【日テレクリエイター対談Vol.1】宮森宏樹×土屋敏男「令和のテレビ進化論」
企画概要
若者のテレビ離れ、などと声高に叫ばれる昨今。
ホントにそうなのか?
命をかけて、魂を削って番組を作るクリエイターの叫びは届かないのか?
日テレ最前線クリエイターと、レジェンド土屋敏男の対談。
noteと最新の音声メディアであるstand.fmでお届けします
今回のゲストクリエイター:宮森宏樹(みやもりひろき)
日本テレビ放送網(株)情報・制作局主任
「ウチのガヤがすみません!」「踊る!さんま御殿!!」
「ひと目でわかる‼」「女芸人No.1決定戦 THE W」担当
土屋敏男(つちやとしお)
日本テレビ放送網(株) 社長室R&Dラボ シニアクリエイター
『電波少年』『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』等の制作に携わり、長年テレビの制作現場で活躍。
一般社団法人1964TOKYO VR代表理事。
2019年ライブイベント『NO BORDER』企画演出。
映画『We Love Television?』監督。2021年『電波少年W』企画演出。
「あんなものテレビじゃない」こそテレビの歴史
土屋:今日はよろしくおねがいします。
宮森:よろしくおねがいします
土屋:まず最初にこの企画の経緯を説明すると、「俺うちの現役のクリエイターたちと喋ったことないから、喋りたいなー」と思って、じゃあそれをR&Dラボのnoteと、このnoteを見てコラボの連絡をくれたstand.fmでやってみようと思ったんだよね。(※stand.fmコラボ部分は文末にあります!)
例えば、noteを見た劇団ノーミーツ※さんから話が来て、とりあえず会ってみるようなフットワークの軽さって今のテレビ局に必要だと思っていて。
※劇団ノーミーツさんとのコラボについては、こちらの記事参照
宮森:なるほど。そんなチャレンジに呼んでいただいて、ありがとうございます!
土屋:ところで、宮森って今何歳なの?
宮森:40歳ですね、2004年入社です。
土屋:じゃあ俺はそのころ電波少年5年目視聴率30%の頃だから一番ブイブイ言ってた時だ(笑)。
宮森:そうですね、ぼくが入社試験を受けた時はVTR審査があって、その審査員で土屋さんがいらした記憶があるんですけど、めちゃくちゃ怖かったです(笑)
土屋:そういう話を聞くと歳をとったこと実感するな。おれもう65歳だからさ・・・じじいもじじいなんだよ!(笑)
宮森:えっ、そうなんですか?でも土屋さん、昔から全く見た目も含めて変わられてないな、という感じはありますけどね。今日はぜひお伝えしようと思っていたのが、僕がテレビの仕事をしたいと思ったのが高校生のときで、そのきっかけが「電波少年」を見てテレビっておもしろそうだなと思ったことなんです。
猿岩石のヒッチハイクのときですね。
土屋:猿岩石、ドロンズ、パンヤオ、そのへんかあ。
宮森:めちゃくちゃ面白くて、衝撃を受けた記憶があります。
土屋:宮森が面白いといってくれる「電波少年」だけど、俺の尊敬する先輩が電波少年を見て、「あんなのテレビじゃない」って言ったんだよ。
宮森:えっ、何でですか?
土屋:顔がCGで浮いてる演出に対して、「人間っていうのは全身で感情を表現するものであって、顔だけというのはありえないんだよ」って言われてさ。もっともらしいじゃん。おれも一度はそうかなと思ってさ、上半身にしたりとかやったんだけど…でもやっぱり自分が思う「こっちのほうが面白い」のほうが正しいんだよな。
土屋:さらに言うと、いま電波少年Wで、各局の歴史的な番組、たとえば「北の国から」とか、「オレたちひょうきん族」とか、トレンディドラマの一番最初の「抱きしめたい」とかを作った人達に話をきいたりしてるんだけど、共通するのが、やりはじめたときに上司や先輩に「こんなもんどこが面白いんだ」って言われたことで。
だから、「こんなもんテレビじゃない」とか、「こんなもんどこが面白いんだ」って先行世代に言われたものが、実は「次のテレビ」になっていくんだよな。
フワちゃん、イモト、マツコ・デラックスの共通点とは?
