35.博多旅行・Q(全4話中第3話)
前回までのあらすじ・・・2泊3日の博多旅行2日目。この日は朝食に「こってりラーメン」を食べ、昼食に「あっさりラーメン」を食べる計画も、前日に飲み過ぎたせいで重度の二日酔いになり計画は無事破綻。しかし、ベローチェでオレンジジュースを飲んだりしてるうちに体調と胃袋が回復する奇跡。遂に「あっさりラーメン」を食すべく天下一品の暖簾をくぐる筆者。さあ、見せてもらおうか。あっさりラーメンの実力とやらを・・・
全4話の博多旅行シリーズ。不死鳥の如く蘇った筆者の第3話、始まります。
さあ、ついに宿命の戦い、「対・天下一品のあっさりラーメン戦」の開始だ。席に着き、メニューも見ずに店員さんへ「あっさりラーメン、以上で」と注文するも、店員さんは聞き間違えたのか、それとも聞き間違えたふりをしてるのか「こってりラーメンですね」と復唱してきた。きっといつもの体調なら誘導されるがままに「はい、お願いします」と言ってこってりラーメンにチェンジしていたかもしれないが、今回は不完全な体調が功を奏してこのピンチを乗り越える事が出来た。
着丼するまでの間、さきほどの店員の対応を考えていた。ひょっとしたらあっさりを頼むお客が許せないこってり原理主義の店員さんもいるのかもしれない。確かに私が天下一品でアルバイトしてたらお客さんをこってりに誘導するだろう。場合によっては翻意するようにお客さんを説得するかもしれない。「お客さん、本当にあっさりで良いんですか?冷静になって考えて下さい、こってりも頼めるんですよ!」
そんなこんなで初めて食べたあっさりラーメンの感想は「意外と美味い」だ。見た目からホタテ系の出汁が感じられそうな関東の古き良き中華そばの味をイメージしていたが、かなりアニマル的なコクが感じられた。普通に80~90点のラーメンだ。だが、今後天下一品に行った際にまた頼むかというと、そんな自分の姿は想像しづらい。そもそも天下一品では100点満点中120点のこってりラーメンが頼めるし、店舗によっては100点満点中180点の超こってりラーメンが頼める。わざわざ格下のラーメンを頼む理由がない。大体、天下一品に求めているのは普通のラーメン屋さんに無い「異常さ」や「非現実感」だ。「意外と美味い」なんて普通のリアクションが出るラーメンではない。あまりにもスープの粘度が高いのでレンゲが立つ「スタンディング・レンゲ」のようなエンターテイメント的なノリを我々は求めている。やっぱりこれは違う。
まあ、旅の目的は果たしたので良しとしよう。これからはあっさり童貞の皆様に対してマウントが取れる。「あっさり?食べた事ありますよ。これを未食で天下一品を語るのはフェイカーですよね」と、こんな感じで。
あっさり討伐後、天気の状態があまり良くないのでパチンコへ。旅先でやる事なのかという疑問も湧くが、ここで大勝ちしたら予定を変更するのもありだ。と、都合が良い未来を考えながら打ち始めたのだが「本当にこいつは北斗神拳伝承者?偽物じゃないの?」と、疑いたくなるほどケンシロウがクソ弱い。偽ケンシロウのせいで窮地に陥るも、その後GOGOランプが光りまくって800円勝ち。圧勝だ。
まだ胃袋が「おやつ」を求めてる感じでもなかったので、スーパーに入ってみる。「旅行に行ったら地元民が使ってるスーパーに立ち寄るべし」これは読者の皆様に強くオススメしたい。中途半端な観光スポットへ行くよりも面白い経験、面白い発見がある。
安定して熱いのは調味料コーナーだ。知らない土地で食べられてる珍しいソースやドレッシングはパッケージを見てるだけでテンションが上がる。ただ、安易な気持ちで購入するのは控えた方が良いかもしれない。地域の味覚の差は結構大きいので、地元の方からすれば当たり前の味でもこちらからすればエッジが利き過ぎてつらい時がある。
