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巨額寄付金ランキング、Harvard7兆円!Yale6兆円!揺らぐ学の独立、言論の自由(分割バージョン2/2)

表紙写真The 1875 program for the Harvard vs. Yale game played using rugby rulesより IVY Leagueって19世紀はラグビーのリーグか。

「巨額寄付金ランキング、Harvard7兆円!Yale6兆円!揺らぐ学の独立、言論の自由(分割バージョン)」2/1の続き2/2です。

トップ校は授業料・諸費用が高いが全額奨学金を出すので人気も難易度もうなぎのぼり


これらIvy校の授業料・諸費用(tuition and fees)は平均$80,000(11,600,000円以上します。年収$150,000 (約22,000,000円)中間所得層の子女でさえ尻込みする額です。そこでハーバードでは潤沢な寄付金のうちの2.9%(目標8%)$850million(1,232億円)を年収$150,000以下の家庭の子女対象全額奨学金に割り当てています。他のIvy校やIvy-plus校 も同様な対策をとっています。これが人気を呼び、これらの大学では応募者数が増え、難易度が上がり、名声も高まり経営が安定するという好循環を享受しています。

それに対し、寄付金が少ない大学は悲劇です。授業料はIvy校ほどではないとしても平均すると、私立約$42,162 (約6,200,000円)、公立州外生$23,630 ( 約3,420,000円)州内生$10,662(約1,549,000円)です。寄付金を得られず全額自己負担です。4000校の大部分がこのケースに当てはまり、結果、全米約2000万人にのぼる大学生(うち公立大生73%、私大生27%)が学生ローンを抱えることになります。Student Loan Statsisticsによると、学生ローンの総額は$1.77trillion (約250兆円)、卒業時に1人当たり平均$29,100 (4,200,000円)、私大生$33,000(約478万円)、公立大生$27,400(約397万円)ということです。そんな借金を抱えてまで大学に?と考え直すことになり、奨学金が少ない大学は志願者は激減し、定員割れを起こし、経営難にという負のスパイラルに陥ります。

Ivy校とIvy-plus校には多くの志願者が殺到しますが、年間$80,000以上、4年間$320,000(46,4000,000円)以上の授業料・諸費用が掛かかります。中間所得層や低所得層の子女は奨学金がもらえることを条件に応募するでしょう。公的ローン、それがダメなら民間ローンになりますが、借りられるかどうか分かりません。奨学金がもらえなければ断念せざるを得ません。ハーバードでさえ奨学金の総額$850 millionですから130名程度しか全額奨学金を受けられません。結果、奨学金をあてにする必要がない一握りの富裕層の子女が埋めることになり彼らに有利になります。この事態を受けCBS Newsリポート"Ivy favors rich kids for admission while middle-class face obstacles, study funds"が痛烈に批判しています。

ハーバードの学費は、冒頭のCBSの記事が指摘するよう1975年に $5,350で、それ以後の50年間の消費者物価指数(the Consumer Price Index)を反映するとしたら、$30,000(4,350,000円)が妥当で、$80,000 (12,000,000円)はインフレーション率を遥かに超えると批判されています。多額の寄付金の一部を回して低所得層、中間所得層合格者対象の奨学金で救済しておけば、是が非でも子女を入学させたいと願う$1million所得層3000万人(2020統計)が控えているわけです。そうした安易な考えが学費高騰の要因になっていなければと願うのみです。 

学の独立をおびやかす寄付金―Israel-Hamas問題で岐路に


これら著名大学の寄付で目立つのは巨額寄贈者megadonors存在です。日本では想像もつかない高額寄付です。Here are 15 donations ever to US colleges and universities.(Forbes)に歴代最高額寄贈者15例が挙げられています。冒頭のCBS のMoneyWatchの記事は、巨額寄贈者は多かれ少なかれ大学の政策やカリキュラムに影響を与えていると述べています。

現在、イスラエルとハマスの衝突に伴い、これらIvy校をはじめ各地の大学では、人質解放とハマス撲滅を掲げGaza侵攻を企てるイスラエル政府を支持するグループとそれを非難するグループが激しい抗議活動を繰り広げています。Harvard and UPenn donors are furious. It may have a financial domino effect (CNN10/23/2013)が報告しているように、ハーバード大学、ペンシルバニア大学その他の大学で、イスラエル・ユダヤ支援を掲げる巨額寄贈者が、大学経営側の、ハマス襲撃と学生・教職員による反イスラエル抗議活動に対する反応が生ぬるいとして寄付を打ち切ると迫っています。

