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医療費削減を妨げるのは、3つの立場のモラルハザード

こんにちは、Sonnyです。
今回は、以前から問題になっている現代の医療費の問題について、医療現場で実際に勤務している立場から、肌感覚として感じていることを書いていきます。その内容から、医療費削減や制度改善の方向性について、ぼくの考えをまとめていきます。

最近発表された、高額療養費制度の制度改善について解説しました👇

高額療養費制度は、本来、健康保険という制度の中で、大きな怪我や病気というリスクに国民全体で備えるというものです。どうしても高額になる医療費を、少ない自己負担のみで賄えるようになります。

今回は、高額療養費の制度改正は膨らみ続ける医療費の問題への対策として打ち出されています。

ただ、この制度変更が本当に医療費問題への対策になるのでしょうか。高額療養費制度の改正に伴い金額の変更を、すべてのレンジで同程度の金額が増額になるならわかります。しかし、現状は、しっかりと稼いで税金もたくさん納めている人ほど医療自己負担が多く、保険料も低くあまり税金も納めていない高齢者の自己負担がほとんど変わらない形になっています。これでは、一部の人たちが喜ぶだけで、根本的な解決にはなりません。

医療費削減に関してまず、考えるべきは、医療現場で横行するモラルハザードだと考えています。

モラルハザード(moral hazard) とは、保険や補償制度などによってリスクや費用を他者(社会保険、国など)が負担してくれる環境下で、当事者の行動が本来よりも安易・過剰になったり、責任感が希薄になったりする現象を指します。

以下では、医療現場でどんなモラルハザードは発生しているのかを知っていただきたいと思います。先にお伝えしていくと、自分は病院に来ることをやめましょう言いたいわけではありません。それぞれが、現状や制度を認識した上でとるべき行動を考えるきっかけにして欲しいのです。

♦︎患者サイドのモラルハザード:連鎖する社会への悪影響

まずは、病院に来る側の人、患者側の視点から見てきます。この記事を読んでくれたあなたにお聞きしたいのですが、生活している24時間のうちに2.3回程度の、「ん?腰ちょっと痛いな」と思ったとして、病院に行きますか?

あなたが現役世代だったり、家庭があったり、子育てがあったりして、忙しいとこの程度で病院には行きませんよね。なんらなら生活が破綻するほどの痛みが出るまで病院には行きません(これは我慢しすぎですが)。

それが、最近仕事を引退したばかり、もう仕事もなく、家にいることが多い、といった時間がある方々は、「なんかあったら困るから」などの理由で受診にきます。受診することは良いんです。レントゲンや検査、診察で自分自身の現状を知ることができますから。問題はその後。

実際に変形したレントゲン、医者から受ける「これが加齢で治るものではありません」という説明、待合で待っている自分と同じ部位を自分よりも痛そうにしている人を見ると、だんだん自身の心の患者化が進みます。

いったん患者化が完成すると、そこから湿布や注射に頼り、自分の不安を減らそうと何度も受診します。これなら、受診しないほうがよかったとさえ思います。

また、心が患者化していなくても、受診を散歩のついでで行う人もいます。ぼくは整形外科で勤務しているのですが、「物理療法」という治療があり、これはホットパックや低周波治療を行うものです。これらは、ただでさえ医療費は安いのに、さらに1割負担で数十円で「気持ちいな」いうリラックス効果やマッサージ効果を期待するものがあります。この物理療法が、安いからという理由で、常連さんみたいな方もいます。

まだあります。確かに最初は、大きな怪我をして仕事もいくことができずリハビリや受診に来る方がいます。この過程は社会復帰にためには必要な過程です。しかし、いざ、仕事復帰ができる状況になった時に、急になんだかんだ理由をつけて仕事に復帰しようとしない場合もあります。確かに色々と不安もあるとは思います。ただ、この不安が仕事に行く前からなくなることはありませんし、不安がなくなったら仕事に行くことしてしまえば、どんどん仕事復帰のタイミングを失います。

受診する方々が全員モラルハザードなんていうつもりはありません。しかし、受診する方々の一定数は確実にいらっしゃる。こう聞くと、「それでも病院の売上なるからいいのでは?」思う方もいるかもしれません。確かに売上にはなりますが、それ以上に失うものもあります。

例えば、待ち時間。以前実際にあった例ですが、お子さんを保育園に向かいに行くめ時短で仕事をしている人が、体の不調で頑張って仕事を早く切り上げて受診したにもかかわらず、病院が混みすぎて、結果お迎えの時間になってしまい診察を受ける前に帰らざるを得なかったという事例を耳にしました。そうです。病院が過度に混んで、本当に必要な方が医療にアクセスできないことが発生しています。

他にもあります。医療の必要度の高い低いに関わらず、受付をしたことで、適切な場所に誘導したり、システムを動かしたりなどなどのコストが発生します。これが意外と大変。過度に忙しくなり、スタッフもすぐにやめてしまう人がいて、採用や教育コストも上がります。

