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地域とアートがつなぐ時 #1|長野県 安曇野 松川村でのアートプロジェクト

「アートは、社会でどんな役割を持つのか?」
大学に入学するまで、自由気ままに絵を描いてきた私にとって、この問いかけは最大の難問でした。

私が所属していた武蔵野美術大学 造形学部 芸術文化学科のテーマは「芸術文化と社会をつなぐ」こと。
芸術文化には、音楽や演劇、映画、アニメーションなどが含まれますが(参考:文化庁公式サイト「芸術文化」)、「両者をつなぐとはどういうことなのか?」最初はまったくイメージがわかず……。

また、「社会とつなぐ」ためには、社会におけるアートの役割を考える必要がありますが、難題を前になかなか答えを出せずにいました。

そんな時、学科の特色であるカリキュラム「アーツプロジェクト」の説明会に参加し、地域プロジェクトとしてアートに取り組む方法があると知りました。

このカリキュラムには以下の目的があります。

(前略)プロセスを重視し、既存の美術スペースから外に出て、社会的な文脈でアート・デザインを捉え直し、それらを媒介に社会を活性化させようとする取り組みです。このプロジェクト型授業では、ワークショップ、展示、パッケージデザインなど、学外の様々な機関と連携して、学生が積極的に企画・運営し、実践することで、マネジメントの視点と経験を培います。

引用元:芸術文化学科 公式サイト|アーツプロジェクト

「社会に出てアートやデザインを実践してみる」
「プロジェクトを通して、社会でのアートやデザインの役割を考え直す」
「企画・運営を経験し、実体験としてマネジメントを学ぶ」
説明を聞いて、アートに限らず、デザインも学びプロジェクトに活かせることも分かりました。

学生は誰でも受講できるのですが、「自分にできるのかな……」と尻込みしていたところに、恩師の今井良朗先生から「長野県 安曇野 松川村でのプロジェクトに参加してみてはどうか」とお声がけいただきました。

これは、松川村で毎年夏に開催する「安曇野まつかわサマースクール」というプロジェクトで、松川村安曇野ちひろ美術館武蔵野美術大学の3者でワークショップを実施します。

私は「安曇野まつかわサマースクール」への参加をきっかけに、

・地域の方々とコミュニケーションを重ねる大切さ

・関わってくださる方々と協働し、関係性を紡ぐ喜び

・地域での活動にアートやデザインを応用する面白さ

上記3つを特に実感しました。

「地域の方々の想いを最優先に考えながら、アートの手法を使って何かお手伝いできないか?」と試行錯誤する中で、「社会におけるアートの役割」の答えを自分なりに見つけました。
それは、「アートは、地域の方々の取り組みを少し後押しするもの」ということです。

こちらの記事では、

・松川村での「アートプロジェクト」に参加してどんな経験をしたのか?

・プロジェクト終了から10年経った今、どのように展開しているのか?

・今の自分にどのような影響を与えたのか?

について、何回かに分けてnoteに綴りたいと思います!
今回は、「アートプロジェクトって何?」という大筋をご紹介します。

そもそも「アートプロジェクト」って何?

「そもそも、アートプロジェクトという言葉を初めて聞いた」方も多いと思います。

そこで、Googleで「アートプロジェクト」と検索してみると、経済産業省の「×ART(かけるアート)スタートアップガイドライン」というページがヒットしました。
こちらのページがとても分かりやすいので、ガイドラインを参照し、「アートプロジェクト」について以下のようにまとめました。

・アートプロジェクトとは、地域におけるアート活動のこと。

・地域の公共空間や遊休空間等を活用して行われる。

・プロジェクトを通じて、アートの本質的価値を見出すことができる。

・地域におけるコミュニティの形成(社会的価値)や、地域のブランディング向上(経済的価値)など、地域に様々な価値をもたらす。

経済産業省|地域の活性化に向けたアートプロジェクトの手引きとなる「×ART(かけるアート)スタートアップガイドライン」を公表します|掲載日:2024年2月22日)

つまり、「アートプロジェクト」とは、地域資源にアートを掛け合わせ、地域を活性化させる取り組みと言えます。

ここからは、私が参加した長野県 安曇野 松川村の「アートプロジェクト」をご紹介しますので、「こんな取り組みなんだ」と少しイメージしていただけたら嬉しいです。

長野県 安曇野 松川村の「アートプロジェクト」

松川村の風景(2012年)|撮影者:浜田夏実

私が参加した松川村の「アートプロジェクト」は、

  • 「安曇野まつかわサマースクール」(2011・2012年)

  • 「松川村 絵本プロジェクト」(2012〜2014年)

の2つです。

2つのプロジェクトを立ち上げられたのは、当時、芸術文化学科の教授を務められていた今井良朗先生です。(現在は同大学名誉教授になられています)
各プロジェクトには6人以上の学生がメンバーとして加わり、今井先生にご指導いただきました。

▼今井良朗先生のWebサイトはこちら

「安曇野まつかわサマースクール」は2002年から10年以上続くプロジェクトで、小学生を対象にワークショップを行い、松川村の文化や魅力を伝えてきました。

2011・2012年のワークショップでは、松川村の食文化に焦点を当てた企画を実施。
松川村の行事食や伝統的な食文化の継承に注力する「松川村生活改善グループ連絡協議会」のみなさんに多大なご協力をいただきました。(行事食とは、季節の行事やお祭りで食べる料理のことです)
ワークショップは、松川村の食文化をテーマにしたカルタ(読み札)を作り、子どもたちが絵札を描くといった、楽しみながら村への関心を深める工夫を重ねました。

「安曇野まつかわサマースクール」でのワークショップや、「松川村 絵本プロジェクト」での絵本制作については、次回以降の記事で詳しくご紹介しますが、2つのプロジェクトでメンバーが尽力したのは「松川村の文化を知ること」。

松川村の農業体験でりんご農家さんに伺いました(2012年)|撮影者:浜田夏実

松川村は農業がさかんで、有明山の麓に位置する自然豊かな地域です。
ところが、メンバーの学生は農業の経験がなく、村の方々にお話しを伺っても理解できないことばかり。

東京にある武蔵野美術大学から松川村までは、車で片道4時間ほどかかるので、訪問するチャンスは限られていました。
そのため、現地を訪れたら、農業体験に参加したり、村の方々と交流したりして、「松川村の文化を知ろう」と学生全員が必死に行動しました。
村の方々も、私たちが理解できるよう、多くの時間を一緒に過ごしてくださいました。

大変お世話になった松川村の方々とは、なんと10年以上も交流が続いています。
また、プロジェクトをきっかけに、現在でも松川村の行事食を作る体験など、地域での活動が活発に行われています。
「アートプロジェクト」には地域活動を継続する力もあるのだと感じました。

絵本に登場するキャラクターの飾り寿司づくり体験(2023年)|撮影者:「松川村 絵本プロジェクト」メンバー

次回の記事では、「安曇野まつかわサマースクール」や「松川村 絵本プロジェクト」について、詳しくご紹介します!
10年以上続く活動の魅力や取り組んだ内容をお伝えしますので、またお読みいただけましたら幸いです。

こちらの記事は、今井良朗先生のご著書『ワークショップのはなしをしよう 芸術文化がつくる地域社会』を参考文献として執筆しました。
ご興味のある方は、下記リンクからぜひ詳細をご覧ください。

『ワークショップのはなしをしよう 芸術文化がつくる地域社会』
著者:今井良朗
発行日:2016年2月10日
発行所:株式会社武蔵野美術大学出版局

▼シリーズ「地域とアートがつなぐ時」


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