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短編小説①「敬愛対象」

 彼女の第一印象はつらそうな、苦しそうな、渋いその表情にあった。まるで苦虫を噛み潰す最中さなかのようだった。のちに若い頃の写真を見せてもらったが、その愛くるしい表情とはまさに対照的だ。

 私とつきあい出してから彼女の面持ちは、少しずつ和らいだようだ。写真ほどの爛漫らんまんさは無くとも、愛犬を連れてトコトコと歩くその後ろ姿は、小さい子供のような愛らしさをたたえている。かなりぽっちゃりとして、そのぶん背も低く見え、コロッとしているから尚更なおさらだ。もう少しハツラツとさえしていたら、とも思うが、それでもその年齢の彼女にしかない独特の魅力を感じさせる。ほのかな諦観ていかんや哀愁を漂わせつつ、夜の公園で愛犬の面倒を見るその姿は、異国の彫像を彷彿ほうふつとさせる。

 私は後ろからついて行きつつ、また彼女のかたわらを歩きつつ、そんなことを考える。それにしても暑い日が続いていた。ようやくの秋である。今夜は月も、すごく綺麗きれいだ。

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悟塔雛樹
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