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「プロジェクト発信型英語プログラム」(1ー1)....立命館大学生命科学部薬学部(在籍2008~2014)中間報告(2011)

「プロジェクト発信型英語プログラム....立命館大学生命科学部薬学部(筆者在籍2008~2014)中間報告(2011)」(1-1)です。2011年4月に起稿した記事です。掲載時そのままお届けします。




はじめに

『TOEFLメールマガジン』の筆者のコラムFor Lifelong Englishでは、2007年から2013年にかけ、

「様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかか わって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違いま す。このシリーズでは、英語を使って活躍する・方にお話を聞き、その人 の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、 生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいも の、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。」

という趣旨で「英語にかかわる仕事をする人々」シリーズを企画し、各界で英語にかかわる仕事をする方々、また、その環境づくり貢献されている方々とのインタビュー記事を掲載しました。

そうするうちに、ワークプレイスで英語を使える人材をどのように育成しているかを問われることもあり、慶應義塾湘南藤沢キャンパス環境情報学部・総合政策学部(1990年-2008年在籍)、立命館大学生命科学部・薬学部(2008年から2014年まで在籍)に導入した「プロジェクト発信型英語プログラム」を紹介することにしました。

なお、本稿は2011年3月に起稿し記事で、当時在任中の立命館大学生命科学部薬学部で実施していた本プログラムの概要・成果を例にしております。拙著『グローバル社会を生き抜くための英語授業:立命館大学生命科学部・薬学部・生命科学研究科「プロジェクト発信型英語プログラム」』(創英社・三省堂、アマゾン)に立命館での成果を総括し記しました。前後しますが、拙著『英語教育グランドデザイン:慶應義塾湘南藤沢キャンパスの挑戦と展望』(慶應義塾大学出版会』に湘南藤沢キャンパスでの本プログラムの足跡と成果を記しました。

さて、慶應義塾大学環境情報学部・総合政策学部で本プログラム受講者(英語は選択制であったため英語受講者は一部で更にその一部が本プログラム受講)の皆さん、立命館大学生命科学部・薬学部で本プログラムを受講者(両学部全員)の皆さん、あれから長い年月を経ていますが、各界あちこちのワークプレイスで益々英語を使う機会が増えている現在、本プログラムは役に立ったでしょうか?


まえがき

2011年3月11日の東北関東大地震で尊い命を失われた方々のご冥福を祈り、被 災された方々にお見舞い申し上げます。被災地が一刻も早く復興することを心よ りお祈り申し上げます。 今回から3回にわたり、2008年4月に発足した立命館大学生命科学部薬学部の 「プロジェクト発信型英語プログラム」(立案・企画・担当 総責任者 鈴木佑 治)を紹介させていただきます。

初回(1-1/1-2)はプログラムの基本理念を中心に、2回目(2-1/2-2) はプログラムの構成を中心に、3回目(3-1/3-2)はプログラムの成果を中心に紹介します。

情報受信は、情報発信のため

意識についての最先端の研究をしているダニエル・デネットという著名な脳神経 学者がいます。意識の多文章(multiple drafts)理論という学説を立て、脳神経 学で遠ざけてきた意識という難問に果敢に挑戦している脳神経学者です。人工知 能に精通し、唯物論の視点から、デカルトの心身二元論を否定するため、意識を もつ人工知能を作ろうとしているようです。デカルトは、心と身体は別物で、高 次機能は心に、低次機能は身体にあり、心には思考などの高次機能を扱う小人が 存在し、身体を支配すると考えました。それに対して、デネットは、身体は心の 基盤であり、心と身体は一体であるという心身一元論を主張し、人工知能を備え たロボットも意識すなわち心を持ちうることを実証しようとしています。極端な 機械観的唯物論と言えますが、ここまで過激ではないものの、心と身体は一体で 心は脳神経という身体に依拠すると考えるアントニオ・ダマシオのような脳神経学者も大勢います。

ことばという機能の基盤は脳神経にあることは確かですから、脳神経の研究はこ とばを知る上で重要です。その意味で脳神経学の研究論文を読むと、宇宙のよう に果てしなく広がる脳神経については種々諸説があり、喧々諤々の議論が行わ れ、確実に実証された事象が限られている、依然として未知の領域であることが 分かります。ただし、私たちの脳には感覚野と運動野があり、両者が協働して情 報を受容し、解釈し、それに対して新たに情報を組み立て反応するということは 共通に認識されています。情報の受容から理解までの受信過程と、それに対する 情報組み立てから反応までの発信過程が1サイクルとして直結していることは明 白です。情報受信・理解と情報発信・反応は互いに依存しているのです。

このこ とは、ことばの習得にとって前提となりうる事象であると思います。聞いたり読 んだりして情報集めをするのは、話したり書いたりして情報発信するためである と言うことです。発信のための受信はとても能動的ですから、聞くことも読むこ とも量質かなり充実します。よって発信することで受信スキルは向上します。聞 いたり読んだりするだけでは、聞く読むのスキルの向上はあまり望めません。

