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入院と痔のお話


 数年前に、胃腸が重くて重くて苦しくて起きているのがしんどいくらいの状態になったことがある。
 過食嘔吐がもっぱら原因なので自業自得ではあるが、さすがにこのままの状態では仕事もできないということで、緊急外来に行った。

 受付で状況を説明して、待合室で待っていると名前を呼ばれたので診察室に入った。
 数日から1,2週間前からお腹がはっている感じがして重くて苦しい、しんどくて辛いという症状を伝えた。
 それから再び待合室に戻った。ここで再び、名前を呼ばれるのを長いこと待つ。

 緊急外来は基本的に込んでいる。
一般的に、バルセロナではCAPという病院に行く。
(medico de CABECELAというかかりつけ医が住民一人一人に割り当てられる)
のだが、まず電話をかけるか直接受け付けに行って予約を取り付けなければならないのだ。
※最近では医療関係総合アプリを使ってオンラインでも予約ができるようになっているのかもしれません。

 だから予約なしで診察をうけられる緊急外来は、特に月曜日の朝がめちゃくちゃこんでいる。
 三時間待ちもざらである。実際に三時間待ったこともある。
 ちなみに、日曜の深夜に、切れ痔が悪化したために行ったら、「なんでこんな時間に来たんだ」的な対応をされた。
 人が少ないかなと思ったからです。すみませんでした。


※以下すべてスペイン語のページです。
参照:centro de atencion primaria
https://es.wikipedia.org/wiki/Centro_de_salud

参照:medico de cabecera
https://es.wikipedia.org/wiki/Médico_de_cabecera

参照:la meva salud カタルーニャ州医療ポータルサイト
https://lamevasalut.gencat.cat/


 余談はさておき、そんなわけでようやく名前を呼ばれて処置室へ入ると、ここでも「どうしましたか?」と医者に聞かれるので、
「お腹がくるしい」ことを訴える。
 ここまでで同じことを三回は説明したような気がする。受付で一度目、診察室で二度目、処置室で三度目。

 とにもかくにも、医者に症状を訴えると診察台に横にされた。お腹に手をあててポンポン軽くたたいて触診された。
 当然のように採血もされた。
 緊急時の採血なので、正確な部分までは検査できないらしいが、ひとまず点滴をうけることになった。
 ベッドのある部屋に案内されて、点滴を受けた。
 点滴を準備してくれた看護師さんに、

「いつ帰れますか」
と聞いたら、

「点滴が終わるまでは帰れません。」
と言われた。

 点滴の落ちるスピードが遅かったので、看護師さんが去ったあと勝手に速度を速めておいた。


 しばらくすると血液検査の結果をもって、医者と看護師がきた。
「膵臓の病気の可能性がある」
「あとカリウム値がめちゃくちゃ低い」
 ということで、強制的に別の大きい病院に移動させられた。
 点滴が終わったら帰ることができるのだろうな、程度の気持ちでいたため、青天の霹靂である。
いやいや、家に帰りたいですよと訴えたが、
「点滴終わってないから無理です。」
と一蹴された。
 わたしだってここで「はいわかりました」なんて素直に言うことを聞けない理由がある。
「もし入院ということになったら、寝る前の常服薬(パキシル)ないと寝れませんし、パキシルがないと精神的に落ち着けなくなって暴れます。あとコンタクト着用しているから保存する容器も必要です、携帯の充電器も必要です」

 だが、わたしの必死の訴えを医者はあっさり一蹴した。
「誰がどうやってもってくるんだ?」
「自分で家に取りに帰ってからまた病院に来ます」
 当たり前のようにわたしは答えた。
「その間に問題が起きてなにかあったらどうするんだ」
「膵臓の病気だったら大問題だ」
「ここで治療をやめて死んでも責任取れない」
 などなどめちゃくちゃ脅された。
 個人的には、お薬処方してくればいいだけなんだけどなあ。