ハーバード大学では億万長者 Leslie Wexner とAbigail Wexner氏のThe Wexner Foundationがハマスのイスラエル襲撃に対する大学の姿勢を批判して寄付を打ち切っています。ペンシルバニア大学では、ハマスによる襲撃に対し大学側が抗議せず沈黙を保ったとして、Jon Huntsman元大使が寄付を打ち切ると宣言し、Wall Street CEO Marc Rowan氏は大学経営陣の辞職と他の寄贈者も寄付を打ち切るよう呼びかけました。特筆すべきは、Ronald Lauder氏が大学が反ユダヤ主義(antisemitism)に対し更なる努力をしなければ寄付を打ち切ると断言したことです。氏は長年財政支援の中核を担ってきた中心的存在であるからです。

それに呼応してか、冒頭のCBSの MoneyWatchの記事によると、 Wharton Business School卒業生でヘッジファンド・マネジャーRoss Stevens氏も、学長Liz Magill氏の反ユダヤ主義に関する議会証言を不服とし、$100 million donationを打ち切ると通達しました。同時期に“The Palestine Writes Literature”と称するパレスチナに関する催しが行われており賛否両論入り乱れそれに対する学長の見解が揺れました。結局、Magill氏は辞職 stepped down せざるを得なくなりました。

ハーバード大学でも学長Claudine Gay氏が辞職を迫られましたが、こちらの方は、大学最高決議機関と教授陣多数の援護があり辞職は避けられたとのことです。アメリカの大学は学生が自立、独立できるよう、そのスキルの習得に力を入れています。ハーバードの“Becoming independent: skills you’ll need to survive the first year at college.” (Harvard Summer School)と称するサイトがそれを物語っています。当の大学が渦中の問題でこのように揺れていては説得力に欠けてしまいます。ハーバード大学の対応はそうしたことを踏まえてのギリギリの決断であったものと思えます。

1971年採択されたアメリカ合衆国憲法修正第一条(First Amendment)は、宗教の自由な行使を妨げる法律の制定の禁止、表現の自由報道の自由、平和的に集会する権利請願権を妨げる法律の制定を禁止しています。渦中の一連の行動は第一条に抵触します。 ハーバード大学、イエール大学、コロンビア大学はveritus(truth/真理)とlux(light/光)を、スタンフォード大はfreedom(自由)を、独立宣言と憲法宣言が行われたフィラデルフィアにあるペンシルバニア大はLeges sine moribus vanae(Laws without morals are useless/モラルに基づく法)をモットーに掲げ、約400年、300年、200年もの伝統があります。当然、合衆国憲法修正第一条に基づく真理であり、光であり、モラル、自由を追求する最高学府としての伝統を守り続けなければなりません。それがアメリカのこれらの大学に求められる学の独立につながります。

教育が民主主義(democracy)の根幹であり、その集大成としての最高学府である大学が、先頭に立って言論の自由、平等、よって多様性を死守しなければその存在意義は薄れます。大学教育は貧富分け隔てなく多くの人に開かれるべきです。しかし、昨今の学費高騰は高額所得者に有利であるがため民主主義にブレーキがかかり、寡頭制(oligarchy)、 金権主義(timocracy)、そして、独裁政治(autocracy) に堕落する一歩にならないかと危惧する声がネット上に見受けられます。大学への寄付は、本来ならluxとveritusの促進に向けられるべきですが、寄贈者の思惑(causes)が反映され手っ取り早く言えば条件付き"with a string attched"というのが現実でしょう。多額の寄付金を集めれば集めるほどどうもがいても動きがとれないCatch-22的ディレンマに陥る可能性も高くなるわけです。それが現在起きています。

2024年10月後記

本稿を執筆したのは2023年12月、その後、イスラエル・パレスチナのハマスの対立は激化し、現在、ガザ地区の状況は最悪、今や隣国ヨルダンにまで戦火が広がりつつあります。アメリカ民主党政権はイスラエルを支持する一方、同国の過剰ともいえるガザ攻撃に反対しいわば板挟み状態です。アメリカのこれらエリート校は学の自律・独立・自由平等を目指す一方、上述通り、経営の健全化を図らなければなりません。それには潤沢な寄付金が必要です。ドナーの多くは富裕な卒業生であり、それぞれ人種的、社会的、政治的、経済的、あるいは、個人的思惑があり、それに合致しない場合は寄付を止めてしまいます。その対応をめぐってアメリカのエリート大学も板挟み状態です。

最近、これまで平然として行われてきた卒業生・富裕な寄付金ドナー子女を優遇する入学制度(legacy admissions)が、最近、4つの州で違憲として禁止されました。拙稿「米エリート大学の卒業生や多額寄付者の子女優遇入学制度 (Legacy Admissions)全面禁止の動き...ABC Newsほか」と「ハーバード大の卒業生・寄付金ドナーの子女優遇入学制度が訴えられる...BBC, CNN,ABC,NBC,NYTimes,WSJ etc.」をお読みください。何か関係がありそうです。

For Lifelong English 生涯英語活動のススメ (鈴木佑治Website)

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鈴木佑治
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