英語と歩んできた人生...For Lifelong English (4)
[表紙写真]
立命館創始者西園寺公望公別荘「座魚荘」(清水区興津)前面に駿河湾を望んだ質素で気高い和洋折衷の住宅。近くに住んでいた筆者の叔父は留守中鍵を預かったそうです。竹の長杖を持ち地元の人たちと親しく交流していたようで、呼び名も「西園寺さん」。第二次大戦に向かう中外交の重要性を強く説いたと聞きます。
はじめに
「英語と歩んできた人生...For Lifelong English」(1)(2)(3)に続き
最終回(4)です。筆者も63才7か月、慶應義塾の定年退職は65才で残すこと1年余、退職後のことは何も考えていません。そんなある日のことでした…
立命館大学生命科学部・薬学部教員時代、学部から大学院までプロジェクト発信型英語プログラム開花
慶應義塾大学に勤めて30年、2008年の定年退職を迎える前年の2007年11月のある日のことです。2008年4月より開設される立命館大学生命科学部・薬学部設立準備委員会加藤稔先生、事務局代表志磨慶子氏(後アジア太平洋大学学長)、出野倫子氏(現Natural Table代表)が筆者の研究室に来られ、Project-based English Program について説明しました。その後、生命科学部初代学部長、生命科学者谷口吉弘先生のご訪問を受け、同プログラムを導入したいとのお話を承りました。立命館の創始者であり明治、大正、昭和初期にかけて元老を務めた西園寺公望公は筆者の生家近くの静岡県興津に別荘(坐漁荘)を構え、その気さくな人柄について父がよく語っていました。これも何かのご縁と思い、2008年より立命館大学びわこくさつキャンパス新学部生命科学部・薬学部で両学部全学生を対象にプロジェクト発信型英語プログラムを開設しました。
慶応義塾大学SFCで手掛けた「プロジェクト発信型英語プログラム」を精査・改善し最新版を
SFCの同プログラムを精査し改善を加えて最新版プログラムを1年生から大学院生まで履修者全員に一貫して出来る機会を与えられました。専任筆者1名と任期制講師3名の4名のみでProject科目を、公募した外部教育機関数社の1社を選びWorkshop科目を担当してもらいました。半期制、週にProject1コマ、Workshop 1コマです。任期制講師と外部教育機関講師そして事務局の方々が本当に献身的に取り組んでくれました。任期制講師の方々とは月曜日から金曜日までほぼ毎日、外部教育機関代表者と週1度密に意見交換をしながら問題処理にあたり改善を重ねました。1年生英語(2セメスター)、2年生英語(2セメスター)、3年生専門英語(1セメスター)に進むにつれ、最終的には生命科学・薬学の専門的テーマについてプロジェクトを組みアカデミック・ペーパーを書いて専門分野の先生方と英語教員の前でポスターセッションをします。
両学部の学生が一人残らず英語を使えるようにならなければ英語改革にならない
両学部合わせ1学年400名全員ができるようになります。国際学会で発表する学生が続出しました。日常会話なら1年春学期に、1年の後期、2年生になるとかなり込み入ったことを英語で話せるようになります。大学院英語になると外国留学生も参加しかなり活発です。TOEICテストが1年生の各学期の履修前後に行われますが、このプログラムを通して聞き、話し、読み、書きの4技能が相乗効果を生み、両学部全体の平均スコアが400点前後から470点まで上がり、500点、600点のみか800点、900点も取る学生が続出しました。
使用テキスト1回生用には拙著『プロジェクト発信型英語Doyour Own Project in English Volume1 』、2回生用には拙著『プロジェクト発信型英語Doyour Own Project in English Volume2 』、3回生用専門英語用には拙著Readings in Science in Association with Natureを使いました。(*1)
立命館大学生命科学部・薬学部での2014年までの記録は拙著『グローバル時代を生きるための英語授業ーりつめいかん大学生命科学部・薬学部・生命科学研究科プロジェクト発信型英語プログラム』に記してあります。
幼児英語プログラム監修、Lifelong English出発点で英語好きを増やす
