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「インターネットの父」村井純先生に聞くに聞く(その1)...グローバル化の共通基盤となる英語とイン ターネット、クラウドについて


はじめに


「様々な世代の人々が様々な場で、生涯を通して何らかの形で英語にかか わって仕事をしています。英語は人それぞれ、その場その場で違いま す。このシリーズでは、英語を使って活躍する方にお話を聞き、その人 の生活にどう英語が根付いているかを皆さんにご紹介し、英語の魅力、 生涯にわたる楽しさをお伝えしていきます。英語はこんなに楽しいも の、英語は一生つきあえるもの。ぜひ英語を好きになってください。」

との趣旨のもと、『TOEFLメールマガジン』の筆者コラム"For Lifelong English"のインタビューシリーズ『英語にかかわる仕事をする人々』では、英語という括りで各界で活躍されている方々をインタビューしました。今回は「インターネットの父」と称せられる村井純先生にインターネットと英語とのかかわりについて語っていただいた2012年5月掲載のインタビューからです。

(その2)後部の「鈴木の感想」でも述べますが、村井先生は1990年発足慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス創設メンバー若手の一人で、発足前の準備委員会から参加され、新キャンパスの全教室、研究室、施設と世界をインターネットで繋げることに尽力しました。こうして30年後の世界、即ち、2024年現在の世界を描き、インタネット上で「知」はどう変化するのか、壮大な実験現場が出現しました。筆者は英語、言語、コミュニケーション関係の授業を担当のいわゆる文系教員ちんぷんかんぷん大変戸惑いました。インターネット上で英語教育・学習はどう変革するのか考えながら暗中模索、そんな時に情報処理を担当しインターネットを専門にされていた村井先生をはじめ研究室の人たちが惜しみない助言とサポートの手を差し伸べてくださいました。「プロジェクト発信型英語プログラムProject-based English Program」を立ち上げ実装できたのはそのお陰と思っています。

それから22年後の2012年4月、慶應SFCを引退し立命館大学生命科学部・薬学部で同プログラムを実装していた筆者は、SFCでのお礼かたがた当時の動向をうかがいたくインタビューの打診したところ、環境情報学部学部長として超多忙にもかかわらず快諾いただきました。これとは別に立命館大学情報理工学部には村井先生のお弟子さんがいると聞き、講演の依頼をしたところこれにも快諾いただきました。近畿在住インターネット研究者で会場は満杯大盛会でした。事前周知が不十分で参加できなかった方々も大勢いました。以下、村井先生とのインタビュー(元3回分)を数回に編集しお届けします。

以下(その1)です。


For Lifelong English – グローバル化の共通基盤となる英語とイン ターネット、そしてクラウドについて : TOEFLテストとインターネットの共通点

TOEFLの趣旨について

鈴木:インターネットというと、即座に村井先生の名前が浮かびま す。アメリカのパイオニアの方々と研究され、日本での普及に は大きな役割を果たしてこられました。自己紹介も兼ねてお聞 かせいただけますでしょうか。

村井: はい。わかりました。私の自己紹介に入る前に、TOEFLテスト の方がいらっしゃるのでお聞きしたいのですが、私の認識で は、TOEFLテストというのは、アカデミッククライテリアつま り学校での学習の基準に関するテストという認識はあります が、それ以外の目的はあるのですか。

TOEFL編集部:はい、TOEFLテストはご存じのように、アメリカの非営利のテ スト開発団体であるETSが作成しているテストで、元々はアメ リカの大学、大学院の入学の際に英語力を測るテストとして作 られています。現状は他の用途でも使われていますが、元々の 設計はそのようなものです。

村井:なるほど、わかりました。そうすると留学生が現地で授業を受 けたり、研究を進めるうえで必要な英語力の基準となるわけで すね。

TOEFL編集部:通常は大学や大学院における留学生用の入学試験の一つとして 使われていますが、本来の目的はそうではなく、留学生がどの 程度英語による授業についていけるか、いけないとしたらどの 程度の英語力をつけたらよいのかを診断することです。すなわ ち診断テスト(diagnostic test)であって、入学試験ではな いというのがETSの見解です。

