第3回講座「協同の思想と地域」2/3
平山さんのお話し
今日は、アソシエーションの話をする。アソシエーションの思想、協同思想は、資本主義に対する対案としての思想。資本主義の話なので、イギリスが中心になる。ロバート・オーウェンは工場村に成功して、1825年にアメリカにわたりニュー・ハーモニーに共同体をつくったが失敗した。労働運動もうまくいかなかったため、1844年にオーウェン主義者はロッチデールに協同組合を立ち上げた。そのミッションは以下の6つ。
① 食料品、衣類等を売る店舗を設置する。
② 住宅を建設か購入し、組合員の住居にあてる。
③ 組合員に職を与えるため、組合の決議した物品の生産を始める。
④ 若干の土地を購入または借入し、組合員にこれを耕作させる。
⑤ 生産、分配、教育および政治の力を備え、共通の利益に基づく自給自足の国内植民地を建設し、回様の植民地を創らんとする他の諸組合を援助する。
⑥ 禁酒の普及のために、禁酒ホテルを開く。
しかしながら、失われたコモンの回復を求める共同体づくりは、資本主義=ネーション=国家によって包摂され、1以外の目的は放棄してしまい、いわゆる消費者生協しか残らなかった。しかしながら、欧米では1960年代以降、資本主義の行きづまりがあきらかになって、国家を超えた多国籍企業を生み出し、1980 年代以降はグローバリゼーションとしてなり、公的領域の民営化、私有化をすすめる新自由主義となった。
沼津市民シンクタンクの「5つの使命」についてコメントしたい。
1.「グローバリゼーションへの対抗 ローカリズムへ(地域主権)」について
資本主義は入会地のコモンズの解体と囲い込みをもって農民をコモンから引き離して労働力商品化することで成立した。これが本源的蓄積。近年、顕著なのは、公的領域の市場化、私有化が進み、貧困層が99%化したこと。ローカリズムの課題は、地域における非市場経済の領域を拡大させること。地域には、非市場経済の領域を拡大と地域主権をすすめる「アソシエーション」が必要。
2.「コモンズの尊重」へのコメント
斉藤幸平氏は「マルクスにとっての〈コミュニズム〉とは、生産者たちが生産手段を〈コモン〉として管理する社会をコミュニズムとして、構想していたのである」と書いて、資本主義のオルタナティブとして「コモンの再建」を提起した。地域にコモン的領域の拡大をめざす運動とアソシエーションが必要。街中で空きスペースを利用した「マルシェ」と呼ばれる市場が流行っているが、コモンは、モノのやりとりや、こども食堂のような贈与や、サービスや生産まで行われる場でもある。
3.「市民による自治」へのコメント
斎藤幸平氏は「コモンの再建」と併せて以下のように書いている。「資本と対峙する社会運動を通じて、政治的領域を拡張していく必要がある・・・その一例が、近年欧米で注目されている〈気候市民会議〉である。・・・選挙ではなく、くじ引きでメンバーが選ばれるのだ。」。市民による自治のためには、日本にも選挙以外に「市民会議」といったかたちのアソシエーションが必要。市民による、ボトムアップの政治運動が必要。
4.「相互扶助のまちづくり」へのコメント
営利を目的とする株式会社に対して、「非営利・相互扶助・民主運営」の協同組合がある。1844 年にロッチデールの人々が協同組合を立ち上げた時に目指したのは、資本主義が10 年サイクルでくり返す恐慌によって職を失う人々を救済するためのコミュニティ型協同組合。相互扶助のまちづくりのプラットフォームには、「小さなアソシエーション」と共に、既存の大きな生協が参加することが重要。一昨年来、新宿の都庁前で毎週行われている「新型コロナ災害緊急アクション活動」に、パルシステムが多大な食糧を無償で提供している。
5.「持続的で助け合える経済」へのコメント
身近にいる会社から使い捨てにされた多くの非正規労働者や若者へのサポートのためのアソシエーションを立ち上げることが、第一歩。こどもの貧困に対して、地域で任意に立ち上がったこども食堂は7000 弱にもなる。地域の人々の贈与とボランティアと公的施設を借りて始まるアソシエーションの立上げは、小さなミッションを掲げ、仲間を誘い、アソシエーションを立ち上げよう。
晩年のマルクスが到達した「協同組合的社会」は、私的には『貧困の哲学』の昔からプルードンが構想してきた「アソシアシオン」と同じである。「プルードンの求める社会は、自立した平等のメンバーが協力し合う結合体、すなわちアソシアシオンであった」(河野健二『プルードン・セレクション』平凡社)。プルードンは「自立的な小地域を基礎とする連合を国内および国際間に広げること、連合主義」を理想とした。
私は、資本主義の矛盾は「労働力の商品化」にあることを学び、それなら資本によって商品化されない働き方をしようと生協で25年働き、50 歳で生協を辞めた後は個人事業のSOHOダルマ舎を仲間を誘って立ち上げ、7年くらい前から本をつくり始め、昨年秋の「定数10 名」のワーカーズ・コレクティブ「アソシエーションだるま舎」の結成に落ち着いた。
その設立趣意書はこうなっている。
少人数でも協同組合がつくれる協同組合基本法がない日本の現状において、既存の協同組合法におさまらない小規模の一般型協同組合、社会的協同組合、アソシエーション組織を創り出すために、先行的に任意に生産協同組合型組織としてのワーカーズコレクティブ、小さなアソシエーションを立ち上げます。事業的には、上記に関連する出版活動と研究会の企画・開催を通じて、それらアソシエーション組織の普及と社会的協同組合、一般型協同組合法の立法化をすすめ、多様な協同組合と連帯して、地域アソシエーション、コモン、協同組合地域社会の創設を目指します。
定款の肝は以下のとおりである。
定数:本組織のメンバーの定数は、3人以上10人以内を原則とし、10名を越える場合はこれを分割し、共有のプラットフォームをつくり連携、連合する。
役員:(1)代表を1人おく。(2)会計を1人おく。(3)監査は全員で行う。
役員の選挙:代表の選出は、全メンバーの「くじ引き」で行う。
運営:運営会議は各メンバーから議題を提案いただき、運営会議の議長は持ち回りで行う。
執行部とか指導者を置かずに「くじ引き」と「輪番制」で運営する。メンバー数が定員を超えたら、アソシエーションを分割して、アソシエーションどうしをつなぐプラットフォーム型アソシエーションを創ってつなぎ、アソシエーションを広げる。
生協退職後に、仙台は作並の大内秀明氏の「賢治とモリスの館」に通って宇野経済学を学んだ。私が知りたかったのは「脱労働力の商品化によるアソシエーションの形成」の理論と、それによる地域社会づくりであったわけだが、東日本大震災後に立ち上げられた「仙台・羅須地人協会」は、まさにそれを課題とした。
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