【みけねこさん】開示請求の判決が公開された件について解説ー途中から有料ー


1 はじめに

 先日、みけねこさんさんが進めた開示請求の事案について、とある裁判例が公開されました。数多くある開示請求の案件のうち、(残念ながら)本人が敗訴した案件が公開されてしまったため、世間を大きく賑わせてしまいました。
これを公表することで新たな二次被害が生じているように思え、裁判所がこれを掲載するのはどうなのかな、、、と個人的には思いますが、同様の事例が生じた場合の対応策を考えるためにも、以下、解説していきたいと思います。

※なお、裁判の公開は原則とされていますので、公表することが悪いことではありません。また、裁判所が今回の判決を掲載したのは、後述の通り、プロバイダ責任制限法の条文の解釈についての判断が含まれていた、意義のある裁判例だったからだと思われます。

2 対象となった投稿について

対象となった投稿は、以下の2つです。いずれも5ちゃんねるの模様。
一つは、「33歳で・・・やめた方が良いよ普通にキモいよ」などの投稿。
もう一つは、URLを貼るだけの投稿ですが、本人の自撮り画像を転載したウェブページのURLを貼り付けるものです。
両者は別個独立の投稿のようですが、一つ目については、(本人の申告によれば)みけねこさんがあるドラマを見た感想として「ナイフ舐める」等の発言をした際に、それを聞いた視聴者等がした投稿のようです。

3 争点や裁判所の判断

(1) 33歳の記載はプライバシーを侵害するか

みけねこさん側は、年齢というのは他人に知られたくない事柄であり、実際自身の年齢は一般の人々に知られていない旨を主張しました。
しかし、裁判所は、検索サイト等で調べれば年齢は容易に分かるためプライバシー侵害にあたらない、としました。加えて、裁判所は、みけねこさんが「トーク力や声、企画、人柄等により多くのファンを既に獲得していることがうかがわれ」ることから、年齢を開示されても配信活動に具体的な支障が生じるとは認められず公表する理由と公表されない利益を比較衡量すればプライバシー侵害には当たらないとしました。

原告の年齢は既 に広くインターネット上で周知されているほか、原告は、トーク力や声、企 画、人柄等により、多くのファンを既に獲得していることがうかがわれ、本 件全証拠を精査しても、原告の年齢が本件投稿1により開示されることによ り、原告の配信活動に具体的な支障が生ずることを認めるに足りる的確な証拠はない。 これらの事情の下においては、原告の年齢を公表されない法的利益とこれ を公表する理由とを比較衡量すれば、前者が後者に優越するものと認めるこ とはできない。 したがって、本件投稿1は、原告のプライバシーを侵害するものとして不法行為法上違法であることが明らかであるということはできない。

(2) 名誉感情侵害にあたるか

ここが、ネット界隈で盛り上がっていた部分の一つになります。
裁判所は、みけねこさん自身の発言にも不穏当なところがある以上、それを戒める趣旨でされた今回の投稿(年齢考えて!等)は、社会通念上許される限度を超える侮辱行為であることが明らかといえない、とされました。
(なお、みけねこさん側の言うテレビドラマについての感想という説明は、具体性がなく立証できないという指摘もされています)

「ナイフ舐める」や「ぶっ殺してやりたい」とい う原告の発言は、それ自体不穏当なものであることは明らかであるから、当該発言に対するものに限れば、当該発言を戒めるものとして、「普通にキモ いよ」や「自分の年齢考えて!」という意見を述べることが、社会通念上許 される限度を超える侮辱行為であることが明らかであるということはできな い。

(3) 自撮り画像に関するURL画像が権利侵害にあたるか

みけねこさんの自撮り画像について著作物性が争われました。
裁判所は、カメラの画素数やその配置、被写体の角度などを工夫したものであり著作物性が認められるとしました。
他方、URLを貼り付ける投稿は、その行為によって事実上画像がサムネイルとして粗い画像ながら表示されるものの、それは直接に著作権を侵害するものではないから開示請求の要件を満たさない、としました。
要するに、ユーザーは、対象の投稿で見ることができるのは粗い画像だけであり、著作権を侵害するような画像を見るにはその投稿のURLをクリックして、さらにそのサイトから別のサイトにクリックで移動しないとみることができないという実情があることから、その侵害態様は間接的であるとされた模様です。

これは、結構、議論の余地があるように思います。


前記認定事実によれば、本件投稿2によって本件URLを送信したことにより、本件元画像の解像度を下げた粗い画 像が表示されたのに対し、本件元画像については、本件投稿2を閲覧した ユーザーが、本件URLをクリックした上で、更に別のサイトに移動する 旨併記された本件URLと同じURLをクリックしない限り、これを目に することはない。また、前記認定事実によれば、本件元画像の内容が、原 告の顔を写さずにその衣装等を写すものにすぎず、そのサムネイルが本件 投稿2において既に表示されていることが認められる。 上記各認定事実を踏まえると、通常は、本件投稿2を閲覧したユーザー が、本件URLをあえてクリックした上で、別のサイトに移動する旨告知 されているのに更にURLをクリックするといえるような事情まで認める ことはできない。 これらの事情の下においては、本件発信者による本件URLの送信は、情報の流通によって原告の著作権の侵害を直接的にもたらしているものと 認めることはできない。 したがって、本件投稿2は、上記にいう「権利の侵害」が明らかである ものと認めることはできない。

※令和2年7月21日の最高裁判決は、リツイートが権利侵害にあたるかについて判示をしました。法5条1項の権利侵害とは、情報の流通によって権利の侵害を「直接に」もたらしていたものに制限されると解されたことを踏まえたものです。本件のような事案についても、「直接」の侵害といえるかが争点となりました。

(4) 氏名表示権の侵害にあたるか

問題となった自撮り画像は、顔を隠した写真ではありました。
みけねこさんは、そのような画像についても将来的には氏名を表示する予定があったのだからそれを表示せず公開することは氏名表示権(著作者人格権)を害する旨を主張しました。
しかし、裁判所は、みけねこさんがこれまで写真などを一切公開しないVtuberとして活動するから、表示を予定していたとの説明は信用性が低い等として、権利侵害を認めませんでした。

原告は、VTu berの活動において、原告の写真等を一切公表していないことが認められ る。そうすると、本件画像にあえて原告の氏名を表示する予定であったという原告の主張は、人物識別情報の公開を避けていた事情に照らし、それ自体 信用性が低いものと認められる。

4 その他・感想

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