含めて、独立してもそうしたいと思っている。それが死活問題であり、ペイラインギリギリであることも認識している。

だからこそのAmazonに対するスタンスだ。

私のこれまでの経験をもとにした感覚としては、巨大なAmazonや大手出版社と真っ向勝負しても勝ち目は無く、そうした巨大なものは便利であることが多いから、ツールと考えてうまく乗りこなすことが、小さき者の生きる術ではないかと思うに至った。

Amazonは書店からすると掛率が高いと感じるのだが、それは裏を返せば、本来自社の書店営業が担当している広報や営業や販売などを肩代わりしてくれるからだ、とも言える。

アソシエイトの仕組みは、出版社の営業もしくは書店員の仕事に類似する。本の良さを伝え、読者へと手渡す橋渡しの行為。それが書評であり、ポップであり、販促物や宣伝である。書店や出版社の社内に内包された仕事をアウトソーシングしているのが、アフィリエトシステムであると思う。

出版社で同様の営業広報の仕事に就けば、もっと給料はいいだろう。しかし、好きな時に、好きなように、好きな本をおすすめするなんていうことはもちろんできない。どちらかというと、売れない本や売りたくない本をどうやって売るかということに頭を悩ませることも多いのではないだろうか。

なのでアフィリエイトも悪くない、というかむしろ本屋の役割として見直されている「本を推薦して読者に届ける」という行為に対して、報酬が発生する機能だと私は認識している。だからやろうと思った。

最後にネットショップの利点もあげておきたい。会社で小出版を運営している時に、通販で実際に誰がどこから本を買ってくれるのかを知った。北海道の標津町、瀬戸内海の離島、鹿児島の南大隅町などなど。本をつくった場所から1000km以上も離れたところにいる読者に本が届くのだ。その場所には本屋がないことも多い。深く静かに感動した。

私たちはすでに近所の本屋で本が買えない、書店が崩壊しつつある世界に生きている。東京に住んでいると見えなくなってしまうが、本屋で本を買えない人はたくさんいる。本を届けることができる機能であれば、なんでも使ってみればよいと思う。

本と本屋が成り立たない世界で、それでも本を作って届けるということ。

それが自分のカルマ(業)であるような気がした。

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