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【ドラマ】過保護から母なる慈愛の人へ……(過保護のカホコレビュー)

『過保護のカホコ』が終わってしまった……。

思えば、まったく期待せずに見始めたにもかかわらず、1話目から前のめりぎみでずずずと画面に引き寄せられ、最終回付近では麦野くん(演:竹内涼真)を向こうの世界から引っ張り出したい衝動に駈られた。いつのまにやらAIカホコもLINE友達だ(ときどき、突然の通知があってビビる)。

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過保護に育てられた女の子、カホコ(演:高畑充希)が、ある日大学で出会った対極的な育ちの青年、麦野くんと一緒に、立て続けに浮き彫りになっていく、自分たち家族(というか親族)のさまざまな問題点に立ち向かっていく……というのがドラマの大筋。

思い返してみると、話が進むにつれて印象が変わる不思議なドラマだった。

最初は、黒木瞳の上手すぎる過保護母っぷりに「これはサラバ毒母物語にちがいない!」と思いながら見ていた。少なくとも、三話目くらいでカホコが生まれて初めて親に反抗するシーンくらいまではそう思っていた。

すると今度は、麦野ハジメくんとの恋を成就させるべく奮闘するラブコメになった。ハジメくんは最初は意地悪男子かと思いきや、最終的に歴代ドラマヒーローの中で、一二を争うハイスペック彼氏へと成長を遂げた。

ハジメくんと両思いになって、やれやれと思っていたら、次は親戚たちが抱えるあらゆる問題が一気に表面化する(ここからハジメくんは、かっこよさとワンシーンにおけるインパクトは残しつつ、なんとなく影が薄くなった、気がする)。カホコはそれを解決するために自分の頭で考え、動くことをするようになる。親戚が結婚式のために教会に集うシーンは、まさに「ホームドラマ」の山場にふさわしかった。


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ドラマ全体を貫くものは、やはりというか当然というか、「カホコの成長」に他ならない。

最終回終了後、あれこれ感想をサーチしていたのだが(最近、ネオお茶の間につい入り浸ってしまう )、ちらほら見受けられたのが「カホコは結局自立してないのでは?」という話である。

家族たちに助けられて挙げる結婚式。
就職先は父方の実家が運営する託児所。

一見「やっぱり何もかも家族頼みかい!」とツッコミを入れなくなるのもわからなくはない。
でも、ちょっと待って欲しい。
やっぱり、この家族大集合ラストも含めて、これはカホコが大人になる物語だったのだと思う。

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人間、「子ども」の時期は、親かそれに代わる保護者の庇護下で生きていくことが避けられない。たとえ最低最悪な親であろうと、求めてしまうのは本能なのだと聞く。これは「依存」の時期であり、ハジメくんに出会うまでのカホコの姿だ。

カホコはハジメくん(社会)に出会ったことで、これまで親というフィルタを通して見てきたものが、自分にとっての真実ではないことを知る。このハジメくんにあたるものは、人によっていろいろだと思う。そして、血のつながりのない「他人」を愛し愛されることを知り、一方で血のつながりのあるイトちゃんからの激しい拒絶を受けることで、「自分=親、家族」という依存の図式から一旦離れることとなる。

で、ここからだ。

ハジメくんと「結婚」を決めたカホコ。
結婚とは一見すると、新たな家庭を作る→旧来の家族からの離脱、である。
が、先日うっかり結婚し、旦那を筆頭とする新しい戸籍に入ってみた身からすると、それってちょっと違うかも……と思うのだ。

依存から自立、そして「結婚」という、新たな家庭や縁を産み出したあとにやってくる次なる成長は、より大きなファミリーツリーに、能動的に関わっていくことなのではなかろうか。

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身内から愛され、他人にも愛されることが確認できたあと、もらうばかりの自分を卒業し、与える人となる。

カホコを例に考えれば、ハジメくんと結婚したことで、二人は根本家、並木家両方のファミリーツリーの末端へと組み込まれることとなる。
得てして、恋愛中は盲目的な二人きりの世界にこもりがちだと言うが、結婚すればそうはいかない。二人は「ふたり」という小さな共同体を脱し、互いの人間関係(ハジメくんに家族はいないが、施設の園長先生は親代わりとして描かれる)を共有し、より広い世界の中で生きていく。
カホコにとってはそれが、並木家を守ることであり、根本家の事業を共同経営することだし、ハジメくんにとっては並木家で一緒に暮らし、根本家の事業を手伝う(ひいては自分の出身施設と関わることにもつながっている)ことでもある。

結婚したら、一気に親戚が増える。
「私の知り合いではない」
と知らんぷりするわけにはいかない。あらゆる人からの厚意を受け、私の旦那は大人になったのだ。
カホコが根本家の事業を手伝うきっかけとなったのは、ハジメくんが養護施設の出身であることが一因となっている。

みんながもらったものを返していくから、社会は回っている。

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もちろん、毒親や虐待する大人が身の回りにいるなら、今すぐ逃げて縁を切った方がいい。
生涯結婚しない、家族を増やさないと決めた人だっているだろう。

その場合でも、友人とか、職場の仲間とか、そういう人たちと、やはり一本の木の枝葉が延びていくような関係を築くことになると思う。
先輩から教えられたことを後輩に返す。
友人から受けた親切を、別の友人に返す。
たとえ経済的、精神的に自立していても、もらう一方の人は、偏りのある存在に思える。

もらう人しかいない世の中は、成立しない。

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ちなみに、最終回に表札が出て来て気づいたのは、ネーミングのうまさだ。

「過保護のカホコ て!!」
「いとこのイトちゃんて !!」

と思っていたが、カホコの本名は「根本加穂子」。
何かを実らせる力はあるのに、親元に根付きすぎていて、それらが発揮できていない。

イトちゃんは、家族とは、放っておけば切れる可能性のある細い「糸」であり、よりあわせれば強く結びつけることのできる「糸」でもあることを教えてくれる象徴であった。

ハジメくんは「麦野初」くん。小さな麦の粒があるけれど、さあどうしよう、というイメージだ。

そして、最終回に誕生した「麦野加穂子」。
「麦」に栄養や手間暇を「加えて」、「穂らせる」。
まるで母なる大地のようなイメージに早変わりするのがすごい。カタカナで表されていたときには全然気づかなかった。

かくして、過保護のカホコは、家族や、多くの子どもたちを育み開花させる、グレートマザー麦野加穂子となりました。
すがすがしいほどのハッピーエンドに万歳しつつ、来週からの深刻なかほこロスに不安を覚えている。

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砂東真実
サポートをご検討いただきありがとうございます! 主に息子のミルク代になります……笑。

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