私たちの日常生活は聞いたり読んだりするだけに終始するでしょうか。聞けば話 す、読めば書いて発信したくなります。話すことや書くことに障害をもったとし ても、ことば以外の表現方法で情報を発信します。情報の受信と発信はコインの 裏表のようなもので分離することはできません。対になって初めて機能するのです。ですから、聞くだけ、読むだけ、あるいは聞いて読むだけでは、母語であれ 外国語であれ、そのことばの習得は不発に終わるでしょう。

TOEFL ITPテストや TOEICテストなど、習熟度を測るテストが主として聞くことと読むことをテストすることから、このような偏った学習方法が闊歩しているのかもしれません。聞 いたり読んだりしさえすればこれらのテストの点が上がるものと思いがちです が、実は、同時に話したり書いたりして発信すれば、更に高得点が期待できるで しょう。

私は1968年に渡米しましたが、渡米直前にTOEFLテスト(現在で言うTOEFL PBT)を受けたところ545点でした。渡米後の数カ月は、話すことはおろか聞く こともままならず、読んだり書いたりすることも現地の生活ではまったく機能し ませんでした。レストランでオーダーすることにも、道案内を聞くことにも、メ モを読んだり書いたりする日常生活の些事さえままならず何度も立ち往生したも のです。それから友人を作りアルバイトをしたりしながら、下手を承知で話した り書いたりして自分から積極的に話題を提供したりしました。そんなことを繰り 返すうちに、1年後にはTOEFLテストで600点以上のスコアを上げるようになっ ていました。

現地の生活に溶け込むには、体を動かして自分の意見を言わなけれ ば孤立します。友達もできませんし、仕事にもありつけません。そこで、現地の 人々の生活に関心を持ち、彼らの話に耳を傾け、新聞雑誌を読み、テレビ・ラジ オに耳を傾けて話題を拾い、同時に身振り手振りも多用して進んで会話の輪に飛 び込みました。そうこうするうちに気がついてみると、聞く力も抜群に伸び、か つてなら1時間かけたであろう読み物も数分で目を通せるようになっていまし た。

現在、TOEFLテストは、インターネット版TOEFLテスト(TOEFL iBT)に移行 し、1960年代のTOEFLテストとは違い、読む・聞くだけでなく、話す・書く技 能も測るテストに移行しています。もし私が1968年と1年後の1969年にTOEFL iBTを受けていたとしたら、話す・聞く技能を測るテストのスコアにも一層の向 上が見られたものと思います。

受信的なことばの能力・知識 vs 発信的なことばの能力・知識

さて、聞く・話す・読む・書くなどの4スキルを行うには、先立つものとして、 文法・表現・語彙・発音といったことばの能力・知識が不可欠です。実は、こと ばの能力・知識には、聞く・読むなどの受信的スキルに特化したものと、話す・ 書くなどの発信的なスキルに特化したものがあり、両者には質的な違いがあるよ うに思えます。

聞いたり、読んだりする情報には、あらかじめ文法・語彙・表 現・発音が埋め込まれてあります。よって、分析・解読に特化した受動、受信型 ことばの能力・知識が機能します。

しかし、話したり書いたりする場合は違いま す。自分で文法・語彙・表現・発音を情報に盛り込まなければなりませんから、 能動、発信型のことばの能力・知識が必要になります。

例えば、日本語の語彙の知識・能力を考えてみましょう。読める漢字の数の方が 書ける漢字の数より圧倒的に大きいことが分かるでしょう。普通、受信型のこと ばの能力・知識が、発信型のそれよりも大きくてしっかりしていますが、受信型のことばの能力・知識は、発信型のそれと連動しており、発信型 のそれがより強化されると受信型のそれも更に強化されるであろうことが予測さ れます。書く漢字力がupすれば読める漢字力もupします。

すなわち、発信型の 文法・語彙・表現・発音力がつけば受信型のことばの能力・知識は堅固なものに なるでしょう。TOEFL ITPテストやTOEICテストも文法・語彙・表現のセクショ ンがありますが、発信することによりこのセクションの点も上がるでしょう。

ここで、私の個人的体験をもう一つ例として述べたいと思います。私は65歳を機 に規定により退任しましたが、それ以前長きにわたり英検1級の面接員を務めており ました。1級の試験では始める前に簡単に挨拶のようなものを交わします。 TOEICテストで900点以上を取ったと言われる方々が多くおられましたが、その 中には、いざ面接が始まると硬直して一言も話せない方がいらっしゃいました。 こちらの質問は分かるのですが、どう話したらよいか焦ってしまい頭が真っ白に なってしまったようです。ご本人も聞いたり、読んだりしただけで話す機会はあ まりなかったと言われてお帰りになりました。

その通りです。聞いたり、読んだ りするだけでは、聞いたり読んだりするだけの情報受信型のコミュニケーション に長けても、情報発信型のコミュニケーションはできません。受動型のことば能 力・知識はある程度備わっても、能動・発信的なそれが備わらないからです。

最 近、多くの企業でもこのことに気づき、聞く・話す・読む・書くの4技能がバラ ンスよく備わった上でTOEICテストができるかどうかを見るようになっていると 聞きます。企業活動では、物を作り、売り、買いしなければなりません。みな発 信行為です。発信しなければ物を作れませんし、売ることも買うこともできませ ん。

(1-2)に続く。


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