 あきらめて救急車で別の大きな病院に移動した。複数のベッドがある場所に移された。
 そこで再度の血液検査と、またまた大量の点滴を受けるはめになった。

 移動先の病院での血液検査の結果、膵臓の病気ではないことはわかった。
 しかしカリウム値があまりにも低かった。そのため、カリウム値が正常の範囲内に戻るまで点滴は終えられないといわれた。

 わかってはいたけれども、看護師さんに
「いつ帰れれますか?」と尋ねたら
「カリウム値がよくなるまで帰れません」と言われた。
いやいやカリウム値が一朝一夕で上がることはそうそうないでしょう、とわたしは嫌な予感がした。
 今日はもう家には帰ることは無理だ。
 そのため、一応念のため、病院のため、自分の精神衛生上の健康のため、看護師に自分の希望を伝えた。
「わたしはアスペルガー症を持っているので、パキシルを飲まないと攻撃性や衝動性が抑えられないのです、夜に眠ることもできません。またコンタクト着用しているから外して保管する容器も必要です。(※当時は眼鏡を盗まれてもっていなかった)それから、携帯電話の充電器も必要です」
 できるだけはっきりと、拙いスペイン語で要望を伝えた。
 だが、「わかりました、ちょっと待っていてください」、といわれたきり、放置プレイに処された。
 わたしの心からの本気の訴えは、聞き入れられなかったのだ。

 パキシルが切れてくると、本当に本当に、イライラが抑えられないし攻撃性が強くなるし、言葉遣いもひどくった。
 例えば、看護師さんに対して
「あなたはわたしのことを心配してくれていない、本当に、パキシルがないとまともに思考も行動もできないんです」
「あなたの人生において、わたしが死のうとどうなろうと関係ないでしょう」
とかとかとかとか。
 今思い出しても、結構失礼なひどい言葉を吐き散らかしていたなあと思う。八つ当たりってやつなのでしょうか。
 医療の現場で一生懸命尽くしてくれている方々に対して、申し訳なかった。
※以来、緊急外来に行く可能性がある場合は、念のためパキシルと充電器も持っていくようになりました。
※実際そのあと一度、日帰り入院にもなった。
※現在では眼鏡着用しています。

 余談が長くなったが、かくしてほぼ眠ることができず一晩を病院で過ごしたのだった。
 翌朝、想定通りパキシルが切れてめちゃくちゃイライラしていた。物にあたりたくなる衝動性と攻撃性が抑えられない。
 ふと腕に刺さっていた点滴の針に視線が向いた。

これ、簡単に外せるんじゃないのか?

 思ったときには、すでに行動に移していた。
 針を腕に固定しているテープをはがして、自分で点滴の針を抜いた。
あっさりと抜けた。
 針の抜けた穴から、たらたらと血が流れてきたが、点滴の針をおさえるためにに使われていたガーゼとテープを再利用した。
 それから、ベッドの下にしまい込んでいた洋服を着て、靴を履いて、逃げ出そうとした。

 そのタイミングで、バレた。
 看護師が来て、勝手に点滴を抜いたわたしをあきれたように見てから、医者を呼んできた。
 医者が来て、なにやらいろいろと言われたような気がするが、そのときのわたしの頭の中はもはや、
「逃げたい帰りたいここから出たい」
という考えでいっぱいだったので、何を言われていたのか、あんまり覚えていない。

 確かなことは、「誓約書」みたいなものに署名をさせられた、ということ。

その紙には、
「カリウム値を正常値範囲内にするために、カリウム剤を飲むこと」
「一週間以内に、診断書をもって、病院へ再検査に行くこと」
「自分の意志で退院したこと。つまり病院側は退院の許可を出していません。そのためこのことで何か問題が起きても責任は持ちません」
というようなことが書かれていた。