宮森:僕、「ウチのガヤがすみません」という番組をやらせていただいてたんですけど、今の話でフワちゃんが初出演した時のことが浮かびました。
お笑い事務所をクビになってYoutubeやりはじめてまだまだ無名時代のフワちゃんに、明らかにセオリーを崩された感じがものすごくあったんです。
当時はひな壇3段組んでいて、芸人さんが当てられたら何かを披露するみたいな形だったんですけど、フワちゃんが一番最後列に座っていて、なんか変なやついるなって当てられたら、「席替えしていい?」って急に言い出して(笑)「一番後ろに座ってると、私の可愛いスパッツが見えないから一番前に座らせて」って言いだしたのがめちゃくちゃ面白いなと思って。「若手芸人は決められた座席から会話に割って入るチャンスを伺う」という大前提が、フワちゃんの中には1ミリもなかった。芸人として爪痕を残すことよりも、その場を楽しんで自分らしくありたい。
今まで見たことがないものだったり、セオリー無視とか予定不調和なものに人は物凄く惹かれるな、というのはその時に感じましたね。
土屋:例えば電波少年ではアポ無しををやりましたっていうのが、見え方として新しかったのかもしれないんだけど。
でも電波少年の一番の新しさって、俺は違うと思ってるんだよ。バラエティってビッグで面白いタレントをつれてきて、それで企画はできあがり、あとは好きにやっていただいて…っていう時代があって。その中で、有名じゃない人でも面白くする、例えば猿岩石みたいな、オーディションで知名度ゼロの人でも面白いバラエティできるじゃん、みたいなところが実は一番大きな革命だと思ってるわけ。
宮森:僕は元々ディレクターになったのが「イッテQ!」で、まさにイモトさんが、無名な時代から大スターになる様子を一緒にロケにいきながら見てたんですけど、演出の古立さん※の教えで印象的なのが、萩本欽一さんの言葉を引用されてたんですけど、「テレビで人気者をつくるには、テレビから一番遠いところから人を連れてくることである」と。
「テレビに出そうな人とか、テレビに受けそうな人を出しても、そこから革命的な、爆発的な人気者が出たり、新しいスターは出ない」というのが自分が若手の頃のものすごい学びになっています。
(※古立善之 - 「世界の果てまでイッテQ!」の企画・演出)
土屋:無名の人ってある種の異物なんだよね。例えばマツコさんにしても、有吉にしたってさ、最初は異物なんだよ。
宮森:なるほど。
土屋:その異物がメインストリートにきて、メインになったなら、それをまた崩していかなきゃいけない。でもテレビの95%の人って、いま人気のある人たちで企画を考える。これはさ、極端にいうとテレビの70年の歴史ずっとそうなんだよな。でも、残りの5%がそこに逆らって、そうじゃないものをやろうとする。それがおれはテレビを進化させると思ってるんだよね。
「コンプライアンスが厳しくて…」はクリエイターの敗北宣言
土屋:だから今「テレビが面白くない」とか、「若い人がみない」のは、ネットのせいだとか、コンプライアンスのせいだとか言う人がいるけどさ。実はそうじゃなくて、新しいものをやってないからだって、俺は言いきっちゃう。
宮森:昔と今でコンプライアンスや予算が違うのは大前提ですし。「テレビってこんな面白いことやれるんだ」ってことは、また別の次元の話だと思います。
昔できたことが今できない、と比較することにあまり意味はないと思ってて。その今のルールの中で若い世代を魅了するような番組がつくれたらなと思います。
僕、人事にも3年間ぐらいいたんですけど、その時に受験者というか、テレビ志望の学生からよく質問を受けていて。今のコンプライアンスは昔に比べてすごい厳しくなっていて「テレビって息苦しくないですか」っていう質問を100回ぐらい受けたんですけど、今の若者ってそういう風に外から見てるんだと思って。
そもそもコンプライアンスというか、時代の流れってテレビに限った話じゃないと思いますし、時代が変われば価値観とかも変わると思うので、今の時代にあったコンプライアンスやルールの中で、いかにおもしろいものをつくるかっていう勝負かなと思ってます。
(人事部時代の宮森)
