経済活動とケア労働のバランスを見直す時代へ -感情労働としてのケアの価値

2024年10月16日 11:16

現代社会は、経済活動とケア労働という二つの柱で成り立っています。

お金を稼ぐことと、家庭内外でのケア労働（家事、育児、介護、医療など）がどちらも欠かせないにもかかわらず、経済活動が称賛される一方で、ケア労働の価値は軽視されがちです。

このアンバランスは、私たちの生活基盤を徐々に揺るがしつつあります。

特に注目すべきは、ケア労働が「誰にでもできる」と誤解されがちな点です。

確かに、ケアは多くの人が日常的に行っている活動です。

しかし、実際にはケア労働は高度な専門性を持つ感情労働でもあり、それができる人が少ないからこそ、社会において必要不可欠な役割を果たしています。

ケア労働の感情労働としての側面

ケア労働は、人と人との関わり合いの中で、深い共感や忍耐、倫理的な判断を求められる仕事です。

例えば、患者や高齢者と接する際、単なる身体的なケアだけでなく、彼らの気持ちに寄り添い、感情的なサポートを提供することが求められます。

この「感情労働」は、単に技術を学べば済むものではなく、経験や訓練を通じて磨かれるものであり、他の職業では見られない高度な能力です。

多くの仕事では、成果物や業績が目に見える形で示され、それによって評価されます。

しかし、ケア労働はその成果が目に見えにくいという特性を持っています。

患者の回復や家族からの感謝といったものは、測定可能な数値として現れにくい。

そのため、ケア労働者の努力や専門性が正当に評価されず、低賃金や過剰労働という問題を引き起こしています。

さらに、現在の教育システムもケア労働の評価に影響を与えています。

現代の学校教育は、知識や理論の学習に重点を置きがちです。

しかし、ケア労働においては、共感や感情的な理解、そして実際の現場での対応力が求められます。

これらは教室での学習だけでは身につけることが難しく、現場での経験が不可欠です。

それにもかかわらず、理論的な学習が専門性のすべてだと捉える傾向が強いため、ケア労働に必要な能力が十分に評価されないのです。

このような教育の偏りによって、ケア労働の専門性が軽視され、現場での経験を重ねることの重要性が見落とされています。

ケア労働者としての専門性は、教科書の知識だけでは身につかない、現実的で複雑な人間関係の中で培われるものです。

ケア労働の価値を社会全体で再評価するためには、成果を「見える化」することが求められています。

たとえば、ケア労働がもたらす生活の質の向上や、患者とその家族の精神的な支えといった目に見えにくい成果も、私たちの生活を支える重要な要素です。

また、ケア労働の現実を知るためには、労働者自身が声を上げ、外部に情報を発信することが必要です。

守秘義務は重要ですが、すべての情報が閉ざされてしまうと、業界の改善に向けた議論が進まなくなってしまいます。

公開すべき情報は公開し、守るべき情報は守るという取捨選択を行い、社会に対してケア労働の実態を伝えていくことが、今後のケア業界の改革に繋がるでしょう。

ケア労働は「誰にでもできる仕事」ではありません。

それは、人間としての共感、忍耐、倫理的な判断力が試される、非常に高度で専門性の高い仕事です。

感情労働としてのケアの重要性を理解し、その価値を社会全体で認識することで、ケア労働者が正当に評価され、より良い労働環境が提供されることを目指すべきです。

ケア労働が持つ真の価値を正しく評価し、感情労働としての専門性を尊重することで、社会全体がより豊かで人間味溢れるものになると信じています。