海苔漁師が語る『僕たちは毎年1年生』という言葉の意味。
どう頑張っても、言葉や文章だけでは伝えきれないことがある。
『noteで発信している人が言うの?』そう思う方もいるかもしれませんが私自身がいつも歯痒く思うこと。
特に生産者がどれだけの努力を重ね市場に商品を提供しているか?
そこは本当に難しい。
時には"ストーリー"や"マーケティング"という言葉が先に出て、本当に伝えたいことが皆さんに届いているのか?と不安になることも。
だからか、気づけば私がnoteを書き続ける理由は『発信したい』から、『本質をもっとうまく伝えられるようになりたい』へと変化していました。
海苔屋の兄ちゃんが毎月書く原動力はこれなんです。もう毎回勉強。
そんな中、今日お伝えしたい話。
『僕たちは毎年1年生なんです。』
そう語る生産者の言葉が、海苔屋として年を重ねるごとに重く感じ取れるようになりました。
その言葉の意味とは?
本日も最後までゆるりとお付き合いください。
【2022年度の初摘み海苔入札について】
まずは先日参加してきた有明海産の初摘み海苔入札についてから。
以前noteでもお伝えしましたが、有明海産の初摘み海苔専門店であるぬま田海苔にとって、とても重要な勝負の場。
熊本、福岡、佐賀とめぐり、結論からお伝えすると今年もぬま田海苔らしいおいしさの海苔を購入することができたので本当に一安心。
ただ、もう"何とか"といった感じでした。
今年度は良い等級の海苔が限られており、例えば佐賀県では"味推等級"や"特"等級などが0本。それどころか1等や2等がつけばかなり良い方で、漁場によっては今年度の生産すらも厳しい、といった状況に。
長年経験を重ねてきた海苔漁師でも初めてと言えるほど、海況が厳しかったのです。
これらは海温が高いことや赤潮、海苔のうま味に繋がる"栄養塩"が海に少なかったこと、などが理由として考えられています。
夏場の降雨量や海苔漁期の降雨量など、生産者がどうにもコントロールできないことが大きく関与している。
去年と今年のデータで見ても、約1/3に減少と明らかに"栄養塩"の量に違いが出ています。さらに"ユーカンピア"という海苔の天敵である珪藻(けいそう) も発生したり、引き続き大変な状況が続いています。
では『量が採れないから、おいしい海苔が採れなかった?』
というと、そんなことはありません。
そんな厳しい中でも、ちゃんとおいしい海苔があるんです。本当に漁師さんは凄いですよね。
*初摘み海苔入札についてご興味あればこちらの記事より
【『毎年1年生』という言葉の意味】
海況が厳しいのは今年だけなのでしょうか?
例えば2020年度の初摘み。年間通して半世紀ぶりの大不作と言われ全国的に海苔の生産数が落ち込む年となりました。
そんな中でも佐賀県・鹿島地区は初摘みが好調で第三漁場は過去最高の金額で海苔が取引されました。
2021年度は有明海では豊作の年となり、おいしくて良い海苔が多く収穫できました。佐賀の"味推"や福岡の"旬"など高評価の等級も多く、どれを買うか迷うくらい。
しかしながら鹿島第三漁場はうってかわり、初摘みの出荷量は昨対1/10に減少してしまいました。前年があれだけ良かったのに…これが自然の厳しさ。
こんなことが多くの漁場でいつも起きているのです。
海温の問題や赤潮、珪藻による被害。魚や鳥による食害に病気。
毎年対策しても、毎年何かが海で起こる。
『だから僕たちは毎年1年生なんです。』と海の上で語ってくれたのは鹿島第一漁場の中島さん。
積み重ねというよりは、毎年やり直しに近い。
厳しい環境の中でできる海苔が、毎年同じ味で安定した量が採れるかというと、そのハードルは高い。
それなのに、おいしい海苔が市場に並ぶのは生産者が毎年異なる努力をしているから。本当に感謝しかないですね。
そして今年の2022年度初摘み。
『1年生どころか入学試験からやり直し。』くらいの厳しいスタートになりました。それでも漁師さんたちは前を向いて今日も海へと向かっていく。
前述の言葉は、海苔屋として経験を積む私自身にとって毎年重みを増していきます。
【全体感で評価して良いのか?】
『今年は海苔が採れないんでしょ?』
ニュースを観て、こんなお客さまが海苔屋を訪れる時があります。
でも量が採れないのと、おいしい海苔が採れないのは別の話。
ベテランの海苔屋さんで『今年の海苔はだめ、去年の方が良かった。』
こう言う方もいますが、あくまでもそれは全体感。厳しい年に良い海苔を作った生産者もいる。
『おいしい海苔が採れない年ってないと思いますよ。』
自信を持って私はそう言いたいですし、そういう海苔を見つけたい。
入札でおいしい海苔を見つけられるか?