土屋:そうそう。本当にみんなそういうんだけど、全く関係ないよね。コンプライアンスが厳しいから、っていうのは、敗北宣言以外の何ものでないんだよ。言い訳以外の何ものでもないよね。それ言ってるやつは「私は何一つおもしろいものを作れない」と宣言しているようなもんなんだよ。
最近、松本人志がいろんなところで言ってるけど、コア視聴率とかやっぱり若い人たちが見る番組の数字が大事なんだ、と。
各局、本格的にそれにシフトしようとしているんだけど、そこで短絡的に「第七世代をキャスティングすればいいんだろ」みたいなことになるのは大間違いだと思うわけ。本質的には、「うわ、こんなことテレビでやるんだ、」とか、「見たことないものをやってるぞ」ってことが、若いやつがテレビをみることにつながるんだよね。
それが送り出せない限り、テレビに若いやつは戻ってこないんだよ絶対。でもその大間違いを皆がわりと正解のように語ってるのが恐ろしくてさ。
宮森:そうですね。「若い世代のキャストを出せばいいんじゃないか」というとこにみんなががっと流れる感じもどうかと思います。
今は「テレビとは」という方法論や、「視聴率のとり方」とかが浸透していて、若手の頃からそれを学ぶっていう環境が出来上がりすぎているのかな、と思う部分があります。
わりとテレビ全局見回しても、同じような内容の番組だったり、演出方法もVTRをスタジオで流して、それをワイプでタレントさんが見て、笑ったり、リアクションしたりみたいな。番組作りの方法論が、同じ方向に向かいすぎてるのかな、と思うことは結構あって。
その中でテロップの入れかたひとつでもいいから、何か新しい発明をして、新しいことをやりたいなという思いはあります!
土屋:本当にね、それをやんなきゃだめだと思う。何かやっぱりそこの意地じゃないけど、今までやったこないことをやろうとか、いまみんなこうやってるけど俺はそこをやらない、とか。
宮森:見たことないもの見せたいですし、結末が予想できないものを見せたいです。
それこそ僕は、あの猿岩石のヒッチハイクを見てた時に、取り繕ってない、むき出しの言葉とか表情がものすごく印象に残っていて。「何となくこういう流れになるんやろな」とか、「こういう編集あるよね」をことごとく裏切られて、初めて見る無秩序とか、カオスな雰囲気に物凄く惹かれたんですよ。
自分も、なんか無茶苦茶な、とか、この後どうなるんだろうな、っていう収録ができたときは、やっぱ興奮しますし、そういう番組を届けたいなというのはすごい感じますね。
土屋:「70年の歴史の中で誰もやったことないよな」っていうことをやらないと、テレビは死ぬよ。
そして、それを生み出せるのは絶対若いやつなんだよ。
なぜ芸人たちは「M-1」に命をかけるのか?
宮森:以前、「THE W」という大会で土屋さんにアドバイスをいただいたことがあって。
(※THE Wは、日テレが主催する、最も面白い女性芸人を決めるコンテスト)
「そのコンテストに向かって、一年間どれだけがんばってきたかとか、その裏の一年間を感じさせる、いろんな一年間の物語が感じられる番組になるのがいいじゃないか」と仰っていて、それが物凄く印象に残っていて。
やっぱ出てくれる芸人さんファーストっていうか、その人たちが出たいって思う大会にしたいと思いますし、その人たちの思いを汲み取れるような番組になればいいなという風に思って作ってるんですけど。
土屋さんがそういう風に、裏の一年間とか裏の物語というところを注目されるようになったのって、これまでの土屋さんの経験のなかで、どういうきっかけでそう思われたのかな、というのをお聞きしたいです。
土屋:電波少年って「死に物狂いになっている人間の顔」の企画だからそこに敏感になっていて。それでM-1をある年に見ていてフト不思議になったんだよね。
M-1って、なんで本当に命かけて芸人たちがさ、やるんだろう。で、それこそM-1出られるよ、っていう発表のシーンは放送があるけど、その前の1年間は無いわけじゃん。でも、本番に向けての裏の顔一発見せるだけでさ、本当に命かけてるな、ってわかるじゃない。それは作り手がつくったものじゃなくて、場がつくったものの不思議さだよね。何でこういうことができるんだろう、って思ったときに、「そうか、芸人たちって、松本人志に面白いって言ってほしいんだ、1000万円がほしいわけじゃないんだ。テレビの人気者になりたいわけでもなくて、本当に松本人志に面白いって言わせるために、命って削れるんだ」ということを思って、それを感じたんだよね。
