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ホーソーン『緋文字』...Halloweenとセイラム魔女裁判(5-1)


はじめに

Halloweenで賑わうニューイングランドSalemで17世紀末に起きた魔女裁判(1)
Halloweenで賑わうニューイングランドSalemで17世紀末に起きた魔女裁判(2)
Halloweenで賑わうニューイングランドSalemで17世紀末に起きた魔女裁判(3)
Halloweenで賑わうニューイングランドSalemで17世紀末に起きた魔女裁判(4)...巨星ホーソーンの名作『七つの破風の館』とのつながり

に続く(5-1)です。今回はHawthorneの代表作TheThe Scarlet Letter(PDF)(1950,緋文字)とのつながりです。

The Scarlet Letter (緋文字1959 Signet Classic 版)

アメリカ・クラッシク文学を代表する作品の一つで、数多くの言語に翻訳され、アメリカのみならず他の多くの国々でも文学教養書とし読まれてきました。1600年代のアメリカ東部ピューリタンコミュニティーにおける原罪、罪悪感、贖罪を題材にしていますが、他文化でも形を変えて存在する本質的な問題であり世界中の人々の共感を生むからでしょう。これを読まずしてアメリカ文化、歴史、社会、政治、経済、法律、そしてエンターテインメントを語るなかれと言える一冊です。

勿論、文学作品として寓意性、象徴性に富み、筆者が日本の大学、大学院時代に卒論、修論で取り上げたプーリタン文学の傑作John BunyanのThe Pilgrim's Progress 『天路歴程』に関連付けて別稿を起こしたいと考えております。本稿(5-1)と次稿(5-2)の2稿では、Halloweenで賑わうSalemで17世紀末に起きた魔女裁判とのつながりに絞り、本稿(5-1)ではストーリーの時代と舞台およびあらすじを、次稿(5-2)ではセイラム魔女裁判にからめた筆者の感想をお届けいたします。

作品執筆経緯、時代、舞台

本作品1章ThePrisonと2章The Market Placeから、ストリーの舞台は本作品が書かれた1850年より200年遡ること1650年近辺のNew England Colonyの一つMassachusetts ColonyのBostonであることが分かります。

New England Colony in 1677(Massachusetts Bay Colony, Plymouth Colony, New Hanpshire Colony)

ただ、Bostonであることは確かですが、上記の地図を見ると、Bostonと魔女裁判が起きたSalemまでは約40キロメートル、江戸と藤沢の宿辺りまでの距離です。

作品冒頭のThe Custom Houseと称する序論では、ナレーターが本作品を書くに至った経緯を40ページにわたって詳細に綴っています。ナレータは、SalemにあるCustom House(税関)にて調査官として赴任していた時、屋根裏部屋でアルファベット文字Aの形をして周りを金の刺繡が施された朱色の古びた布切れと古の調査官が作成したとみられる書類を発見します。そしてそこを退任するやそれに基づき本作品を書いたとありますが、このナレーターがHawthorne自身であることは自伝からも一目瞭然です。

Salem魔女裁判との関りでいうと、本作品のストーリの舞台をBostonとしていますが、実際には次の3点から同時期に前後して起きた魔女裁判の舞台であるSalemと推察します。(1)Aを模った緋色の布切れと書類を見つけたのはSalem Custom Houseであること、(2)主人公のHesterと娘のPearlが住むことになる山小屋の所在地がBoston outskirtsであること、(3)次回(5-2)で詳細に触れますが、最終章に続くEndicot and the Red Crossの舞台がSalemとされていること。

The Scarlet letter ストーリーのあらすじ

私事ですが、筆者がこの作品を読んだのは1966年日本での大学院修士課程時代でした。細部をすっかり忘れており、58年後の現在もう一度読み直してみたのですが、何せ老いたる身、読むそばから詳細を忘れてしまいます。幸いにも、The Scarlet Letter: Full Book Summary (SparkNotes)というサイトが
非常に簡潔にあらすじをまとめているので、以下、その線に沿い、少々編集を加えて邦訳しお届けします。この名著を未読の若い読者はこれを機に是非とも読まれるようお勧めします。原典The Scarlet Letter(PDF)でも邦訳でも。


ストーリーは17世紀Bostonのピューリタン植民地で始まります。町の広場で民衆が群がる中、うら若き女性Hester Prynneが産まれたばかりのPearlを両腕に抱えて監獄より護送されてきます。衣装の胸元にくっきりとAの緋文字を付けて。そこへ通りかかった年配の男が一人、そばに居合わせた人に何事かと尋ねると、Hesterが姦淫(adultry)の罪で罰せられているとの返事が返ってきます。

この男はほかでもない年齢が離れた今で言う年の差婚の夫で、学者(多分医者を生業にイギリスまたはオランダに居住していたピューリタン)、植民地への移住を決意し、先に若き妻のHesterを送り、後で落ち合うつもりでした。ところが渡航中に海難事故に遭いかろうじて永らえて2年ほどあちこち彷徨った後、ようやくこの植民地にたどり着いてこの光景に出くわします。