他の海苔屋さんより高い評価で買うことができるか?
なので入札は楽しみでもあり、本当にプレッシャーなのです。
だからひたすら海苔を食べ続ける。まさに佐賀の入札会場で1人食べ続ける姿がカメラに映っていました。(笑)
有明海だけではなく、全国的に見れば千葉が好調。愛知・三河湾でも過去最高値のおいしい良い海苔が採れたそうです。
いつもの海苔屋さんに納得いく海苔がなければ、違う産地の海苔を食べくらべるのもおすすめですね。
*様々な産地の海苔にご興味あればこちらの記事より
【ぬま田海苔の役割】
本当は自分たちが良いと思う海苔だけではなく、色落ちしてしまった海苔などまで評価できれば良いのですが、個人店には限界があります。
海苔にうま味がなければ、味のりに加工や業務用にしたり多くの手段がるのですが、そこはプロ中のプロである大手の海苔屋さんにお任せしたいです。
ぬま田海苔の役割としては海苔本来のおいしさを丁寧に伝えること。
おいしさの違いもそう、だから私たちも『毎年1年生』の気持ちでチャレンジしないといけません。
世界中から食通が集まる"かっぱ橋道具街"に店を構えるからには、海苔の魅力を世界に発信していくミッションも。
異なるおいしさの海苔があるのだから、おすすめの食べ方だって変わりますね。新たな海苔ペアリングが生まれるかもしれません。
まずは今年買い付けた海苔一つ一つに想いを込めて、ステッカー作りから頑張ります。
*ぬま田海苔の製品化プロセスについてはこちらの記事から
海苔の養殖方法やおいしさの秘密について、小さなお子さまに知ってもらうことも大切ですね。
《かがくのとも1月号『のり』》の制作に私も微量ながら協力させていただきました。本当に素敵な絵本になっていますので、ぜひご覧ください。
最後に、私がお伝えしたいことは、
海苔の養殖が大変=海苔を買ってください
ではなく『大変な時こそ海苔の提案を頑張りたい』ということ。
購入の目的はあくまで『海苔を食べたい。』『海苔おいしそう。』であって欲しい。応援の気持ちも嬉しいですが、食べ物を扱っているからには何よりお客さまが感じる『おいしい』や『おいしそう』を大事にしたい。
今年の海苔のおいしさに合わせた提案ができているのか?
ぜひ海苔屋やWEBサイトで確認してみてください。
今年ぬま田海苔が買い付けた海苔も、自信を持って『おいしい!』と言える海苔ばかりですので、お楽しみに。
文章や言葉で全てを伝えることは本当に難しいのですが、1%でも2%でも本質が皆さんに伝えられるよう店舗やnoteで発信を続けていきたいと思います。
以上、本年も最後までありがとうございました。
そして新年もまたどうぞよろしくお願いいたします。
ぬま田海苔へ何かリクエストがあればいつでもご連絡を。note/Twitter/Instagramどこからでもお待ちしております。フォローや投稿も大歓迎です。
すごく素敵な動画で初摘み海苔のうまみフレーク《ばらぼしじゃこ》ご紹介いただきました。チーズトーストおいしそう!ありがとうございます。
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《ぬま田海苔 合羽橋本店 店舗情報》
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