虎に翼 第55話
直明(三山凌輝)がメンバーとして活動している、東京少年少女保護連盟の学生たちが、家庭裁判所設立準備室にやってきた。直明といい学生達といい、YouTuberか?というくらい瞳の中心が輝いている。キラキラしている。
少年裁判所の壇(ドンペイ)と家事裁判所の浦田(野添義弘)に
「おふたかたとも、見ている方向は一緒ということですね!?」
「手を取りあい、団結できるということは素敵なことです」
キラキラした目で言われては否定しにくい。更に熱い理想を畳みかけられたら、おじさん達は抵抗できない。同じようにYouTuber的キラキラ瞳で、素晴らしい!団結しましょう!となった。
これが桂場(松山ケンイチ)のいう、純度の高い正論の力というやつか……
機を逃さず多岐川(滝藤賢一)が「今こそ団結していきましょう!」
鳴りやまぬ拍手!!
なんやねん。あの苦労は一体……という寅子の顔に吹き出した。
ちなみに、家庭裁判所設立準備室の日めくりカレンダーには『今日のひとこと』的な標語が書いてある。学生達が訪れたこの12月1日水曜日は
『心から出た言葉が心に達する』
どうやら、ドラマの内容と連動する小道具のようだ。
全国から担当者が集まった12月7日火曜日は『低い心と行いに友は集まる』
家庭裁判所発足まで半月を切り、設立準備室の皆が一丸となって動いている12月20日月曜日は『力を合わせて全体の進歩を図る』だった。
この標語は第52話(感想はこちら)の11月26日金曜日と同じもので、その時点では壇と浦田が反目しあっている真っ最中。ぜーんぜん計画の見通しが立たないなか、皮肉な文言として効いていた。
同じ小道具が、僅かな期間で反転した意味を持たされているのが面白い。
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家庭裁判所事務所に飾られる、花岡(岩田剛典)の妻・奈津子さん(古畑奈和)の絵。
第52話の新聞記事が伝えていたが、奈津子さんの絵は主に、花岡を亡くした家族の生々しい身辺雑記、あるいはわびしい一家の家庭生活がテーマのようだ。
しかし、この事務所に飾られる絵は、チョコレートを分け合う親子の手……。温かな色調で、久しぶりに家族が笑顔になれた瞬間の思い出が込められている。
「法律っちゅうもんは、人が幸せになるためにあるんだよ」
「彼がどんなに立派だろうが、法を司る我々は、彼の死を批難して怒り続けねばならん。その戒めに、この絵を飾るんだ」
絵は優しく温かい。しかし本来であれば、この家庭から父親は、夫は奪われなかったはず。この絵は悲しみと怒りの絵でもある。
正しくあろうとした花岡は立派だ。しかし犠牲の賛美は、次の犠牲を生む危険性をはらむ。
法のために人があるのではない、人のための法を守り続けるために。法を司る彼らを、この絵は見ている。
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自身が死刑判決を出した死刑囚の処刑を見に行ったことがある、多岐川。
それから凶悪事件を受け持たなくなった……多岐川曰く「逃げた」。
彼がそこからいなくなっても、凶悪事件の裁判が無くなるわけではない。去ったあとは他の裁判官が担う。だからこそ、多岐川は自分のことが許せない。
寅子が「その気持ち、ちょっとわかります」と言う。寅子は逃げたわけではないと私は思うが、多岐川が自分と貞くんは似ているというのは、自分を許せないという思いのもと動いている、という点だろう。
もう逃げないと決めた道を邁進する。
「多岐川幸四郎をなめてもらっちゃ困る」
この言葉のとおり、なめてはいけないチョビ髭の
おじさんだった。
(つづく)