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何が起きても挫けない、みたいなところがある

 16歳。夏も終わり少しずつ秋の香りが街中に漂い始めて、なんだか知らないノスタルジックを感じたりするものだ。

 人生はいつも燦然と輝き、忘れた頃にやってくる人々の営みがふと「ああ、今日も生きているんだな」と思わせたりする。

 きっかけは些細な、ことみちゃんからの連絡だった。

※ことみちゃんについて



 中学3年生の頃、インターネットとの距離感が完全にバグっていた俺と新宿でエンカウントした同い年の女の子、ことみちゃん。

 ことみちゃんとはかれこれ半年かそこら何の理由もなく、ただなんとなく連絡を取っていなかったけれど、部長との甘酸っぱい夏が終わるのを見計らったように連絡をよこしてきた。
 この女、いつだってタイミングがズルかった。正直とてつもなく可愛いわけでも、話が面白いわけでもないのに、とにかく全てのタイミングが完璧なのだ。

 ことみちゃんは町田に住んでいた。
 何かとよく会いに来いとか、このまちから私を連れ出せとか、訳わからないことをよく言っていたけど、半年ちょっと経っても勿論、高校生のことみちゃんの家は未だ町田にあった。

 と言うことであっさりと、ホイホイと釣り出されて二人の中心地新宿で落ち合うことに。
 半年ぶりに会ったことみちゃんは髪の毛を茶色に染めていて、垢抜けて前より少し可愛く見えた。

 あれから半年しか経ってないのに緊張しちゃうよねとか言いながらサザンテラスのスタバに行った。
 理由はよくわかんないんだけど、俺たちは決まってこのサザンテラスのスタバに足繁く通っていた。多分二人が初めて落ち合って、精一杯の背伸びでたどり着いた店だったからだろう。

 高校生になってバイトを始めていたから、なんとかカッコつけてことみちゃんに抹茶ラテを奢れるようになっていたし、俺は俺でおいしさは分からないもののブラックコーヒーを飲めるようになっていた。

 半年ぶりだねえなんて話しながら、アメブロの時代終わったよなとか、ツイッターやってる?とか他愛のない話をしながらゆっくりとあっついコーヒーを飲んで会話を楽しむ。

 そうして訪れる、一通りお互いの話したい事を、半年間の何もなかった時間を埋めるかのようにあった出来事を一通り話し終えた頃、ハッと目が合って時間が止まった事を覚えてる。

 こうしてまんまとことみちゃんの思惑通りに俺は操られ、あれよあれよと色々あって気がついたら俺たちは付き合うことになっていた。

 この女、やはりタイミングがいいのであった。

 いつだってことみちゃんと目が合うと吸い込まれそうな闇があって、わけもわからず俺はこの子とどうにかならなくちゃ、と思い込んでしまうのだ。
 魔性の女、とは一般的なイメージではとてつもないグラマラス、色気などを兼ね備えている大人の女!というところだが、俺は間違いなく人生で出会った中で魔性の女はいるか?と問われた時に真っ先にことみちゃんの顔が思い浮かぶはずだ。

 ことみちゃんは特に冬に可愛くなる女だった。

 ボブより少し伸びた髪がマフラーで膨らみ、寒そうに口元をうずめる彼女はいつだってその魔性の目で俺をずっと、飽きもせずに眺めていた。

 こうして俺はまたことみちゃんに見つめられると、たまらなく嬉しくなって何度だって抱きしめた。

 意外と俺はこのまま、もしかしたらことみちゃんと結婚するのかもしれない!と思っていたりもして、結構仲良くやっていたんだけれど、ある日突然ことみちゃんは珍しく予告なしで電話をしてきた。

「あーごめん、私他に好きな人できたから会うのやめよ、ごめんねー」

 ぶつり、とラインがあっさりと切れ同時に縁も切れちゃったっぽい。

 ことみちゃんはいつだってタイミングがいい。ちょうど俺も別れたいと思ってたところだよ、と文句を言いながら柄にもなく「ちょっと走ってくるわ!」と家族に告げて近所の公園のベンチに座って泣いたことを覚えている。

 なんなんだよアイツは!とかふざけんなよ!とかでは無くただ、ことみちゃんにもう会えなくなるのが信じられなくて悲しかった。
 存外俺はピュアな男で、夜の公園で泣いたりするタイプだったりしたのだ。少なくとも高校生の時は。

 ひとしきり泣いた後、mixiにありがちな病みポエムみたいなものを投稿すると、共通の友達がいるだけで繋がっていた女の子もちょうど、似たような投稿をしていて顔も知らない女の子にDM
(mixiは確かメッセージ)を送るという謎のバイタリティを発揮していた。

 控えめに言ってあまりにも前向きバカな性格が幸いして、理不尽な振られ方をしたその数時間後には他の女のケツを追いかけ回したりしているのだ。

 そしてまた、俺が出会う女の人はいつだって謎の積極性とタイミングの良さを持ち合わせているから、やっぱり軽い気持ちでメッセージを送ったその子もそんな感じだった。

 いつだって俺は、やっぱりそんな感じだったのだ。

「何が起きても挫けない、みたいなところがある」

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