で、そのすごさと、それが見えてしまうテレビのすごさみたいなことを感じていたから。
宮森:なるほど。
土屋:だから今のオリンピックも始まるまでは色々あったけど、やっぱり命かけて、毎日毎日死ぬほどの努力をしている人間って、間違いなく感動しちゃうわけじゃない。それはやっぱり人間の本性っていうかさ、自分もこうありたいっていう憧れも含めて。それってやっぱり伝わっちゃうんだよね。それがTHE Wにも出てくると良いよね。
宮森:そうですね、THE Wはまだまだ歴史は浅いので、長く続けていくなかで、多くの芸人さんが、そこの舞台を目指したい、という大会に育てていきたいという思いはすごくあります。
土屋:他人の一年間というものが透かしてみえる…というか、思わず見えてしまう…というところが一番本質的だよね。
で、そのための環境を、本番に本当に力を発揮できる環境を、スタッフ側も全力でつくってますっていうことだよね。それがまあかなり近いところまでがんばって作られてるなっていうのがM-1だったから、その話をしたんだけど。
宮森:レギュラーのバラエティーも同じことなのかなと思う部分もあります。
出演者がその番組にどのぐらいの熱量をかけて、どういう想いで取り組んでいるかを、昔以上に視聴者は敏感に感じ取っているんじゃないかと思ってて。個人の熱量が直に伝わってくるYOUTUBERを見慣れている影響もあると思います。
だからこそ、出演する人が熱をもって取り組めるような仕掛けとか、座組とか含めて、意識していきたいなとは思ってます。
土屋:「水曜どうでしょう」の藤村ディレクターと大泉洋は、運命共同体になってるから、やれることが他の番組とは違ってくるみたいなさ、そこが特別なんだよね。
宮森:ディレクターとの信頼関係で成り立っているっていう。
土屋:「電波少年」は出演者全員がゼロだからやるしかないっていうことで成り立っている(笑)
電波少年のコンセプトって「人間誰でも死に物狂いになったら面白い」だからね(笑)猿岩石じゃなくても面白くなるっていう、非常に芸人否定みたいなコンセプトだけど。
土屋敏男から「若きクリエイターへの遺言」
土屋:最後になるんだけど…今までのテレビを否定するような、これまでの作りかたではないテレビが、この20年ぐらいは大きくは生まれてないんじゃないかなと思うわけ。宮森には是非見たことないテレビをつくってほしい、テレビの70年の歴史でこんなものなかったよな、っていうものを作ってほしい。
それが俺が「電波少年」をつくったときに一番思っていたことなんだよね。番組が当たるとか当たらないとか、全くそんなことは思ってなくて…でも、そうしたら中学生高校生ぐらいの男の子たちが、「大人たちはわからない。自分たちしかわからないこの面白さを応援する」ってものすごい熱狂的に支持してくれたんだよね。
で、そんなクリエイターの個人的な思いっていうか、個人的な決断っていうか、会社の中でオフィシャルに語られることじゃなくて、クリエイターのたった一人の人間の心の中のある熱こそが、次の時代の芽なんじゃないか。という気がするんだな。
ということを、おれは若いやつに遺言がわりに言っていこうと思っているんだよ(笑)
宮森:ありがとうございます。ちょうど10月から新番組をやらせてもらうので、その土屋さんからいただいた「遺言」を胸に、ちっちゃくまとまらずに新しいことに挑戦してみたいなと、改めて思いました。
土屋:その新番組ってもう発表してるんだっけ?
宮森:火曜日22時の「ひと目でわかる!!」ですね
土屋:おお~良い枠だね。ぜひ頑張ってください。遠くから見守ってます(笑)
宮森:はははは。ありがとうございます。がんばります!
★noteでは読めない、土屋敏男が語った「もうひとつの遺言」はstand.fmで聞けます! ↓↓
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