虎に翼 第38話
山本五十六の国葬を報じるラジオ番組が流れている、昭和18年6月5日。
直道(上川周作)に赤紙が来た。花江(森田望智)が台所で涙したことは一切なかったかのように、出征のお祝い膳はイワシの蒲焼、紅白なます、田楽、つみれ汁(こちらも人参と白葱?大根?で紅白か)にビールとお酒。
一人分の量、内容ともに慎ましやかに見えるが、直言(岡部たかし)と直道の「こんなご馳走は久しぶりだな」「お母さん、無理したんじゃないの」という台詞で、これが豪勢なものになってしまった、国民の食生活が窺える。
「俺にはわかる。日本はこの戦争に勝って、子どもたちにとって、もっともっといい国になっていくって」
もう彼の「俺にはわかる」の当たり外れなんて、二の次だ。
武器を手に戦うなんてまったく向いていない、優しいこの人が家族のもとに帰ってくることを祈るのみだ。
赤紙が届けば「おめでとうございます」、出征兵士を送り出す時にはバンザイ、立派に戦ってお国のために命を捧げて来いと激励する世の中である。
別れの抱擁で、花江が集った人に聞こえぬように言う
「絶対、帰ってきてね」
その小さな声がせつない。
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母校の明律大学での講演会。教室で準備をする寅子(伊藤沙莉)の視線の先に、かつての仲間たちの姿が蘇る。視聴者にとっては先月観ていた法科女子部であるのに、遥か昔のことのようだ……
寅子が妊娠を伝えた直後に穂高先生(小林薫)から出てくる言葉は、いま現在、心身ともに追い詰められている寅子にとってはショックだろう。
「結婚した以上、君の第一の務めはなんだね。子を産み、よき母になることじゃないかね」
こう言われたら怒りが湧くのはわかる。役割や務めと言われたらカチーンとは来るものの、しかし腹の子と母体を第一に考えねばならないのは確かだ。命より優先すべきことなどあろうか。腹の中にいる子は、寅子の他に守れる人はいない。久保田先輩(小林涼子)が産む直前まで働いていたといっても、個人差があるし、仕事の量など状況も違う。
そして「私がいま立ち止まれば婦人たちが法曹界に携わる道が途絶えることになってしまいます」という言い分は、寅子の思考が袋小路に陥っている証だ。今日、明律大学に彼女が来たのは、後に続く女学生たちへの講演会のためである。ここでいったん立ち止まっても、自分と同じように世の中を変えるのだ、困っている人達を救うのだと志を抱く後輩たちがいるのだと、信じることはできないか。
「私は、いま私の話をしているんです!」
これも気持ちはわかる、わかるが、いまこの状況で赤子に万一のことがあったら、そして寅子自身の命にも関わったら、それこそ誰が後に続こうと思うのだ。
「もう私しかいないんだ」から「なんで私だけ……私だけ」へ。
妊娠によるホルモンバランスの乱れ、過労とストレスとで、考え及び視野が更に狭くなってゆく。極めて危険である。
本来聡明な女性である寅子がこうなってゆくさま、経緯の描かれ方がとても丁寧だ。
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恐れていたが、轟(戸塚純貴)にも赤紙が来る。
よね(土居志央梨)の轟への「死ぬなよ、轟」
寅子への「お前はひとりじゃない」
よねの同志たちへの、率直な気持ちに泣く。世の中がどれほど嘘で塗り固められようと、彼女はいつも正直だ。
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そして、穂高先生が雲野事務所を訪ねてきた!そう、寅子は雲野先生(塚地武雅)には倒れたことを伝えていないだろうと読み、お詫びという形で(実際、言い方はまずかったと思う)コンタクトを取りに来てくれた。穂高先生はきっと、事前に桂場(松山ケンイチ)と話し合っている。
明日、一体なにが語られるのか。
(つづく)
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