虎に翼 第36話
その危機感については、第8話の感想 でも少し触れていた。寅子(伊藤沙莉)が初めて傍聴した、物品引渡請求裁判。DV夫から母の形見の品などを取り返したい妻が起こしたものだった。いかにも暴力を振るいそうな憎々し気な様子の夫と、地味で華奢で、助けたくなる様子の妻。見た目で判断してはいけない、事実のみで考えねばと観ていたのだ。そして、妻の勝訴に快哉を叫ぶ女学生たちに、いずれどこかで「弱く見える女性」にひっくり返されるエピソードが来るのではと考えた。
しかし、ここまで女であることを利用しつつ、同じ女である寅子を侮り使う、そういった女性によって思い知らされるとは……。
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今や寅子と同志と言ってよい存在のよね(土居志央梨)。彼女が隣にいて
「孫を手に入れる為に援助しなかったんじゃないか」「金に困れば、女は道を外れるしかない」
など、一緒に熱くなっていってしまう姿と、
「寅ちゃん、深呼吸。決めつけて突っ走ると、思わぬへまをするから」
と釘を刺す優三さん(仲野太賀)の対比があった。
実際に当事者を目にすると視野が狭くなりがちであること、もとから抱いている自分の志と目の前にある件は別問題だと捉えるべきだということ。
これらは、現実世界でも心せねばならぬと自戒を込めて思う。
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雲野先生(塚地武雅)の叱責。
「君の失態が、誰かの人生を狂わせたことを忘れてはいかん」
この場合、寅子が勝ち取った結果によって狂わされたのは誰の人生かということを、朝からずっと考えている。
満智(岡本玲)は第一子の長男も、神田との間の子だと言った。夫の生前から不貞を働いており、今回の訴訟で親権を満智から取り上げようとした祖父母と、長男の血は繋がっていない。判決後に祖父が断腸の思いで語った
「私には孫はいなかった。そう思うことにする」
これが奇しくも真実だったわけで、もし祖父母が勝訴していたら、彼らは赤の他人の子を養育する事態になっていた。
では、満智の長男か。あの子は母を慕っていて、少なくとも満智と、今のところ内縁関係にある神田は長男を虐待している様子はない。
しかし、いくら血縁でも悪女とその情夫に育てられることが、子ども達にとって幸いと言えるのか……。
この場合、法律家として寅子は一体どうするのが正解だったのだろう。
専門家の見解を知りたい。
(つづく)