アラサー女子休日の華麗なる遊び~リエット作ろう編(2)
わずかコップに一センチほどの酒で、翌日まで体が動かなくなる……そんな下戸という人種がごくごく身近に存在する。
三つ違いの弟である。
彼曰く、飲み会ほど不利益を被る場はないそうで、会費制はもちろんのこと、“飲んだ分だけ後で割る”会でお金を徴収される際が、最大の理不尽であるという。
もちろん下戸でも飲み会の雰囲気が好きだから気にしないで!みんなとしゃべれるし!という人格者は多々存在するだろうが、あいにく弟はそのタイプに当てはまらない人間であった。
自然、飲み会の場では「食料ハンター」と化す。
得てして酒の添え物として登場しがちの飲み会ごはんは、おかずとして食べるには残念な味つけだったり、締めのメシ以外はお腹にたまらないメニューであることが多い。
しかし弟は、来る日も来る日もウーロン茶片手に片っ端から飲みメシに手をつけ続けた。
そしてある日、彼は出会ったのである。
酒の肴でありながら蛋白質。
パンにつけて食べればお腹にもそこそこ溜まる。
なんといっても「お金かかってそうで、食べると元がとれてる気がする」感がスゴい!
リエットである。
***
弟にとってのリエットが飲み会の救世主なら、私にとってのリエットは大人の階段登りながら食べたほろ苦い食べ物だ。
弟よりやや多目にアルコール分解酵素を持って生まれた私は、並みよりやや弱いくらいの酒量しか飲めないにもかかわらず、職業柄かはたまた大学時代のサークル活動が原因か、
「飲み会よろこんでー(↑)!」
な女である。
ただし、酒を飲むと食べ物がほとんどお腹に入らない。無理矢理入れようものなら、膨らみすぎた胃の反逆を受けることになる。飲むなら食うな、食うなら飲むな、だ。
社会人になったころ、世間はちょっとしたお手頃バル、ビストロブームだった。
学生時代は焼き鳥やもつ煮込みばかり食べていた女子たちも、似たような値段で「タパス」なるオシャレな皿が提供されると聞き、がっついた。
楽しかった学生時代と異なり、社会人の世間話はやや世知辛い。書けないレポートの泣き言は終わらない残業への愚痴になり、ダメんず彼氏への鬱憤は結婚してくれない男への怒りになる。
人生かかった世間話に適当なあいづちは打てない……。
そんなことを考えながら、バケットにリエットをぬった。
***
いつかは料理上手になりたいと願いながら買い溜めていた料理本の中から、リエットのレシピを探し出してきたのは弟だ。
休日らしいことをしたい、休日らしいことをしたいと毎週口癖のように呟きながらゴロゴロするという、ある意味もっとも休日らしいことをしていた彼が何気なく手に取った一冊だったらしい(姉と弟、それぞれの本棚は、いつどの本が互いの手によって消えていようと文句が言えない無法地帯だ)。
「リエット作ろう」
「はい?」
アナに雪だるま作ろうと言われたエルサはこんな気持ちだったのだろうか……と思う。
しかも作ろうと言いつつ、結果的にオラフを作ったのはエルサであるように、この場合の作ろうも「作って」と限りなくニアイコールだ。
下の子ってそんなもんよね、と姉に諦めを感じさせてくれる偉大なる映画だった、アナ雪。
とはいえ、雪だるまとちがってリエットを作るのはなんだかいい提案に思えた。
いかんせん、常々手作り持ちよりホームパーティーに怯えているアラサーだ。
しかも、薄いバケットにつける肉のペーストなんて、我が心情である手土産の心得、前菜の前菜にもピッタリではないか。
かくしてアラサー姉弟(なんだかんだ弟も26のアラサーだ)の「ありのままのおもてなし見せられないのよ~(だから)リエット作ろう~」が始まった。
***
ここで大いなる矛盾が発生するが、弟が感動した酒のつまみは、職場の先輩(男子)の手作りの、釣った鯵で作ったリエットだったらしい。
なんだその持ち寄り力と料理力の高い男子。
しかも何、釣った鯵のリエットって。完璧か。
そして
リエットって肉料理じゃないの!
という、今さらの衝撃。
オシャレ持ち寄りパーティーへの道のりは遠い。
(2)までいったのに肝心のリエットが出てこないまま、次回へ続く。
次はさすがに肉が出るはずだ。