 自分は当然了承した。
 呆れたような様子の医師が署名した誓約書と、診断書、それと処方箋をもらって、やっとこさ、病院を脱出した。

 一日ぶりに病院の外で浴びる朝日は、めちゃくちゃ眩しかった。多分、パキシル飲んでいない状態でコンタクトレンズもつけっぱなしで一晩過ごしたからだろう。
※パキシル常服者が突然服用をやめると、禁断症状みたいなことが起こるのです。光を眩しく感じたり、テンションがハイになったり、体がだるくなったり。

 それから薬局へ寄って処方箋のお薬を買って帰宅した。
 やっと解放された。長かった一夜だった。

 数日後、医者に言われた通り、『最初に診察を受けた緊急外来』に行った。
 受付で診断書を渡すと、「ここでは対応できないよ」と言われた。
 今思うと、「かかりつけ医にいけ」といわれたのだが、その時のわたしのスペイン語力では何を言っているのかまったく理解できず、
「じゃあ、まあ、いっか」
と、そのまま放置し続けた。
 処方してもらった胃腸の薬が効果あったようで、それ以降、胃腸の件で苦しくなることは、ほとんどなくなったからだ。
 まあ正論としては、過食嘔吐をやめればいいだけのことなんですけれどね。
 わたしにとっては、うんこをするのと同じように自然な日常のルーティンになってしまったのでございます。

 それから約一年後。
 日本で、硬くなりすぎた肛門の筋肉を緩和する手術までしたというのに、切れ痔が再発した。
 そのためようやくCAPに連絡をして、かかりつけ医の予約を取って、診察を受けた。
 待合室で自分の番を待っていると、名前を呼ばれたので入室した。

 初めて「かかりつけ医」と出会った。
 そして医師はわたしを見るなり開口一番、
「待っていたよ」
とにこにこしながら言った。

 おそらく、もう、お分かりですよね。
 約一年前に一晩過ごした病院で、自力強制退院時に言われたことは
「一週間以内にかかりつけ医の診察を受けなさい」
ということだったのだ。

 しかもこの一年の間に、かかりつけ医はわたしに何度も電話連絡をしたらしいが、一切つながらなかった、と言っていた。
 そりゃそうだ。見知らぬ番号には基本対応しませんよ。
「ぜんぜん電話にでないから、どうしているのかなと思ってたよ」と笑われてしまった。

 そんな談笑ののち、一年前の血液検査の結果を手渡され、当然のようにカリウム値が低いことを指摘された。
 これに関しては、カリウム剤を継続的に処方してもらうことにした。

 それからようやく本題である肛門の診察を受けた。
 診察台の上に上がって、体を横にしておしりを見せる。
 特に肛門の状態を調べるための器具を使われることはなく、指先で何度か肛門付近を触られただけ、のように感じた。
※実際は拡大鏡か何かを使用したかもしれませんが、見えなかったのでどのように診察したのか詳細は不明です。

 触診が終わると診察台から机の前に戻った。
 医師は、血液検査の結果が印字された用紙の裏に、わたしの肛門の状態を丁寧に図を書いて説明してくれた。


 肛門に、裂け目(Fisura)がある、と教えてくれた。
※Fisura:grieta,brechaと同義。割れ目や裂け目のこと。
 だから肛門が非常に切れやすい状態である、と説明してくれた。

 どうやら切れ痔はすでに慢性的なものになっていたようで、肛門性交をやめない限り治らないと言われた。
 せっかく、日本で切れ痔治療の手術を受けたというのに、結局再発してしまったのだ。
 まことに遺憾である。

 とにもかくにも、カリウムについてはカリウム剤を常服すること。
 切れ痔については、市販の痔のお薬でかまわないそうなので、悪化しない限りは肛門を大事にしましょう、という結論にいたったのだった。



そんなわけで今回は、入院と切れ痔のお話でした。



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ぬこ尻ryo
バルセロナ愛を込めて執筆しております。 記事を評価してくださった方はぜひサポートをお願いします!(._.)!生きる糧になります!( ;∀;)!