交通事故により後遺障害を求めるために

後遺障害を認定してもらう上で必要な知識をメモ程度でまとめます(別途、講義用のパワポ資料などで反映する予定)

後遺障害とは、治療が終了してもなお、痛みやしびれその他事故の傷害が残存していることを言います。
交通事故「により」発生した、という因果関係が求められるため、単なる自覚症状では足りません。医学的な知見が求められ、あるいは、事故により生じた外傷・異常所見と整合することが求められます。
そういう意味で、法律上の損害賠償の対象となる後遺障害とは、一般的に使われる用語「後遺症」よりは範囲・要件が狭くなっています。

治療が終了してもなお、と言いました。後遺障害が残るという事は、いつまでも痛みやしびれが残るため、なかなか治療を終了させることはできません。他方、後遺障害の認定を求めるためには、事故との関係での治療が終了した日を、医師と相談の上で、自ら決めなければなりません。これを症状固定と言いますが、治療をしても症状がよくならない(よくなる見込みがない)、一進一退であるというような状態は、症状固定とみなされることが多いです。後遺障害は、「常時」症状が残存しますから、雨の日は痛みが強いけど晴れの日は痛みがない、というのは後遺障害にあたりません。症状も固定していると判断されやすいです。
もちろん、その後の治療をしてはならないというわけではありませんので、症状固定後の治療は、健康保険を利用して3割負担で通院治療を続けることが考えられます。

後遺障害はその程度に応じて、等級が分かれます。交通事故の後遺障害は、労災の等級に準じて判断されます。


なお、後遺障害の認定手続は、ご自身で書類を揃えて進める被害者請求の手続と、相手方・加害者側の保険会社に手続きを進めてもらう事前認定の手続の2つがあります。手間を省き速やかに結果を求める上では事前認定が望ましいですが、この場合は相手方保険会社の意見書も一緒に自賠責保険会社に送られることが多いです。簡単に言うと、「これは後遺障害ではない」というような消極的な意見が付けられることが多いので、判断が分かれうるグレーゾーンの事例では、被害者請求によることが妥当です。

等級認定を求める上で(神経症状・むち打ち損傷)
神経症状が残ることを主張する上で、XP,CT,MRI等の画像所見が必要です。客観的に判断できるので、最も有力な証拠です。その他にもジャクソン・スパーリングテストや徒手筋力テストなどありますが、自覚症状の要素が強く証拠として必ずしも有力とは言えません。
その他、
診断書・診療明細書、カルテ
事故現場の写真、刑事記録、ドライブレコーダー
事故車両の損傷写真、修理見積書
が事故の衝撃の大きさを確認する上で大事な資料です。
上記に関し、事故によって骨折・脱臼などをした場合は大きな損傷が認められ、後遺障害が認められやすい部分がありますが、骨折にも程度問題があり、治療終了日(症状固定日)時点において、骨の癒合が良好だった場合は後遺障害が認められないケースが多いです。変形して、誤った位置で癒合してしまったり、関節の拘縮がみとめられたりすると骨折後の後遺障害が認められることがあります。

関節の可動域制限
神経症状に由来する事が多いです。
障害を残す患側と、障害を残さない健側との可動域の数値を比較して評価します。
主に主要宇運動の可動域制限の程度によって評価されますが、事例によっては参考運動を考慮して主張をしていきます。


外貌醜状
顔面に傷を負わされると、特に女性の場合はその後のお仕事や生活に大きな支障が生じてしまいます。
醜状痕の見え方(箇所や程度)によって等級が変わりますが、それを踏まえ、被害者の職業、性別、年齢等を考慮して、「被害者が醜状痕をきにすることにより対人関係や対外的な活動に消極的になる、その結果、収入が減少し得ると解釈できる場合は、後遺障害の逸失利益が認められやすく、認められずとも、慰謝料の増額自由になり得ます。
後遺障害の損害賠償は、あくまで事故の後遺障害で収入が減ったことの損害を前提としますので、顔の傷が関係ないお仕事だと、判決まで至ると認定されない場合があります。

歯牙欠損
歯が欠ける怪我に関しても、同様の問題が生じます。
歯を食いしばって力を入れるような肉体仕事は不都合をもたらす可能性があり、そのことが就労意欲や機会を狭めることになり逸失利益を認定しやすくなります。
なお、歯の治療に関してはインプラント等の最先端の治療が進められることがありますが、医療費が高額になり、他の治療方法で代替可能な場合は事故との因果関係が否定されることがありますので、要注意です。

PTSD
これは、今の裁判実務上、賠償対象になるPTSDと、医師が診断書で記載するPTSDとは大きく乖離があるため、被害者の方にとってはPTSDと思ってもそう認定してもらえない場合が多く、毎回悔しい思いをします。言い方を変えると、医師は、広い意味でPTSDを使用することがありますが、交通事故に関するPTSDは、医学的に求められる非常に厳しい基準を満たさなければ裁判所が認定をしてくれない事が多いです。
強烈な外傷体験があるか(追突も大きな衝撃的事故ですが、それだけでは足りません)
再体験症状があるか(トラウマ、フラッシュバックがあるか)
回避の症状があるか(もう車には乗れない、などの症状)
覚醒亢進症状(不眠やイライラなど)
特に強烈な外傷体験

感触的に、厳しいなとよく思うのが、強烈な外傷体験の要件です。PTSDが最初に話題となったのはベトナム戦争からですが、戦争に同視し得る程の衝撃体験が求められることがあり、通常の軽微な交通事故ではこれを満たさないことが多いです。

診断基準は日進月歩で改定されますが、例えば以下のURLがわかりやすいかなと思います。


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