筆者のプロジェクト発信型英語プログラムはLifelong Modelとして出発点の幼児英語も手掛けてきました。その一環としてNHKエデュケーショナル番組「英語であそぼ」に英語監修として参加しました。番組を見ている子供さんたちが、あそびながら英語に親しむにはどうしたらよいか番組編成チームの皆さんと一緒に考えました。拙著『カタカナ英語でカジュアルバイリンガル』に基本的考えを書きました。
誤解されると困るので一言。英語をカタカナ調に話すことではありません。日本語には英語からたくさんの借入語(loan words)が入っています。かつてはいわゆる日本人が造語したものが多かったですが、現在では英語圏で使っている語彙をそのまま取り入れたものが多く、それを英語のスペルに書き直しそれこそカタカナ読みではなく英語の発音体系で発音できればたちまち英語に早変わりします。こうすることにより慶應や立命館のプロジェクト授業の学生さんはたちまち1000語、2000語の語彙が増えることを実感しました。彼らがTOEIC,TOEFLでスコアを伸ばした一因であることは間違いありません。
2014年に立命館大学を定年退職しましたが、2009年に開設した大垣市のKiitos Garden幼稚園・保育園の英語プログラムの監修を続けています。園長平野康司氏が筆者の慶応SFC時代のWebsiteにアップロードした「英語であそぼ」などの成果をご覧になり、プロジェクト発信型英語プログラムを参考に発信型英語プログラムをカリキュラムに導入されたいとのことでした。これで人生出発点である幼児用のプログラムを保育園、幼稚園で実装できることになります。
Kiitosのモットーも遊びを通して楽しく学ぶこと。以来、平野氏と毎年5回あるイベントの成果発表を見学し意見交換してまいりました。園児たちが園の環境の中で触れるものを題材にオリジナルの発信活動をしています。素晴らしいのは幼稚園教諭、英語の先生、音楽の先生、体操の先生がコラボレーションしていることです。
開園から14年最初の卒園児は大学生になります。平野氏によると大垣市、岐阜県の英語弁論大会で上位入賞が多いとのことです。大学で教えている時に、幼稚園から発信型プログラムに慣れていたらどんなに素晴らしいだろうかと考えていましたが、それが現実になりつつあります。詳しくはキートスガーデン幼稚園・幼保園・保育園をご覧ください。
筆者にとっての英語はまさにLifelong English
最後にLifelong Englishについて筆者の考え方をお伝えします。下図が示すとおり、プロジェクト発信型英語プログラムの基盤はコミュニケーション論です。コミュニケーションは全ての活動を含みます。よって膨大なフロンティアです。コミュニケーションの媒体メディア(media)とそのコンテンツであるメッセージ(message)は深淵です。筆者の専攻に関連する範囲でも下図のように様々な分野に関わります。その中心に英語があります。手探りしながら命が続く限り調べ発信していきたいと考えています。筆者にとって英語はまさに Lifelong Englishなのです。
“For Lifelong English”は生涯を通じて英語に関わり続けるという筆者自身の決意でもあります。今後残された生涯が続く限り英語に関わり続け、感じること、体験することを『For Lifelong English 英語活動情報誌』にて発信します。
(*1)筆者のプロジェクト発信型英語プログラムは将来起こりうる自然災害を考えいつでもどこでも誰にでもできるオンラインプログラムを想定しております。これらのテキストも電子出版にしたかったのですが、筆者在任中(2008年~2014年)の立命館大学びわこくさつキャンパスではコンピュータ・インフラが整っておらず断念しました。通常出版を迫られ、出版不況の中で南雲堂さんが出版を引き受けてくれました。大変な費用が掛かりました。特にReadings in Scienceで使用したNature誌の記事には高額な使用料が掛かりました。赤字覚悟で踏み切っていただいたと思います。そこで筆者独断で改めてお願いいたします。現下の出版業界の不況に鑑み、また、コンプライアンス厳守の観点から、これらのテキストを無断コピーすることは是非とも差し控えてくださるようお願い申し上げます。
サポートいただけるととても嬉しいです。幼稚園児から社会人まで英語が好きになるよう相談を受けています。いただいたサポートはその為に使わせていただきます。