もちろん、インスタント麺コーナーをチェックするのはマストだ。旅行の際の義務と言って良い。見た事もない商品がさも当然かの如く、大きく棚を占拠している姿を見るといつだって感動する。観光名所を観たり、ご当地グルメを食べてる時よりも「俺って今、知らない土地にいるんだな」と実感出来る瞬間だ。
カップ麺コーナーではサンポー食品の「焼き豚ラーメン」「長崎ちゃんぽん」「高菜ラーメン」がずらりと並んでいた。どれも高名な九州のカップ麺だ。読者の皆様も博多に行った際は必ず押さえておいて欲しい。特に「焼き豚ラーメン」は名作なので複数個購入するのもありだ。自分で食べるのも良いし、九州出身の上司がいるのなら賄賂として使える。渡せば必ず狂喜乱舞。あまりの嬉しさにボーナスの査定に手心を加えてくれるかもしれない。積極的に投入してみよう。
インスタント麺では「うまかっちゃん」が味違いで何種類も売ってある。錚々たる光景だ。オーソドックスなうまかっちゃんに加え、「からし高菜風味」「濃厚新味」「香ばしにんにく風味」「黒豚とんこつ焦がしねぎ風味」とより取り見取りだ。とは言え、私は極度のめんどくさがりなので袋麺を作るのが億劫。ここは初めて見るマルタイの「屋台ラーメン」だけ買って帰ろう。パッケージの古風なイラストから鑑みるに歴戦の古強者なのだろう。特定の地域で根強い支持を集めている定番商品はやはり気になるものだ。
あと、漬物コーナーに行ってからし高菜も確認。これも絶対に買って帰らないといけない。流通が発展しているこのご時世、大きなスーパーに行けばからし高菜も売ってあるが辛さの足りない腑抜けたやつばかりだ。狙うは福岡のラーメン屋さんのカウンターに置いてる様な、一口食べれば「辛っ!!」と叫びたくなるような本格的なやつ。そんな強力なブツが手に入るかどうかで今後3カ月の〆ラーメンのクオリティが大きく変わる。
一流の主婦が野菜の鮮度を見分けるスキルを持つように、一流のジャンクフード喰いはからし高菜のパワフルさを見分けるスキルを持つ。本来ならば門外不出、外部に漏らしてはいけない技術なのだが、読者の皆様と私は同胞、血の繋がらない兄弟だ。特別にお教えしよう。
至ってシンプル。とにかく「ドス黒いやつを選ぶ」だ。私の経験上、激辛系の辛子高菜は往々にしてダークな雰囲気を携えている。一般的なそれよりも唐辛子を多く使ってるので、それが色目に作用しているのかもしれない。なので「鮮やか緑」なやつは「からし高菜」と言うより「高菜炒め」に近い。当然、激辛を好むものからすればそれはハズレの可能性が高いので避けよう。
それでも不安なら材料表記を見る手もある。食品衛生法だったか知らないが、使ってる割合が多いほど材料表記の前の方に記載されるらしい。例えば「高菜、〇〇、唐辛子」よりも「高菜、唐辛子、〇〇」の方が唐辛子を多く使っていてよりパンチが効いているわけだ。
漬物コーナーを見渡してみるとすぐに力強そうなからし高菜を見つけた。これを買って帰れば晩酌のあとの締めのラーメンタイムで大きなアドバンテージを得られる事だろう。晩酌の後、締めの「屋台ラーメン」を半分食べ、味変として追いからし高菜なんて考えただけで興奮してしまう。きっと、これがゴールデンカムイの二瓶さんが言う「勃起」というやつだろう。
とりあえず初日に買うと荷物になるので、この日は目星をつけるだけ。ふう、やはり知らない土地のスーパー巡りは実に楽しい、実り豊かな時間だった。