村井:なるほど。私が興味があるのは、元々アメリカでスタートし て、今世界中で使われてきている中で、テストを供給する側の 理念というものは変わることがあるのですか。英語力のリクワ イアメントなのか、アメリカの大学を基準としたものになるの か、そのあたりはどうでしょう。

インターネット版によるグローバル化に備えテスト内容の公平さ

TOEFL編集部:はい、TOEFLテストは始まった時点より、はるかに多くの国で 試験が行われていますので、現状はアメリカに関する特定の何 かを知らなければ解けない内容にはなっていないと思います。 できるだけ文化的なバイアスを低くしていると思います。

村井:なるほど。方向性としてはグローバルを目指しているというこ とですね。 その方向に向けて取り組んでいると思います。 そうですか。そうなると、問題の内容について変化はあるので しょうか。

TOEFL編集部:形式としては、以前のペーパー版TOEFLテストから今はインタ ーネット版のテストになっていますが、内容としてはできるだ け公平さの観点から作られています。ただ、問題のなかでは、 クラブのコーチと選手の会話があったりしますが、そこにアメ リカの文化が反映されていないかというと、まったくゼロでは ないと思います。

村井:なるほど。参考書の中には、例文の中にアメリカンジョークを とりあげていたり、実社会でもアメリカの歴史を知らないとわ からない話はよくありますよ。国際会議に出ていると、「そう いう(その国の人間しかわからないような)話はやめて欲しい な」と思うこともあります。

鈴木:私も、以前アメリカのETS本部の方々とお話しする機会があ り、その時に指摘した事があります。例えばリスニングの問題 に、テキサスの気象に関する問題が出題されていました。テキ サスの地理的背景を知らなければ不利ですね。そのような言語 外の知識の有無によって差がつくような問題は、英語を母語と しない受験者に向いておらず、英語力を診断するテストとして は疑問であると進言したことがあります。1993年か1994年の 頃であったと記憶しています。今ではそういう問題は大分なく なり、改善されてきているようです。

村井:実際の話としては、アメリカの大学などで授業を受ける時に は、南北戦争などの話がわからなければ授業の話もきっとわか らないこともあるんですよね。歴史の史実や人物に関するジョ ークを言いながら、そういうアナロジーを使って議論してい く。それはアメリカの大学に行くのであれば、それはそれで必 要なのですが、他方グローバルという観点では私は違うと思っ てます。アメリカの偉い先生に、国際会議では「ちょっと待 て、今のはグローバルではない」と結構教育しているんです よ。やっぱりそういうことは、外から言わないと気がつかない ことなんです。なるほど、趣旨はわかりました。

ITにおける英語の役割

鈴木:それでは、まずITにおける英語の役割についてお伺いします。 英語のグローバル化が進んでいけば、その内容も変わっていか なくてはいけないわけです。グローバルというのであれば、世 界中を網羅しなければいけないのですが、英語の普及がどこか 特定の国で話されている英語とその文化に一極化させてしまう のであれば恐ろしい話です。IT自体も英語と同じようなところ があると思いますが、今の流れをみていると心配なのは、言語 と文化が一極化しないか、ということです。ITを利用すれば、 本来マルチリンガル、マルチカルチャー例えばマイナーランゲ ージやマイナーカルチャーといったものが、マルチメディアを 使って、もしかすると多極化したまま、かなり保存できるので はないかと考えています。英語そのものもある国の英語に一極 化するのではなく、様々な言語と文化に基づいた様々な英語が あり、逆にそういったものを保護していかなくてはいけないわ けですよね。 それとあわせて先生ご自身はどのように英語をマスターされた のでしょうか。村井先生は、ネットを含めて色々なところで英 語で発信されていらっしゃるのですが、どういった教育活動を していらっしゃるのか?高校生や大学生もこのTOEFLメルマガを読ん でくれているので、そのあたりからお話をお聞かせいただけれ ばと思います。

