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【物語詩】桃と栗と柿と
いつかどこかの のどかな果樹園
空いていた土地に苗が3本植えられました
跡継ぎの若い夫婦がした最初の仕事です
太陽と雨と 風の運ぶ応援に支えられ
三者三葉 苗木はすくすく育ちます
寒さに負けず 暑さにも負けず
いつしか季節が3回ほど廻った頃
苗木たちにも三つ子の魂が宿りました
「あたしはとびきりキュートな実を作る!」
苗木の1つはあどけない声で宣言しました
その通り 甘くて可愛い実が成ります
「それなら俺はワイルドに行くぜ!」
他の苗木は威勢よく啖呵を切りました
そして立派な棘で包んだ実ができます
「僕は……う~ん どうしようかな~?」
残りの苗木はのんびりと考え込みます
そうしてタイミングを逃してしまいました
それから夫婦は実を収穫して回り
いつしか彼らの子ども達も遊びまわり
季節もゆっくりと回り続け
果樹園は営みを続ける
「あなたのトゲって可愛くないわね」
「お前の実だって弱っちいだろ」
「ケンカは駄目だよ~」
こんなやり取りも5年分になりました
「ねぇ あたし 君の実が見たいわ」
ぽつりとキュートな樹が言いました
「そうだぞ そろそろ俺も見たいぞ」
ワイルドな樹もすかさず言いました
思わぬ結託に最後の樹はタジタジです
「え~ どうしようかな?」
慌てて自分の実を想像し始めます
仲良し幼馴染はまくし立てます
「君の実はきっと優しいわね」
「あと 絶対にホットだぜ」
「だって そこが良いところだから」
「うわぁ 優しいのは君たちだよ」
最後の樹は嬉しくなって返しました
湧き上がる思いを 素直に込めて
温かくて丸い実を完成させたのです
やがて夫婦が様子を見に来ました
三者三葉 それぞれに成った実を手に
にっこりと微笑み合います
「ねぇ なんで笑っているの?」
近寄った子ども達が尋ねます
三者三葉 個性豊かな三つ子です
「お前たちみたいな実が成ったよ」
旦那が言い 奥さんは頷きます
「えぇ~ そんなことないよ……」
子ども達は不思議そうに笑いました
太陽と雨雲が見守り 風が包み
この果樹園はざわめきます
もうすぐ6年目の準備を始めるでしょう
「桃栗三年柿八年」のことわざをモチーフにしてみました!