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【物語詩】プリズムの闇
確か私は 暗闇の中に落ちたはずで
どうして明るい光の中に佇んでいるのか
天井から床まで白の中で
まるで景色を消しゴムで洗ったみたいで
もしかして私もいなくなったかのような
「はじめまして」
雪のように凛とした声が挨拶した
「どこも怪我はない?」
花のように香しい気遣いが聴こえる
「危ないところだったんだよ」
樹のようにどっしりとした溜息がして
「私たちが居なければね」
水のように涼やかな微笑みが引き継ぐ
それから いろいろな声が
色とりどりの言葉を紡ぎ出す
あちこちから 極上の音楽のように
「ありがとう あなたたちは誰?」
私が尋ねると声たちは笑った
「名前は忘れちゃった!」
「でもね 八百屋をしていたよ」
「あたしは5人のお母さん」
「俺は大工の弟子だったんだぜ!」
名無しの姿なき人々は語り出す
まるで光輝く記憶を辿るように
「あなたたちは人間ですか?」
私がさらに問うと応える声音に陰りが出る
「人間だったよ 今は違う」
「いや 生前が人らしくなかったよ」
「それはそうかもしれない」
「いや あのときは生きるためだったんだ」
「それが良いと思ったんだ」
「それが正しいと思ったのよ」
「なんでだろう?」
「あんな呪いに苦しめられるなんて」
口の挟めない私の戸惑いと
「……まぁ 質の悪い反抗期みたいでな」
間の抜けた感想が重なったのは同時だった
遅れてクスクスと 小さなさざ波が起きる
「そうね 盛大な思春期の黒歴史ね」
波はいつしかうねり 爆笑に転じる
「ねえ あなたは同じことをしないでね」
途方に暮れて眠気を催していた私は
まるでそっと近づいて耳打ちされるような
そんな温かさに抱かれる
「私たちの過ちを繰り返さないで」
そっと瞼を開けてみたら
私は見覚えのない茂みに横たわっていた
そこでやっと自分の姿を思い出した
初めて来た田舎で散歩していた自分を
うっかり足を滑らせ 坂道で転んでいた
元にいた坂の上を振り返り 腰を上げ
ふと坂の下にある石碑に目が止まった
それは自らを供養塔だと名乗った
日差しは暑苦しく 蝉が忙しく鳴いて
これが この国の真夏だと思った
静かに両手を合わせていた
「オクニノタメニ って呪文に気をつけて」
夢の中の白い懇願を思い出しながら
「はい 頑張ります」
念仏のように宣誓の文言を唱えた
あとがき
いろいろ分かり辛かったらすみません(笑)。
明日は「山の日」なんで、山をテーマにしようかとも思いましたが……終わってしまう前に、頑張って書いてみました。来週は山ってことで!