【絵師・イラストレーターさん向け】主に著作権法上気を付けることーAIイラスト、著作権法改正等ー


1 はじめに

昨今のSNS上の話題を見かけると、未だに絵師さんやイラストレーターさんにまつわるトラブルが多く発生しているように思います。
今回は、主にSNS上見かけたトラブル等も題材に加えて、著作権法上、気を付けることを述べたいと思います。

2 盗作・パクりと法的な著作権侵害との違い

(1)思考の整理

盗作やパクリと言われる場合、主に二つの類型(著作権の支分権)があります。

ア 複製

一つは、複製です'(21条)。
既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚地させるに足りるものを有形的に再製することを言います。(ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件・最高裁昭和53年9月7日判決参照)。

イ 翻案

もう一つは、翻案(ほんあん)です(27条)。
既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得できる別の著作物を創作する行為を言います(江差追分事件・最高裁昭和55年3月28日判決参照)。

複製と翻案との違いは、そこに新たな創作的表現があるかないか、という点にあります。

ウ 元の作品に依拠しているか

複製と翻案、いずれの定義からも導かれる要件は、①依拠性と②直接感得性です。
①依拠とは、他人の著作物に接し、それを自己の作品の中に用いることを指すと言われます(中山信弘・著作権法参照)。
他方、②直接感得性とは、既存の著作物の本質的な特徴を直接感じ取ることを言います。
見方を変えると、依拠してるかの判断は、
① 似てる部分があるか(依拠)
② その似てる部分は、元の作品の本質的な特徴を含んでいるか(直接感得)
の順序でなされます。
たとえ、両者に似ている部分があっても、それが元の作品の本質的でないところと言えるのであれば、複製・翻案として著作権侵害にあたらない、ということです。
ここがおそらく、世間でいう盗作やパクリとの違いともいえるでしょう。(SNSでは、似てるか似てないか、という議論に終始していることが多いです)
更に言えば、「どこが似てるか」(依拠)というのは、まだ素人目に見てもまだ分かりやすいところではありますが、「似てる部分が本質的かどうか」(直接感得)というのは非常に難しい判断を伴います。それがゆえに、結論が事案によって変わってしまうのです。
以下の2つの事例は、よく具体例として挙げられます(ネットで探せばいくらでもありますが、newpon特許商標事務所さんと咲くやこの花法律事務所さんのネット記事から拝借しました。)

〇依拠していると判断された事例(著作権侵害〇)

https://www.newpon.com/tm/hanketsu/local/l040625t_LEC.html

顔の書き込みがないこと、肌が一色であること、姿勢がAを模していること、手のひらに建物を置いて読者の目を注目させるような配置にしていること等において、両者は類似します。

〇依拠していないと判断された事例(著作権侵害×)

https://kigyobengo.com/media/useful/203.html

博士のような衣服(ガウン、角帽)をまとい、髭を生やす、年配男性という点で、両者は類似します。

両者ともに「どちらも似てるじゃん」と言われてしまいそうですね。しかし、実際の裁判例では、博士の方は、著作権侵害が認められませんでした。その経緯・背景としては、「博士のイラストは一般的にガウン、角帽をまとう方」という一般イメージが周知されているがゆえに、ありふれた表現だから元の著作物の本質的特徴には当たらないと判断されたようにも思います。※参考にした文献には、博士は年配男性で髭を生やしているのが一般だという表現もありましたが、そこは男女平等の流れを踏まえ、あえて省略しました。(石川正樹弁護士「著作権のキホン」等参照)。

世間ではどのようなイメージ、表現が周知されていて、ありふれた表現になっているかというのを解釈することは、両者の作品同士を見比べるだけでは判断をすることができません。ここまで行くと、専門家の力を借りる等して、十分な主張・立証を進めていく必要があります。

※なお、数年前に大問題になった佐野氏の五輪のロゴの盗作疑惑は、必ずしも複製権・翻案権侵害が明確に認められるかは、怪しい問題だったと言えるでしょう。その他の盗作問題(空港や駅の写真)の方が深刻であり、本人も盗作を認めたことが、大きな問題に発展したきっかけにもなったと言えると思います。

エ 著作者人格権について

複製、翻案は、いずれも、元の著作物に何らかの改変を加えることを意味します。しかし、それが元の著作者の著作者人格権(18条以下。その中でも、同一性保持権が重要)を害してはならないことも、注意が必要です。
著作権法20条2項4号は、「著作物の性質並びにその利用の目的及び太陽に照らしやむを得ないと認められる改変」に当たる場合は、同一性保持権侵害にあたらないと規定をしています。そうすると、「やむを得ない」かどうかの判断が問題になります。

