【物語詩】紅葉と黒猫
吾輩は野良猫である
名前はまだない……が
人間からはしばしばクロと呼ばれている
風流な吾輩は ひとつ 決心をした!
間借りしている小さな寺の境内で
人間のすなる「紅葉狩り」というものを
猫もしてみむとすにゃり……嚙んじゃった
この寺にはサクラはないが
大きなモミジの樹は植えてあるのだ
よく参拝客が喋っている紅葉狩りとやらを
なんだか真似てみたくなったのだ
いや……真似なんてものじゃない
吾輩がお手本というものを見せてやる!
ずっと思っていたのだ 人間どもは皆
カメラで紅葉を手中に収めた気でいる
それでは生温いっ!
ひらひら…… ──パシッ!
パシッ!
「おやおや 随分と荒ぶっているねぇ」
ムムム 住職よ 居たのか
当然だ……なにせ狩りの最中だからな!
「紅葉をそんなに勢い良くはたいて……
猫じゃらしのように見えているのかい」
そんな馬鹿な! もっと獰猛な獲物だ!
こいつら かなり身軽に攻撃をかわすぞ
「ふふふ 好きに遊んでいなさい クロ」
穏やかに笑って住職は離れて行く……
ここまでくると吾輩も意地だ
紅葉狩りを極めるべく奮闘するのだった
ひらひら…… ──バシッ!
ふぅ さすがに疲れてきたな……
日も暮れてきた 時が経つのは早い
周りを見渡す お堂の近くが明るい
掻き集めた落ち葉を焚いているようだ
獲物を焼くとは 人間も容赦がないよな
あったかいからいいけど
「クロ もう遊び終わったのかい?」
住職が吾輩に気づいて声をかける
「ちょうど良かった 少しお待ち」
住職は何やら焚火をいじり出した
するとそこから銀色の包みが現われる
何物だ……随分と熱そうだ
「小さくしたら猫舌でも食べられるかな」
中身を割って 黄色の塊を小皿に分け
それを住職は吾輩の目の前に置く
ほんのりと湯気の立つ黄金の食べ物
ぺろりと舐めると甘くて美味しい
住職……これは!?
「焼きいもはクロの口に合うかな?」
そうか ヤキイモというのか
紅葉狩りをするとゲットできるのか?
なるほど……住職よ これはいい
自らも頬張りながら住職は笑う
「おいしいねぇ クロ」
うむ うにゃい! ……また嚙んじゃった