こってりよりもあっさりの方が腹持ちが悪いのか、天下一品を出てからそんなに時間が経ってないのに腹が減ってきた。「おやつ」の時間の到来だ。旅行前にスマホのメモに記載してた博多駅周辺のグルメのリストを眺めながら自身の舌と胃袋の状況を見極める。二日酔いも抜けて胃の調子もすこぶる良くなってる。博多のカップ麺ばかり眺めていたせいか、導き出された答えは豚骨ラーメン。それも本場らしいゴリゴリに力強い豚骨だ。そうなれば答えは一つ。「博多一双(※)」に初挑戦だ。
駅から徒歩7分程度。16時前という時間だったので混んでない。ラーメンのカタ麺を頼み、テーブルの上を眺めていると「からし高菜」と「ニンニク」を発見。それも嬉しいことに擦り下してない生のニンニクを専用の器具でクラッシュさせるタイプだ。興奮でソワソワしてきた。
ラーメン着丼。麺は細めから極細寄り。スープは泡立つカプチーノタイプの、いわゆる「泡系」だ。私の好みの麺は「普通~細目」なので、麺に関しては若干ストライクゾーンを外れている。だが、その程度の事など取るに足らないとこちらに思わせる程にスープが良い。食べるまでもない。匂いを嗅いだだけで「大当たり」だと分かる。この獣臭さ全開の攻撃的なスープは食べる側を選ぶ。間違いなく大好きか大嫌いしか存在しない、万人受けしない尖り切ったスープだ。もちろん、豚骨タフガイである私は「大好き」な味だ。
夢中で麺を啜ってたらあっという間に半分食べてしまった。田舎暮らしのジャンクフード好きが旅行すると必ず直面する問題が「品数を増やすために大盛り、替玉の禁止」だ。旅行が終わればこんなに美味い豚骨を喰う事は出来ない。この素晴らしいスープを堪能するために替玉のタイミングでからし高菜とニンニクを投入したいのだが、基本ルールを順守するなら替玉はご法度。投入するなら半分食べた今のタイミングだ。
夕飯もガッツリ食べられるよう、泣く泣くここは替玉を諦める。心の中で号泣しながらニンニククラッシャーを発動。凶悪な匂いが立ち込める。濃厚な豚骨スープの匂いとニンニクの匂いが混じり合い、これはもう、あれだ・・・生きててよかった。
※・・・関東の兄弟たちに朗報だ。「博多一双」が横浜の新ラーメン博物館に出店しているらしい。是非ともこの力強さを味わって欲しい。もちろん、この素晴らしいスープを余すことなく堪能するためにニンニクを投入出来る週末に行くんだぜ。
大満足した状態でホテルにチェックイン。私の口の前にはマスク、フロントのお姉さんの鼻の前にもマスク。計2枚のマスクが存在するが、博多一双でニンニククラッシャーを使ったことでブーストされた口臭はその程度の防御を貫通してしまうのではと気になったが、別に嫌な顔もされなくて一安心。
ホテルの大浴場でひとっ風呂浴び、小一時間ほど眠ったらもうお腹が空いて来た。齢40を過ぎてもこのワンパク感、自分が誇らしくなってくる。
何を食べたいのか胃袋と相談してみると、選択肢はもつ鍋、水炊き、餃子に絞られた。昨年も博多で食べたのでパスした方が良いかもと思いつつ、もつ鍋を食べる方向で決定。そう、博多の街に来てもつ鍋の誘惑に抗うのは至難の業だ。
もつ鍋は博多グルメの筆頭格と言っても過言ではないのでお店が多い。昨年は女子会が出来そうなほど小綺麗でオシャレな内装のお店に行ってみたが、今回はサラリーマンが一杯引っかける系の昭和レトロ感ビンビンなお店。これまた前日の焼き鳥屋に引き続き、私が学生の頃から存在する博多駅前の「寿久」という超老舗だ。
カウンター席が空いてたので即入店。ビールともつ鍋を注文し、鍋が食べごろになるまでの繋ぎとしてお店の入り口近くにあるガラスケースを覗いておつまみを選ぶ。昔よく食堂やドライブインにあった、ケースの中の商品をお客さんが自分で取るあのスタイルだ。久々にこのシステムに遭遇したので、ケースから馬刺しを取る作業だけでもノスタルジーを感じ、妙に興奮した。何かしらのフェティシズムかもしれない。