有名な裁判例は、法政大学懸賞論文事件(東京高裁平成3年12月19日判決)です。句読点や改行等を、無断で改変したことの是非が問われましたが、結論的には懸賞論文の読者が一般に学生である等からその改変をしなければならない必要性はないとして、やむを得ない改変にはあたらない(=著作者人格権の侵害を認める)とされました。

著作者人格権の侵害は、同人誌やパロディを考える上では避けられない問題です。原作者の方はあえて黙認している場合もありますが、ケースバイケースになってくることが多いので、リスクがあることだけは注意しましょう。

数年前になりますが、森のくまさんの替え歌を作ってCD販売をしようとした芸人さんについて、著作者人格権侵害が問われたことがありました。

こちらは、ときめきメモリアルのキャラクターを大人向けに性的な描写を含めた改変をした同人アニメを訴えた裁判です。元の作品のキャラクター名は明示されていないもののイラストや舞台設定から元の作品の藤崎詩織を指すことが認定され、その上で、「本件藤崎の図柄を、性行為を行う姿に改変しているというべきであり、原告の有する、本件藤崎の図柄に係る同一性保持権を侵害している」旨が判示されています。

最近ですと、ウマ娘のゲームに関して、多くの馬主さんの協力があって成り立っている作品であることを前提に、アダルトな二次創作は厳格に禁止されているところです。

オ そもそも元の作品は著作物なのか

以上のお話は、あくまで、元の作品が著作物であることを前提としています。しかし、著作権侵害を検討する上では、そもそも、元の作品が著作物であるかという前提事実を検討しなければなりません(法的にはその検討が先だと思います)。

著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものを言います(2条1項1号)。創作的表現があるか否かがポイントです。

上記の博士イラストにも関連しますが、そのイラストの核となる特徴が、そもそも創作的な表現と言えなければ、元のイラストが著作物と言えません。その結果、元の作品を真似しても著作権侵害にあたることはありません。

言語の著作物の場合について言えば、キャッチコピーや短文、書体は、文字数の制限があるため、創作性の余地が見出しにくいので、著作物に該当しづらいです。
イラストも同様です。単調で、ありふれた絵だと著作物性が認められません。しかし、何でもかんでもパクっていいということにはなりません。
例えば、東京高裁平成3年12月17日判決は、木目のイラストが著作物ではないとしながらも、これをそのままデッドコピーして販売していた被告に対して、営業利益の侵害を認めて損害賠償請求を認めました。
すなわち、「X は,X 製品に創作的な模様を施しその創作的要素によって商品としての価値を高め, この物品を製造販売することによって営業活動を行っているものであるが,Y は,X 製品の模 様と寸分違わぬ完全な模倣である Y 製品を製作し,これを X の販売地域と競合する地域に おいて廉価で販売することによって X 製品の販売価格の維持を困難ならしめる行為をしたも のであって,Y の右行為は,取引における公正かつ自由な競争として許されている範囲を甚 だしく逸脱し,法的保護に値する X の営業活動を侵害するものとして不法行為を構成する」と判示しています。著作権侵害をしていないから法的に全く問題ない、ということにはならない事例の一つと言えるでしょう。

https://www.saegusa-pat.co.jp/copyrighthanrei/1924/

(2)最近のトラブル

これは、ツイッター(X)を、事実上支配するイーロンマスクさんの投稿です。日本の漫画家さんのイラストを無断で利用・改変してツイートをしています。Twitterの規約の問題も気にしなければなりませんが、、もう少し著作権に配慮した投稿をしていただきたいというのが正直なところです。

これは大物絵師さん同士が当事者の盗作疑惑のトラブルです。その是非のコメントは控えますが、構図や絵のタッチ等が類似しているのではないか、とSNS上で話題になりました。

※本当は元の作品のURLを貼りたいんですが、、まとめ記事から引用です。https://bazu-word.com/pikazo-pakuri/

なお、こちらは、Mikaさんに関し、上記の盗作疑惑とは別で、過去に海賊版を利用したことを謝罪した投稿文です。かなり前の話のようではありますが、悪いものは悪い、という点はやむを得ないかなと思います。(飛び火して過去のことをほじくり返されてしまったような気がしてかわいそうな気がする部分はあります)


3 使用料・損害額はいくらが妥当か(著作権法改正)

