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虎に翼 第43話

岡部たかしじゃなかったら許されんだろ、こんなの。岡部たかしでもギリギリだ!という回だった。彼以外だと、これができるのは大泉洋くらいしか思いつかない。

優三(仲野太賀)の死亡告知書を隠していただけではない、直言(岡部たかし)から出てくる出てくる、「それを言っちゃあおしまいよ」懺悔のオンパレード。

①優三くんのこと隠していてごめん
②今、トラに倒れられたら我が家は立ち行かなくなると思って。ごめん
③トラが結婚した時正直「優三くんかあ」「花岡くんがいいなあ」
「花岡くんの下宿を見に行ったことがある、手土産持って行ったことも」
「花岡くんとなら、周りに自慢できるぞ老後も安泰だ」って
④あっごめん。これは話すべきじゃなかった
⑤共亞事件のとき、寅子がしつこくて腹が立ったことがある
⑥はるさんが怖くて残業と嘘ついて呑みに行ったことがある
⑦直明が出来過ぎる子だから本当に俺の子なのかと疑ったこともある
⑧花江ちゃんがどんどん強くなって嫌だなと思ったこともある
⑨うちの家族は女が強いから、直道とこっそり寿司を食いに行ってごめん
⑩寅子が最初に見合いに失敗した時喜んでしまってごめん
⑪優未を高い高いした時鴨居に頭をぶつけてしまったこと黙っていた
⑫直道が死んだとき、闇市でこっそり酒を買って一人で
⑬こんなお父さんでごめん

3分以上、しょうもないことからシャレにならんことまで、ほぼひとりで謝罪しまくっていたのである。
怒っていいのか笑っていいのか。こっちもどんな感情を持っていいかわからんと思いつつ観ていたのだが、しかしやはりこのドラマは構成と演者全員が抜群に巧い。

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花江ちゃん(森田望智)の


「怒ってもいい、罵倒してもいい。トラちゃんはちゃんと伝えるべきよ。お義父さんとは生きてる内にお別れできるんだから」

骨すら帰ってこなかった、愛する夫・直道(上川周作)とのこれまでの愛おしい日々、そして直道の第15話の名言「思っていることは口に出していわないとね!」を受けての、花江ちゃんのこの台詞。

寅子(伊藤沙莉)にも視聴者にも、直言のやったことは酷いことなのだと作品内で示してからの懺悔タイムだった。
このあたりが曖昧、あるいは「直言は寅子の気持ちを慮ってこんなことをしたのだ」とされてしまうと、観ている側としては「そりゃそうかもしれないが納得いくかそんなもん!」という苛立ちが募ってしまう。

しかもこの場面、この台詞の凄味は「実家と両親を空襲で喪った花江ちゃんは未亡人となっても猪爪家に居られるのか」を、法律家である寅子に直言が確認した直後の発言ということだ。ここで直言は当時の男性……家長としては破格の提案を花江ちゃんにした。

戦中戦後において、戦争未亡人を戦死者の兄弟(主に弟)と結婚させる家は珍しくなかった。この再婚によって寡婦と遺児は保護される。家そのものの維持が主な目的だ。
家長である直言の判断によっては、花江ちゃんと直明(三山凌輝)の結婚はあり得た。

しかし、直言はそうせず、花江ちゃんの居場所を保証したうえで、更に将来の再婚の自由を約束した。しかも再婚するなら、ふたりの息子……直人(琉人)と直治(楠楓馬)を連れて行ってよい、猪爪家に置いて行ってもよいと。
花江ちゃん個人の人生を尊重したのだ。この時代にこれがごく自然に成り立ってしまうところ、まさに猪爪家であり、直言だと思う。

そして花江ちゃんはそれを聞いたーー自分を尊重されたあとでも、

「お義父さんのやったことはとんでもなく酷いことだと思う。優しくする必要なんてない」

と義父を批判した上で、寅子にきちんと向き合うべきだと促すのである。
直言の配慮に、嫁として恩義を感じスンッと黙るのではない。これからの猪爪家に、そして寅子自身に今は怒りが必要なんだよと示せる。

この台詞もまさに花江ちゃんであり、今までの物語の積み重ねが活きている。

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ここからはもう、岡部たかしと、それを受ける伊藤沙莉の芝居に持っていかれた。謝りまくる父を前に、眉根を寄せた寅子の怒りの表情がどんどん変化していき、今まで沈んでいた顔に力が漲り始め、目に光が宿り。

妊娠退職から心身を傷めて折れたまま終戦を迎え、表情が固まって久しいヒロインが、前に進む力を取り戻すためのステップが父親の懺悔し放題だとは。こんな筋立てがあるとは……と、ふたりの芝居に笑わされながら感心した。すごいや。

呼吸が止まったと思いきや、はるさん(石田ゆり子)の「まだよ」に更に笑わされた。猪爪家キャストに参った、降参だ。

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俺は情けない男だと泣く、そして寅子への親バカ台詞満載の回想に、直言は娘を家族を愛し尽くすことで自らを癒し、外で戦う力としていたのかなあ……と思った。だって彼は、かつては政争に利用されるようなポジションで働いていたのだから。

全ての荷を下ろして、懺悔までして、すっきりした顔しちゃって永遠の眠りにつく。直言、岡部たかしさん。お疲れ様でした。

(つづく)





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ぬえ
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