『劇場版 呪術廻戦 0』五条悟の友愛と選民思想【中編※ネタバレ考察※】
※この記事は3部構成のうちの中編に当たります。
前編からお読みいただくと分かりやすい内容となっています。
以下のリンクからよろしくどうぞ。
【前編】
五条の心変わり —「友愛」という「選民」—
ここからは五条悟を軸に考察を進めていくぜ!
とある交差点の雑踏の中で夏油と話す五条悟。
この場面での会話は含みが多く、いまいち何が言いたいのか掴めない。
なので一旦ここでは2人の発言の解説は先送りにして、2人の行動について解説していく。
まずこの時点で夏油は追われる身であったため、雑踏の人々は五条から身を守るための肉壁、人質である。
もちろんこの行為は夏油の選民思想による「非術師がどうなろうが知ったこっちゃない」という発想によるものだ。
またそのような考えを持っている自分を追う(否定する)五条が非術師に危害を与えることができないことを見越しての行為であることも考慮すべきだろう。
〈この場面での夏油の思考〉
1.非術師がどうなろうが知ったこっちゃない
2.五条は非術師に危害を与えることができない
上記の2の考えに関して、実は夏油は大きな勘違い、見落としがある。
それは五条悟の「友愛」である。
こちらの4カットを描写順に番号を振りまとめた画像を見ていただきたい。
これらは五条に背を向けて去っていく夏油に攻撃を放つ素振を見せたがそれを止めた様子のカットだ。
これらのカットは何を意味しているのか。
それは先にも書いたとおり、五条悟の「友愛」である。
この「友愛」とはどのようなものなのか。
結論から書けば「お前(夏油傑)以外はどうでもいい」というものだ。
去っていく夏油の考えは「五条は私を攻撃したいが、雑踏が邪魔してそれができない」というものだが、五条の考えは全く逆で「傑、お前だから撃てないんだ」というものだと考えられる。
五条悟は雑踏の人々という〈弱者〉を撃てなかったのではなく、夏油傑を撃てなかったのだ。
五条
「雑踏の〈弱者〉なんかどうでもいい。
傑、お前だから撃てないんだ」
このような具合で五条が手を振り下ろした瞬間、五条の心の中にも「選民思想(強者生存論)」が宿っていたのだ。
(これは余談だが、日本文学において「夕日」という要素は「昼でも夜でもない」という意味でどっちつかずなもの、曖昧の象徴として用いられる。有名どころだと芥川龍之介『羅生門』とか。
上のカットは五条と夏油のどっちつかずな状態を暗示しているカットだと考えられる。)
次はなぜ五条が夏油を撃てなかったのかについてもっと深堀し、選民思想を持った理由を探る。
どっちつかず —〈強者〉の脆さ—
引き続き交差点での五条と夏油の対話場面を解説して、五条悟の「友愛」についての考察を深める。
この場面で夏油は五条に対してこのように問う。
このセリフは夏油の「実存の悩み」についての発露だ。
選民思想を持つようになる以前の夏油の自己肯定の方法は「自身が〈強者〉になり〈弱者〉から必要とされることで居場所を確保する」というものだった。
その考えに基づけば五条悟は確固たる実存を得ている存在になる。
しかも夏油の「弱者生存論」に対して「俺 正論嫌いなんだよね」と返せるほどに五条は〈弱者〉を必要とせずとも実存を確立できる(自己中心、自己本位な生き方ができてしまう)圧倒的な存在だ。
しかし本当に確固たる実存だろうか?
夏油は〈強者〉がいとも容易く〈弱者〉に転倒することを知っている。
だからこそ聞いてみたかったのかもしれない。
夏油
「君は〈強者〉であることで自己を肯定しているのか?
それとも私のように転倒などしないか?
〈強者〉を根拠とせず自己を肯定できているのか?
それともきっかけさえあれば〈強者〉から〈弱者〉になるのか?
そしてぐらつくか?
君には″弱い部分″があるのか?」
このように夏油はある種、五条と比べて自分が〈弱者〉であることを嘆いている。
実はこの時の夏油にも勘違い、見落としがある。
それは五条悟の圧倒的な孤独である。
先に「五条は〈弱者〉を必要とせずとも実存を確立できる圧倒的な存在」と書いたが、裏を返せばそれは五条が誰も必要と出来ず、他者を求めることに理由、言い訳、根拠を持てないことを示している。
理詰めで考えればだが、もし交差点の場面で五条が「俺には傑が必要だ」と言ってさえいれば夏油は懐柔されていたかもしれない。
しかし五条はそんな言葉を吐く理由、言い訳、根拠を持てなかったのだ。
だから撃つことができず、逃がすことででしか自身の心情を表すことができなかったのである。
しかしそれも夏油が五条の孤独を見落としたため伝わらなかった。
夏油の移ろいやすい「実存」による孤独とは対照的に、五条悟は圧倒的な〈強者〉でありながら、圧倒的な孤独に苛まれる〈弱者〉でもあった。
一旦ここでまとめよう。
夏油は今も昔も〈弱者〉を守ろうとしている
夏油は移ろいやすい性質を含んだ「実存」を持っていたため孤独に陥った
五条の心の中にも「選民思想」が宿っていた
五条は転倒しえない〈強者〉であるがゆえに圧倒的に孤独だった
夏油と五条は互いに見落としがあったため道を違えた
このような具合で五条と夏油は対照的な矛盾をはらみながらも精いっぱいにやって来たことがうかがえる。
しかしながら互いに、相手にも自分に対しても理解が及ばなかった。
以下のリンクから【後編】へとべます!
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