PDCAサイクルは時代遅れ?

PDCAサイクル
FFAプロセス

私はまず「フィードフォワード思考」という基礎概念を固め、その上で「フィードフォワード」という技法を体系化することにしました。
フィードフォワード思考は以下のように定義しています。
「過去や現在よりも未来に目を向け、その未来に働きかけることでより多くの価値、成果、幸せを生み出すことができるとする考え方」
また、フィードフォワード自体は以下のように定義しています。
「過去や現状にとらわれてしまいがちな人に対して、コミュニケーションや観察を通して相手の状況を把握し、相手に起きている出来事やそれにともなって体験している感情を受け止めた上で、その人が自分の未来に意識を向けて行動できるように促す技術のこと」
「フィードフォワード」はごくシンプルな技術です。
「これからどうするの?」
「どうしたらもっと良くなるかな?」
「次にどうしたらいいんだろう?」
といった言葉を、「フォワーダー(フィードフォワードを行う人)」が「レシーバー(フィードフォワードを受ける人)」にかけるだけです。
本当にシンプルな言葉ですが、質問されると、レシーバーの脳がその答えを探し始めます。そもそも、人間の脳は、質問されると答えを求めるようにできているからです。
フィードフォワードによって、レシーバーは未来に目を向けて、考え、行動することができるようになります。未来に生きることで、レシーバーはどんどん成果を上げ、どんどん幸せになっていきます。
人間の脳は、そもそもゴールを追い求めるようにできています。フィードフォワードによって未来に目が向くと、やがて自分だけのゴールが見つかり、そのゴールの実現に向けて脳が働くようにできています。
では「フィードフォワード」→「アクション」(FFA)プロセスとはなんでしょう


アクションのスピードを上げる「FFA」プロセス
「フィードフォワード」→「アクション」(FFA)プロセスには、長期のものと短期のものがあります。まずは、基本型である長期のFFAプロセスについてご説明したいと思います。図をご覧ください。


FFAプロセスの「フィードフォワード」の中には、「ゴール設定」と「無意識の振り返り」が内包されています。
どんな時でも、成果を上げるために最も大事なのはアクションを取ることです。ゴール設定のもとでアクションを取り始めると、脳は「無意識の振り返り」の中で、これから取ろうとしているアクションの改善点に気がつかせてくれ、アクションを取る前、あるいは取りながら軌道修正をさせてくれます。
無意識の働きなので、アクションを取るスピードが損なわれることなく、どんどん前に進むことができます。
また、同時に「ゴール設定の見直し」も行います。ゴールそのものとそのためのアクションを、無意識が自動的に補正しながら「フィードフォワード」→「アクション」のプロセスが繰り返されるイメージです。
文章で読むと少し難しく感じるかもしれませんが、これは私たちが日々、ごく当たり前に行っている流れです。
未来に目を向けてやりたいことを決め、実行する。
必要に応じて、適宜行動を修正する。
それだけのことです。


私たちは自然に「FFA」プロセスを行っている
短期のFFAプロセスの場合には、「フィードフォワード」の中に「ターゲット設定」と「無意識の調整」をおいて考えます(以下の図をご参照ください)。


はじめにターゲットを設定することでアクションが決まりますが、行動していく中で「無意識の調整」と「ターゲットの再設定」が行われていきます。基本的な枠組みは長期のFFAプロセスと同じです。
短期のFFAプロセスで1つ身近な例を挙げてみましょう。
たとえば「午前11時までに顧客を訪問する」という目標があったとします。まず、これを「ターゲットとして設定」します。すると、早速それに向けて「アクション」を取り始めます。検索エンジンやアプリで会社を出るべき時間を調べ始めるのも「アクション」の一つです。
目的地までの最短のルートが見つかったなら、その時間に合わせて準備を進めます(アクション)。ところが、外を見ると雨が降っていることに気がつきました(無意識の調整)。さっき検索したルートは、短い時間で到着できるのですが、最寄り駅から目的地まで10分以上歩くことになっていました。
ここで、さっき検索したときに駅から歩かないで済むルートもあったことを思い出し(無意識の調整)、そちらのルートについて再度調べます(アクション)。電車の運行間隔が空いているため、雨の中を歩かないで済むものの、15分ほど早く出ないと間に合わないことが分かりました。
今日はお気に入りのハイヒールを履いているので、できれば雨の中で歩く時間は短くしたい(無意識の調整)。であれば、持っていく資料を今から急いで印刷して、すぐに出れば(ターゲットの再設定)、そちらのルートでも間に合う。よし急ごう(アクション)。
このような意思決定とアクションを、実は私たちは毎日行っているはずです。

