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般若の面から考えた「嫉妬心」。みなさんはどう消化していますか。
前回ご紹介した、gallery cobaco(福岡県朝倉市)で開催中のMIRAIさんの個展。
ご主人であり能面作家の藤村都寿さんとの共同制作品も見ることができました。
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素晴らしいのでぜひ実物を見ていただきたいです。
般若の面(右)と般若の面にMIRAIさんが着色をした「あかよろし」という作品(左)です。
能は主役(シテ)が演じる役柄によって
神(しん)・男(なん)・女(にょ)・狂(きょう)・鬼(き)
の五つのパターンに分けられます。
般若はこの中でも「狂」の演目で使われる女性の面です。
「狂」といっても精神的な病におかされているわけでなく、何かの情念に心をとらわれてしまった女性を表しています。
たとえば我が子をなくして悲しむ母親であったり、愛する人の心がはなれてしまい嫉妬にとりつかれる女性であったりします。
MIRAIさんがおっしゃるには
「般若は鬼の形相であっても心は人間なんです。だから角をはやして口は裂けても、目は泣いているんです。」
ということでした。
なんとも胸がいたくなりました。
悲しみ、苦しみのはてに行きついた姿なのですね。
MIRAIさんが装飾した般若面のひたいには能や歌舞伎で使われる「鱗文様」がほどこされています。
これは強い怨念でヘビや鬼の姿になった時にもちいられる模様です。
また、右の顔と左の顔では絵柄がちがいます。
これは舞台に登場する時(顔の右面)と、物語が終わって舞台から去るとき(左面)の心の変化を表しているのだとか。
細かいところにたくさんの意味が込められて、聞けば聞くほどおもしろいです。
そして土台となっているご主人・藤村さんのお面のつくりのうつくしさと、そこに込められた魂の強さを感じることができます。
※ 「MIRAI作品展 Die Träume」
gallery cobacoにて
福岡県朝倉市牛鶴109
会期 2024年12月1日まで
営業日 金~月 11~17時
会期中はご本人が在廊なさるとのことですから、ぜひおはなしをうかがってみてください。
嫉妬心から般若の姿になってしまうお話をしましたが、ちょうど
『嫉妬論 民主社会に渦巻く情念を解剖する』
著者 山本圭さん
光文社新書
という本を読んでいるところで、般若面をながめながらふとつながりを感じました。
嫉妬しやすい自分を改善したくおもいこの本を読み始めてみたのですが、著者の山本さんが述べるように嫉妬心をおさえるための指南書ではないようでした。
(まだ読んでいる最中なので言い切れなくてすみません。)
嫉妬心は古くから物語になり、能だけでなく落語やこどもの童話にまで出てきます。
文化をつくる一要素になっているとも言えます。
だれもが共通してもつ感情であり、その苦しみに共感できるからこそ人々のなかに深く浸透したのでしょう。
また、文化だけでなく嫉妬心は政治にも関係しているとのことですから驚きました。
(精神分析学の祖であるフロイトは「社会的公正及び平等の観念が嫉妬に基づいている」と洞察している、とのことです。)
読めば読むほど人間は生きているかぎり嫉妬心からはのがれることはできず「仕方ない」とあきらめがつくように思いました。
嫉妬を感じるとき、私たちは他者とのちがいを意識し、自分の不足している部分や望んでいるものが明確になります。
ですから考えようによっては自己成長のヒントにもなると思います。
自分の足りなさに向き合うことはとてもつらいことですが、そこから改善点をみつけて努力し、成長することができれば
”嫉妬も悪くはなかった”
…と後々思えるのではないでしょうか。
言うほど簡単ではありませんが、嫉妬からはだれも逃れることができないわけですから…!
もしかしたらみなさんにはそれぞれ「嫉妬」をやり過ごすノウハウがあるかもしれませんね。
「こう考えるとラクになるよ」
というヒントがあれば、ぜひ私にも教えてください。
今日も最後まで読んでくださってありがとうございます。
ナース刺繍は現役看護師兼、刺繍家の私が人体、医療をモチーフにした制作をしております。
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