村井:ええ、そうでしょうね。わかりました。それぞれ重要なことで すし、楽しそうなお話になりそうですね。

村井先生の経歴と英語学習法、高校時代キャンプに参加し学ぶ

鈴木:英語とのかかわりについて それでは、まず村井先生の経歴についてお話いただけますでし ょうか。 はい、わかりました。

村井:私は、高校生になるまで海外に行ったこ とがありませんでした。両親は私が3歳の時ですから、1958年 からハーバードやプリンストンなどの研究所に夫婦ともにそれ ぞれ別の分野で、父は哲学、母は音楽の関係で海外に行ってい ました。ですが私は両親とは海外に行きませんでしたから、ド メスティックな教育を受けてきたわけです。ポイントとしては ずっとドメスティックなわけですが、英語との関係からいいま すと、私の専門であるコンピュータを始めるまでの一番の大き なインパクトは、キャンプですね。

鈴木:キャンプによる野外教育ですね。

村井:はい、そうです。野外教育です。小さいころからライフセービ ングキャンプに行っていた関係で1970年の15歳のときに、6 月から9月の3ヶ月間、カナダとアメリカのキャンプ活動に参加 しました。だから、大学に入って、一般教養課程のあたりまで は、ずっとキャンプばかりしてました。

鈴木:それは慶應義塾中等部でのことですか?

村井:いえ、慶應義塾高等学校の1年生のときの話です。

鈴木:なるほど。

村井:ええ、私は小さいころからキャンプを経験しているので、キャ ンプの参加者の交流プログラムに参加し、その時にはじめて海 外に行っています。大学生になってからは、キャンプカウンセ ラーになりました。キャンプカウンセラーには、また 別の国際プログラムがあって、ICCP(International Camp Counselor Program)というプログラムに参加しました。ボ ーイスカウトとガールスカウトとYMCAの連合で運営されてい るICCPインターナショナルキャンプカウンセラープログラム というプログラムがあるんです。そしてそれは、アメリカ大統 領のインビテーションです。ですからインターナショナルマイ ンドは、まずアメリカやカナダの子ども達と触れあうことで身 についたと思います。アメリカは、Outdoor Educationと School Educationのバランスがfifty‐fiftyなんですね。だから 夏の間は、アメリカで子どもがいる家庭では「Send kids to camp」とか「Kick kids out to the camp」、つまり子ども はみんなキャンプに追い出せ!とか言うくらいなんです。その くらいアウトドアが大事で、そこでインターナショナルスピリ ット、フロンティアスピリットを教育しなくてはいけないんで す。

鈴木:なるほど 連合プログラムなんですね。

村井:ええ。それに応募して大学2年のときに、今度はキャンプカウ ンセラーのトレーニングのためにニューヨークに行きました。 それから全米のキャンプに行って、6月から9月まで、ひと夏ま るまるそこにいるわけですよ。だからこれに参加すると大学は 落第してしまうんです。

鈴木:なるほど、そうですか。

村井:ええ。だって日本の大学の1学期の試験期間に日本に居ないわ けですから。ですから、国際キャンプに参加していたので留年 したっていうのが大学の一般教養課程時代のエピソードです。 大学の学部生時代の私の国際活動というのは、その時期しかや っていません。それで、キャンプが終わって戻ってきて、数学 科に入ってコンピュータを勉強し始めました。勉強を始めたら 数学よりコンピュータの方が面白くなり大学院まで行きまし た。英語については、話す英語に関しては自信がありました。 やはりキャンプで子ども達と話していた経験がありますから、 会話も特に困っていませんでした。アメリカのキャンプでは、 子ども達の言葉遣いの風紀委員をやっていたんです。「Watch out your mouth!」なんていいながら、汚い言葉を使ってい る子どもの言葉遣いを直していました。

(その2)に続きます。


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