【映画レビュー】シン・ゴジラに描かれたものと描かれなかったもの
地上波でシン・ゴジラを見た。
三回目である。
いやー、飽きない。
なんでこんなに飽きずに、毎回同じところで盛り上がれるのだろうと思うくらい飽きない。
どちらかというと怪獣映画の類いは苦手だったのに。
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ゴジラを「見ている間」は、とにかくテンションが高かった。
「ZARAはどこ?」わくわくしました。
「内閣総辞職ビーム」叫びました。
「無人在来線爆弾!」言いました。
テンポが早く、膨大な情報量の台詞は、早口で喋ってくれとリクエストを受けた俳優たちによって無事映像の中に詰め込まれている。カメラのカットワークと場面転換もスピーディーで、放映中は耳と目がフル稼働。
人間、興奮したり盛り上がったりして心拍数が上がると、周りの時間が少々遅れて感じられるそうで、だとしたら徐々に緊張があおられる怪獣映画で、テンポのよい台詞と映像が流れるのは理にかなっていると言えるんじゃないか。
何よりこのテンポとテンションが保たれたのは、登場人物も私たちも、「ゴジラを倒せ!」という意識だけに集中できたことが大きい気がするのだ。
いろいろなところで書かれていることだが、この映画からは人間ドラマが極端に排除されている。
逃げ惑う市民はいるが、泣き叫ぶ市民はいない。
「地球はどうなってしまうの!?」なんて言う人もいない。家族の写真を握ってフラグを立てる人もいないし、自衛隊は「仕事ですから」としびれる一言で作戦を決行する。
叙情的な描写は、こちらの感情を持っていかれる。端的に言えば、気が散る。
あれだけの情報量を、断片だけでも拾ってストーリーについていかなきゃいけないんだから、とてもじゃないけど長谷川博巳と石原さとみのラブストーリーに共感している暇はないんですよ。
そんなものがさしはさまれていなくて本当に良かったなぁ……。
ゴジラに同情を挟む余地がないのも良かった。
「私たち人間が悪いのよ!」
と声高に叫ばれたら、ゴジラ沈黙の時のカタルシスが半減する。
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内蔵がそわそわするような気持ちになったのは、シン・ゴジラの放映が終了し、北朝鮮がらみのニュースが流れ出してからだ。
あれ? なんか、怖くなってきたな。
見ているときには全く感じなかったのに、見終わったら突然、じわじわと恐怖が湧いてきた。
「第五形態」という、尻尾の先に湧き出た人型の生き物の存在は、ゴジラがまだまだ未知の姿へ進化しそうなことを予見させる。
そしてあの崩壊した都市とインフラ、人口はどれだけの時間をかけたら元に戻るのであろう。途方もない時間と労力を思って、気が遠くなる。
その先のことなど、何一つ語られていないのに、ついつい想像をする。
怖い。
人知を超えたものに与えられる不安と絶望が。
ゴジラはフィクションの存在だと理解し、だからこそ先ほどまではきちんと楽しめていたというのに。
映画を見て、人が恐怖を感じるのは、怯え叫ぶ登場人物たちに共感しているから、というところが大きいらしい。
ホラー映画を楽しむ人の思考には、「怖がらされたい」というMっ気か「怖がらせたい」というSっ気のどちらかがあるからだ、という研究もあるだけに、あながち間違いでもなさそうだ。
とはいえシン・ゴジラはホラーでもスプラッタでもない。メインキャラクターの中には、ゴジラに対してあからさまな恐怖を浮かべる人すらいないのだ。
観客の目となるはずの長谷川博巳演じる矢口は、恐怖どころか、感情を表に出した回数も片手で数えられるほどで、多分意図的に、何を考えているのか描かれることはほとんどなかった。
そう、この映画の中には、共感できる恐怖がない。
だとしたら私が覚えた恐怖は、知らず知らず揺さぶりをかけられた感情中枢が、自ら生み出した恐怖なのだ。
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シン・ゴジラを見て、3・11を思い出さない人はいない、と随所で語られている。
メタファーだと思われるものはたくさんあったし(それはメイン中のメインであるゴジラすらも)、そもそも初代ゴジラの設定が「そう」だ。
だとしても、見ている最中にそれを思い出して興醒めすることは一瞬たりともなかった。
映画の最中は、「描かれているもの」を追い、咀嚼し楽しむだけでいっぱいいっぱいだったのだ。
そして映画が終わったあとにようやく、私たちは「描かれていないもの」に心が揺さぶりをかけられる。
生存本能への働きかけ。
トラウマの刺激。
忘れるな、と、語らず訴えかけられる。
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描かれていないところにも、膨大な設定が存在している。「映らないからいらないでしょ」というところまで、きちんと作り込んでおくのは、誠実さ以外の何物でもないんだと思う。
描かれていたことをもう一度きちんと咀嚼したくて、描かれていないことをもっともっと受けとりたくて、私は半ば中毒的に、もう一度またもう一度と、この作品を見るのだろう。
「ZARAはどこ?」って言いながら。
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巷には数多くのゴジラ分析があふれていて、なおかつそれが名文だらけで首が縦に振られまくって飛んでっちゃいそうな勢いの中で、放映から二日たつにも関わらず、未だ頭の大部分を占拠してくる「シン・ゴジラ」にまつわる自分の感情をただただ掘り下げてみました。
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