これが「フィードフォワード」→「アクション」(FFA)プロセスです。未来に目を向けてアクションを取る、それだけのシンプルな流れになります。
もっと期間が長い長期のFFAプロセスの場合、より大きなサイクルで、「ゴール設定」と「無意識の振り返り」が行われ、アクションをスムーズにしていきます。
実は、FFAプロセスは私たちが普段、ごく普通に行っていることを定式化しているだけです。それはビジネスでも日常生活でも基本的に同じです。人間の自然な姿に沿ったものなのです。
これに対してPDCAは、「このように行動すれば成果が上がる」として存在するもののようです。人間の自然な性質には一致していません。


PDCAが時代遅れになってしまった理由
さて、いよいよPDCAと「フィードフォワード」→「アクション」(FFA)プロセスの比較です。
PDCAの何が一番の問題かというと、本質的にPDCAは「最善の現状」を目指したものであるという点です。このことを「現状の最適化」と呼んでいます。
PDCAの場合、「PLAN:計画」が、過去の積み上げからの計画になることがほとんどです。過去からの延長線上ですから、想定しうる「最善の現状」が目指すところです。
「最善の現状」というのは最善ではあってもしょせん現状の一部ですから、そこを目指している限りにおいて、「現状維持」です。
これでは、クリエイティビティを発揮したり、イノベーションを起こしたりすることは不可能です。何か新しいことをしたいのなら、現状の外の高いゴールを掲げる必要があります。




それに対してFFAプロセスは、現状を超えた未来の創造を目指します。FFAプロセスの「フィードバック」に内包されている「ゴール設定」が「現状の外のゴール」を要求するからです。
これは認知科学の発見なのですが、人間の脳は「現状の外のゴール」を設定することで活性化され、そこに向かう強いエネルギーを生み出します。FFAプロセスは、現状の外のゴール設定を前提とすることで、個人や組織が高いクリエイティビティを発揮してイノベーションを生む可能性を飛躍的に高めます。
また、「PLAN:計画」は、よくて現状のベストであるとともに、たいていの場合は「去年はこれができなかったから、今年はこうしよう」というような反省モードでの計画策定となります。「反省」によってテンションは下がり、かつ現状の延長線上のゴール設定になり、結果として、脳が現状を変えるために必要なエネルギーを生み出すことができず、前に進むのがとても重たくなります。
環境変化が激しい現代にあって、「現状の最適化」程度を目指すようでは、変化した環境に適応できず苦しい経営になることは容易に想像できます。これが、PDCAが今の時代に古くなってしまったという理由です。
また、PDCAは人間の本来の性質にあったものではありません。人間は「思いついて、実行する」ようにできています。まさにFFAです。あるいは、PDCAの「P」と「D」です。そこに、「CHECK:評価」や「ACT:改善」を入れるのは、こうしたらいいだろう、というあとづけです。
本来の性質にあったものではなく、無理に行うので、PDCAを回そうとすると「~しなければならない」モードで仕事をすることになります。
私たちはこの「~しなければならない」を、have toと呼んでいます。これに対して「自ら進んでやりたい」状態をwant toと呼びます。実は、人間はhave toだと脳がうまく働かず、高いパフォーマンスを生み出せないようにできています。そのため、成果を上げるためにhave toをなくし、できるだけwant toで仕事をすることを目指します。
PDCAは、その性質上have to で仕事をすることを求めるものなので、クリエイティビティやイノベーションからはどんどん離れてしまうのです。
このように、FFAプロセスはごく自然で、しかも脳の働きに沿ったアプローチです。
新しい考え方のため、もしかしたら抵抗を感じるかもしれませんが、ごく自然にパフォーマンスが上がる方法ですので、ぜひ取り入れてみて頂きたいです。
最後になりますが、もう一つ重要な要素として、FFAプロセスでは「無意識」を大変重視しています。呼吸や消化など、生きるために最低限必要な行為を含め、私たちが行う活動のほとんどは「無意識」の担当領域です。意識的に行っていることはごくわずかです。
ですから、「無意識」が望ましい形で働いてくれるように訓練することが、仕事のパフォーマンスや人生の幸福度に直結してきます。「フィードフォワード」及び「FFAプロセス」は無意識の力をフルに発揮して、頑張らなくても成果を上げられる、そんな自分と周囲を作ってくれる、新しい考え方と技術なのです。

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