その2年の間に彼女がほかの男と関係を持ったことは、腕に抱かれた乳飲み子が物語っています。彼女は相手の男の名前を明かさぬまま獄生活を送り、刑期を終えたこの日も、さらし台に立たされ長老ピューリタンらに厳しく追及されても相手の名前を口にしません。その時、彼女は見物人の中に遭難して死亡したと思われていた夫の姿を見つけます。動揺を抑えながらも無言を通し、これからは罪と秘密(相手の名前、結婚した夫の名前)を抱え姦淫(adultry)の頭文字を取ったAの緋文字を胸に付け、蔑む衆目の中でひっそりと暮らす決意をします。

怒りと嫉妬に燃えた夫は、Roger Chillingworthという偽名を使い、Bostonに居を構え、相手を探し出してHesterと同じ裁きを受けさせようと考えます。復讐の鬼と化すのです。Hester以外には身元は割れていません。Hesterに秘かに会い夫であることを明かさないよう誓わせます。

厳しい周囲の監視の中、Hester母娘は社会から隔離し、Boston郊外(多分Salem Village)の山小屋にこもり裁縫師として生計を立てます。話し相手はPearlのみです。Pearlにとっても母が唯一の友ですが、こちらは屈託なく森の中を自由に駆け回り、自由気まま、やんちゃ(wanton)で妖精のような少女に育ちます。Hesterは気がかりでなりません。案の定、地域ピューリタン会衆の目に留まり役職者らがPearlをHesterから引き離そうとします。カルビン主義で禁欲生活を送り贖罪を求める急進派ピューリタンにとって、誘惑としか思えず承服できなかったのでしょう。

切羽詰まったHesterは、会衆の尊敬を集め、かつ、雄弁なArthur Dmmesdale牧師 になんとかとりなしてくれるよう求めます。その甲斐あって母娘は一緒に住み続けられることになります。

ところが今度はDimmesdale牧師が心理的ストレスから原因不明の心臓の病に襲われます。それを聞きつけた夫のChillingworthは逃しません。Dimmesdale牧師に接近し、ついには24時間医者の介護を要する患者であるとして医者として牧師の家に住み込みます。前々から牧師の病とHesterの秘密とに何らかの関係があるのではと睨み、牧師を診察して探ってみようと用意周到に策を練っていたのです。

そんなある日の午後、診察中に牧師の胸部の肌にAの文字があるのを見つけ、睨んでいた通りと確信します。Dimmesdale牧師の苦悩はますます激しくなりとうとう自らを凝らすような苦行に走るのです。治療と称し、Chillingworthがあの手この手を使って牧師を精神的に追い詰め、自発的にそういう行動をするよう追い詰めていたからです。

一方、Hesterは慈善行為や謙虚で静かな行動はやがて人々がみとめるところとなり彼らかの侮蔑から解放されます。Pearlは成長して7才になります。あれから7年の歳月が流れたことになります。

そんなある夜、自らの罪を咎めようとさらし台に乗るDimmesdale牧師を目撃します。HesterとPearlもさらし台に駆けつけ3人は手を繋ぎます。3人が見上げる夜空にほの赤い星たちがAを描きます。Pearlは牧師に対し翌日公衆の面前で彼女が彼の子であることを告げるよう懇願しますが、彼は拒否します。

牧師が苦しむのを見てHesterは、ひそかにChillingworthに遭い、彼を苦しめないよう懇願しますが、復讐に燃えたChillingworthが受け入れるはずがありません。そこでHesterはひそかにDimmesdale牧師に会い、Chillingworthの悪だくみを明かして阻止しようと決意します。

こうして2人の恋人はひそかに森で会い、Pearlと一緒にヨーロッパに逃げ3人で暮らそうと考えます。4日後にBostonから船に乗る計画です。2人は安堵し、Hesterは初めて胸の緋文字Aを取り外し髪を下ろします。ところが二人の傍らで遊んでいたPearlは緋文字を取り除いたHesterの姿を見ても喜ばず、Hesterの胸元に手を当て探ろうとします。(Pearlにとっては自分が産まれた経緯を示す証が外されてしまったのですから。)

いよいよ船が出港する前日の祝日、Dimmesdaleは教会に集まった会衆にこれまでの生涯で最も雄弁な説教をします。その最中、Hesterは、夫Chillingworthが彼らの計画に気づいて同じ船に予約を取ったことを知ります。

Dimmesdaleは説教が終えると教会を後にし、さらし台の前に立つHester とPearlと会います。するとなんと彼は恋人と娘の手を取ってさらし台に登って自らの罪を告白し、服の胸を開いて肌に刻まれたAの文字を公に晒します。喜んだ娘Pearlがキスをすると、それを受けながら倒れ、そのまま息を引き取ります。

一方、Chillingworthは復讐半ばでとん挫し失意のうちに翌年息を引き取ります。

HesterとPearlはBostonを離れてその後の消息は分かりませんでした。しかし、何年か経ったある日、Hesterは単身Bostonに戻り、胸に緋文字を戻し、以前の小屋に住み慈善に励みます。ヨーロッパに渡った後、貴族と結婚し家族をもうけたPearlからは時々手紙が届きます。

Hesterは息を引き取ると、Dimmesdaleの横に葬られます。二人の墓には一つの墓石があり、そこには一つの緋文字Aが刻まれています。


(5-2)に続く。『緋文字』とセイラム魔女裁判に絡めた筆者の見解・感想

For Lifelong English 生涯英語活動のススメ (鈴木佑治Website)

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鈴木佑治
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