The Beatles 全曲解説 Vol.59 〜Baby’s In Black
「心の姉」アストリットへのエール “Baby’s In Black”
『Beatles For Sale』3曲目。
ジョンとポールの共作で、リードボーカルも2人で務めます。
ビートルズのオリジナルとしては初めて、6/8拍子で演奏されています。
ポールは、かねてからこういった表情の曲を作りたがっていたそうです。
たしかに、共作とはいえ作風はどことなくポール寄りな気もします。
サビが非常に印象的なこの曲。
「Baby’s in black, and I’m feeling blue」と、「黒と青」の対比が、リズムも相まって耳に残ります。
「居なくなった恋人を思う女性が黒を見に纏う」という表現から、タイトルの “Black” は喪服の黒であるということが分かります。
実はこの歌詞は、デビュー前からの友人であるアストリット・キルヒヘアについて書かれていると言われています。
彼女はメンバーのデビュー前の記録を、写真を通じて多く保存しただけでなく、マッシュルームカットを教え、当時の学生達の美的センスや教養を共有するなど、ビートルズのクリエイティビティに大きく影響を与えました。
そんな彼女は、当時のメンバーの中でも、とりわけ知的で神秘的な雰囲気を持っていたスチュアート・サトクリフと恋に落ち、婚約に至ります。
ところが、スチュアートは原因不明の脳出血によって、1962年に21歳というあまりに短い生涯を閉じます。
アストリットはその死にあまりに大きなショックを受け、カメラも持てず憔悴しきった時期が長く続いたそうです。
そんなアストリットを誰よりも気にかけ、強く励まし続けたのがジョンでした。
魂を抜かれたように希望を失っていた彼女にジョンは、「スチュのためにも強く生きなきゃだめだろ!」と、敢えて喝を入れるように訴えかけたそうです。
それがアストリットの立ち直りのきっかけになったのでした。
そんなアストリットの人生については、作家の小松成美さんのnoteや著作に詳しいので、ぜひ一度読んでみてください。
ジョンのアストリットへの想いと、ポールを加えた見事なソングライティングが合わさったこの曲は、二人のお気に入りとなりました。
ライブ活動でも、最後の最後までレパートリーに加わっていたそうです。
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