「暗黒館の殺人」を読んだ
!!!ネタバレあります!!!未読の方は閉じてください!!!
5日ほどかけて一気に暗黒館の殺人を読破した。途中で呼吸の仕方を忘れるような感覚に陥り、読了後、たまらず大きく息をついた。
数日経った今でも、ふとした瞬間に余韻で溜め息が出る。とにかく早いうちに吐き出しておきたい。
本自体は少し前に購入していたが、登場人物の多さと、全四巻というボリュームに怖気づき、しばらく遠ざけていた。意を決して、読み始めてみると、最初は登場人物と館の間取り図概観の把握がしんどかったが、いつの間にか早く続きを…!!と、ページをめくる手が止まらなかった。(個人的綾辻館あるあるなのだが)
終始、暗黒館の退廃的な雰囲気に圧倒されていた。誰が犯人なのかは正直あまり気にする余裕がなく、暗黒館・浦登家のてんこもりの謎に頭を支配されていた。玄児と中也の関係性に今でも囚われている。妖しいものを覗き見ているような気がして、ドキドキした。三巻の後半からの解決編とも言っていい、怒涛の展開からの最後の彼らの別れ方が切ない。中也の人生においてたった数日間にもかかわらず、その後の彼を形作ったであろうことに胸がぎゅっとなる。
読了後、あの年、暗黒館で過ごした中也という人間が存在していたことを想い、もう一度十角館から読み返したい気持ちが強くなった。得体の知れない、呪われた館ばかり設計した彼が、普通に食事をし、普通に困惑し、普通に建築を学んでいた人間であったということが、最初は、ある種、本当に?、と受け入れがたい気持ちもあった。話の通じないような生まれながらの天才、奇才というわけではなく、彼も普通の人間だった。すでに我々読者は彼の人生の結末を知っている。彼がこれからの人生、ずっと幸せであってほしいという願いは届かない。苦しくなる。
そして、美鳥。ラストでは今でも暗黒館にいることが示唆されたが、あの後、どういう人生を歩んだのか。まさか、美惟のようになったのではないか。想像すると胸がいっぱいになる。
時系列の違いについては市朗が初登場したあたりで気づいた。ただ、それがどういうことかは最後まで予想できなかった。霧の描写もあり、タイムトラベルか?ファンタジー的な展開?江南の祖父?夢オチ?いやでもまさかそんなわけないよな、どういうことなんだと。不審な点はありつつも、江南はあの江南だと思い込んでいた。島田はいつ出てくるんだ、江南を助けてくれと。十角館や時計館の記憶から、江南はかわいそうな役回りが多いな、と納得感もあった。
読み進めながら、中也が何者なのか、この人しかいないかな、と予想はしてみるものの、でも、江南いるし…と混乱していた。
「視点」については、まさか本当にメタ的な視点だとは思っていなかった。江南視点で追体験する気持ちで、もう一度読み返したい。(いつもは読み終わった瞬間にもう一度読み返して伏線を拾っていくのだが、今回は、まだ初読の余韻を楽しみたいので少し先になりそうだ。)
この演出、トリックは、これはありなのかと、最初は若干信じられない気持ちもあった。ただ、これまでの館シリーズとは印象が違い、ミステリではあり、殺人もあり、犯人もいるが、それは舞台装置の一つでしかないように感じて、このことも、大きな物語の中の一つであるとして受け入れていた。
綾辻館は、それぞれ舞台や登場人物が異なるわけだが、読んでいるうちにキャラクターに愛着がわくので、毎回、結末を知るのがつらい。
「暗黒館の殺人」に出会えてよかった。館シリーズ自体がそもそもそうなのだが、自分自身のこれからの人生において、何か一つのパーツとなる、大切にしたい一作だ。
次はびっくり館。一呼吸おいて、心が整ってから、読んでいきたい。
この記事が参加している募集
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?