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6. 到着

その建物は路地にあった。狭い路地の周りには同じような建物ばかりで、どれが自分がいた建物か分からない。隠れた城下町の外への道を作るのにはうってつけの場所だった。

路地と言っても、すぐそこに大通りがあったので、街の音が聞こえた。

セルクが「ちょっと待ってて」と言うと、忙しい大通りに走っていった。そしてある屋台で売り子の女性と話すと、女性が黒いごみ袋をセルクに渡した。あれを少年にかぶらせるつもりらしい。

セルクが戻って来て、にっこり笑ってごみ袋を少年に見せた。少年は何も言わずに頷き、それを受け取って破いて、どうにかして頭から足までかぶれるようにした。

「いいね。」

セルクがまたにっこり笑って親指をあげてグッドサインを作った。2人は路地から大通りをみつめ、飛び出した。

人や馬車が多い大通りは、みんな忙しそうにしている。自分のことで忙しすぎて、周りが見えていない感じだった。やることが沢山ある、この時間にこの場所に行かなければならない。あれもこれもしなければいけない…。そんな風に人々は毎日を過ごしているような雰囲気だ。

だからだろうか、2人が大通りを隠れながら走っても誰も気付かなかった。ある時二人が果物を売るために道行く人に何人も話しかけている店員のすぐ後ろを通ったが、気付かれなかった。きっと、誰かがその店の果物を盗んでもその店員は気付かないだろうと少年は思った。

二人は人、馬車、屋台の合間をかけぬけ、外から見たあの城下町の門が前に見えた。門は木で出来ていて、門番が開け締めを担当していた。

そのすぐ左にまた通りがあり、二人はその道を歩いた。道の両側に並ぶ家々は全て同じデザインで、レンガの壁に石の屋根だった。少年はセルクが門のすぐ近くに自分の家があると言っていたのを思い出した。

その通りの3件目の右側にセルクの家があった。入口のドアににじゅうまるのマークが焼き印でいれられていた。

「ここだよ。ここまでよく頑張ったね。」

セルクがドアを開けながら少年に言った。


続く。

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