このように、高齢化や安すぎる自己負担、制度設計で発生した1人一人の行動が連鎖して、大きな問題になっているように思うのです。

♦︎政府サイドのモラルハザード:適切なイニシアチブ取らないことにより現場は疲弊する

社会保障制度と当事者の行動が安易になったり過剰になる、または責任が希薄化するというモラルハザードの定義から考えれば、現状の制度を決めている政府の意思決定も十分にモラルハザードだというように思います。

例えば、すでにたくさん言われていることですが、自己負担額の問題です。まず、あまりに高齢者側の自己負担の割合が少なすぎることです。政府サイドは選挙での票が欲しいために言ってもまだ票をたくさん持っている高齢者を優遇するような施作を継続するかもしれません。

ただ、この低い自己負担額のせいで、現場は疲弊するんですね。

自己負担が少ないため、散歩のついで寄るというコンビニ的に利用したり、どこも痛くもないのに一生懸命に通院する人が出てくるなど、すでの病院として利用しているのかすら疑問に思うことが多いです。

そして、このような人たちが多いから病院が混みます。待ち時間が増えるとイライラするのかわかりますが、それを表に出して大きな声で暴言を吐くもの元気な人です。

このような現状を政府が知らないとは思いません。しっかりと今の現状を正しく国民に伝えて上で、明確な意図と意思を持って制度設計を考えてもらいたいところです。

また、全く進まないDXの問題もあります。マイナンバーの話もそうですが、このあまりに人手と手間、無駄なルートがある手続きや事務処理の問題を改善できれば、医療費全体はもっと削減することができるはずです。

レセプトの検証や、病院の監査など書類の山を引っ掻き回さなければいけない人海戦術のようなシステムも電子化・自動化をもっと活用することでコストを削減できるはずです。

先日、こんな記事がシェアされていたのを見ました👇

つまりは、電子カルテを共有できるサービスを作りますっていう内容です。カルテ情報を共有することで、「より良い医療を提供できる」と書いてありますが、ちょっと待ってって思うのです。

カルテの共有化は例えば、その人が飲んでいる薬や既往歴などの背景をすぐに確認できる、禁忌を事前に把握できるなどメリットはあると思います。ただ、これは医療の効率化や安全性の向上であって、「より良い医療の提供」とは別の問題です。

さらにこの記事では、この共有システムは、イニシャルコストは国が払うから、ある程度普及した暁には、国民にランニングコストを負担させるという話になっています。

なぜ、効率化を図るための施作に対して国民の負担を増やすのでしょうか。これでは、一向に国民の収入が増えることはないですよね。。。

♦︎病院サイドのモラルハザード:制度設計に金勘定の機会を奪われたことによる弊害

最後は、病院側の視点に立ったものです。病院側にも規範を持った行動が必要だと思っています。

まずは、受診する自己負担がかなり少ない状態の方々の多くは、対価を支払ってサービスを受けるという認識がほとんどありません。

そのため、「もらえるものはもらおう」の精神が優位に働きます。その方々に「なんか心配だからみてほしい」「湿布が欲しい」「注射してほしい」しまいには「次はどこ手術かなー」みたいな、本当に必要?という言動や行動が生まれます。

病院サイドは、患者が希望するからという理由でこれらの提供をさざるをない状況になります。しかし、これは毎日の業務をスムーズに進める上であるある程度仕方ないこともあります。いちいち患者が怒ったりするので、診療がスムーズに進まないからです。これも自己負担が少ないことに起因するのですが。

問題はこの後。その患者心理を利用しているのかそうじゃないのか、例えば、脳外科医が経験が少ない腰の手術をしたり(ずいぶん前の話です)、適切な診断をつけず痛みが医薬品を出し、本当に診察が必要な場合でも自身のクリニックに来て欲しいがために紹介状も書かずに薬だけ出し続けようとするとか、一般的なモラルをも疑うような話も風の噂が入ってきます。

そこまでの悪質(意図しているのかしていないのかは分かりません)ではなくても、時代はすでに新しい手技や知見が次々出てくる時代において、新しいものを取り入れていかないことも問題です。

新しいものに置き換われた技術というのは、一定のリスクが相対的に高いから置き換わっていくので、置き換えていないということはその分のリスクは患者さんサイドが背負っていることなります。

この辺りも医療を受ける個人が知っていないと、流されて決まっていってしまうので、いわゆるセルフリテラシーがとても重要です。

♦︎おわりに

今回、記載した問題をすべて解決するのはかなり困難かもしれません。しかしながら、それぞれの立場で、医療費の問題に向き合っていかなければ医療費は膨らむこと以外ありません。

それぞれが、それぞれの立場でできることをやっていきましょう。


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