馬刺しをいただき、ビールをあおる。作り置きしていたとは思えない程、新鮮で美味い。赤身なのも私の好みに合う。あっという間にビールが無くなってしまったのでレモン酎ハイ投入。馬刺しに舌鼓を打っていると、お店の人がもつ鍋の最後の仕上げを始める。「ニンニク入れて大丈夫ですか?」と聞かれたので、答えはもちろん「サー・イエッ・サー!」だ。
鍋が煮え、待ちに待ったもつ鍋だ。昨年食べたオシャレなお店も美味しかったが、やはりこの老舗には敵わない。昨年訪れたようなスタイリッシュなもつ鍋屋さんではマルチョウ(小腸)しか入ってないことが多いが、「寿久」ではマルチョウ以外にもミノ(第1胃)やセンマイ(第3胃)なんかの部位も入っている。使える部位は余すことなく使う、昔ながらの野蛮なもつ鍋だ。これまた勝手な想像だが、「食糧難の時代は食べられる部分は余すことなく鍋にぶち込んでいただろうから、色んな部位をぶち込むこのスタイルこそが本来のもつ鍋なんだろうな」なんてことを考えながら食べると実に感慨深い。
ちなみにこの名店のスープは他のもつ鍋屋より濃い印象を受ける。なので、お酒を飲む方はレモン酎ハイあたりのさっぱりした飲み物をおススメする。頬張ったモツをチューハイで流し込みながら、「おお、こってりとしたモツにさっぱりとしたチューハイが実に合う。チューハイを飲むたびに舌がすっきりするので、これならいくらでも食べられそうだ。これは凄い発見だぞ」なんて事を心の中で呟く「井之頭五郎ごっこ」に興じてみて欲しい。
もつ鍋だけでも結構なボリュームだったので、締めにちゃんぽん麵を投入すべきかしばし逡巡。昼に天下一品で麺、おやつに博多一双で麺ときて夜も麺となればちょっとやり過ぎてる感は否めない。とは言え、博多一双で替え玉を我慢してるのでその対価を受ける権利を有しているのもまた事実。それに平素ならともかく、旅先で我慢するのは愚の骨頂だ。いつも言ってるように「食べる阿呆に見る阿呆、同じ阿保なら食わなきゃ損」だ。鍋にちゃんぽん麵をパイルダーオン。ちゃんぽん麺にもつ鍋のこってりとしてギンギンに脂ぎった残り汁が絡んでたまらない。
満腹の状態でホテルへ戻る。再び大浴場でひとっ風呂浴び、ベッドに横たわったらそのまま爆睡してしまった。
それでは、2日目のカロリー総量を発表。もちろん参考値です。
ツナサンド 333kcal
オレンジジュース2杯 165kcal
天下一品・あっさりラーメン 490kcal
博多一双 513kcal
馬刺し 110kcal
もつ鍋 400kcal
ちゃんぽん麺 232kcal
ビール(300㎖)1杯 120kcal
チューハイ(300㎖)5杯 660kcal
3,023kcal
前日の4,434kcalと比べればあまりにも少ないカロリー摂取量でした。しかし、これを書くにあたり豚骨ラーメンの成分表を調べてみてびっくりしたのは意外と豚骨ラーメンのカロリーが高くない事実。前日の一蘭が457kcal、この日の博多一双が513kcalと、マクドナルドのテリヤキバーガーの496 kcalとさほど変わらないとは。家系が800~1,000kcalなのでそのイメージからラーメンはカロリーが高いと思っていたものの、純粋な豚骨がこんなにも低カロリーとは驚きだ。ダイエット食品?
さて、次回は博多旅行シリーズ最終回。散々博多のご当地グルメを堪能したにも関わらず欲望はまだ満たされていない。そう、日本全国の天ぷら愛好家におススメしたいあのお店が筆者を待っている・・・
To be continued...