ネタの場合もあるでしょうが、無断転載したら〇〇万円、等と高額請求をするクリエイターさんを多く見かけます。
ただし、実際にその料金で契約をしている実態がないと、その請求金額が認められることは容易ではありません。その業界の料金相場も考慮して判断する必要があり、著作権者の言い値だけで使用料、損害賠償の請求額が直ちに決まるとは限らないからです。

著作権侵害に関して賠償請求がなしえる損害は、理屈上、侵害によって著作権者が得られるはずだった利益(侵害品が出回ることにより市場において元の著作物が売れなくなることの損害)、が主たる損害です。ただ実際はその立証に困難を伴います。

分かりやすく言うと、損害の立証は、その侵害がなければ元の著作権者が利益を得ていたことが前提です。侵害者の努力・営業活動、更には知名度等で得られた利益をもすべて元の著作権者の損害に考慮していいのかというのは疑問が出てきます。
侵害者の利益率、というのを被害者側において算定することも難しいところです。また、現行法は、侵害者の販売数量に、元の著作権者の利益率を乗じて損害を定める方法も用意してますが、元の著作権者の限界利益・利益率は企業秘密とされていることも多く、何らかの不都合が生じることは予想されます。

今後の法改正・施行が予定されていますが、著作権法114条は、損害額の算定に関する規定を定めています。どれが一番主張・立証しやすいか、損害額が大きくなるか、不都合はないかを考慮して請求方法を定めることが大事です。
※ここも専門家と相談して戦略を立てるべき部分と言えるでしょう。

https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r04_09/pdf/93828701_01.pdf

4 自身の成果物と分かるようにしておく

大きなアニメや映画、大きなプロジェクトに関わった場合に良く問題となりますが、「このカットは私が作りました」ということが分かるような配慮をしてもらうことが大事です。それが自身の成果物であり、今後の宣伝や信頼にもつながります。
法的には、氏名表示権(著作者人格権の一つ)等といわれることがありますが、通常の著作権譲渡の契約書では、氏名表示を含む著作者人格権は行使しないという旨が定められることがあります。その分、対価・譲渡料は高額に設定されることがありますが、権利処理の結果を十分理解をして仕事を受ける、契約を交わすことが大事です。

https://pf.bunka.go.jp/chosaku/chosakuken/keiyaku_intro/chosakukenkeiyaku_manual.pdf

以下は、個別の契約というよりは利用規約の問題になって趣は異なりますが、クレジット表記の明記を前提に商用利用可とされたフリー音源にまつわるトラブルです。

5 絵の作成依頼にはどこまで応じるか

個人間のイラストの依頼の場合や、企業からの依頼であっても担当者と決済者とで温度差がある場合、何度も修正依頼がかかってトラブルが生じることがあります。

マナーの問題やその後の信頼関係、業界の評判に影響するとも言えますが、東京地裁昭和62年5月18日判決は、デザイナーにおいて発注者の意に沿うまでデザインを制作し直す義務はない(信義則上要求される程度の修正は別問題)と判示をしています。
あまりにも何度も修正を求められた場合は、このような判決があることを頭の片隅に置いて交渉を進めることが大事と言えるでしょう。

6 別のイラストを勝手に作られるリスク
これは、前にも自分のnoteで紹介したことがある事例ですが、個人勢のVtuberさんが、元の絵師さんとの間で、翻案、改変の権利を定めていなかったゆえに新しい衣装を無断で作成することはかなわなかった事案です。詳細は分かりかねるところがありますが、著作権上の処理を契約書できちんと定めなかったがゆえに生じた悲しいトラブルの一つといえるでしょう。これは上記の成果物の契約条項例にも関連しますが、しっかりと専門家に依頼をして契約書を定めることが大事です。

これは、ちょうど、本投稿を作成している頃に話題になった記事です。契約書でクリエイターとVtuberとの間でしっかりと契約内容を定めることの重要性が書かれています。

6 AIイラストのトラブルについて

これは、最近大きな話題になった疑惑です。
スレイヤーズのイラストレーターさんにAIを用いたイラストを作成・販売したのではないかと疑惑がもたれた案件です。結果としてご本人が製作工程を公開する等して話題は一応の終息をみました。
以下は、ニコ生アニメ無料放送のご案内です。

AIを用いたイラストは、一般ユーザー、同業者間でも嫌悪されている部分は否定できません。
また、新しい論点がゆえに、法的な整理もまだ十分になされていないのが現状です。国の公式見解が待たれますが、以下は文化庁の動画です

分かりやすく言うと、
①AIに絵を学習させることはOK(30条の4)。
②AIで実際に絵を生成した場合は通常の著作物と同様に依拠性、類似性等を判断して著作権侵害を検討。
③AIの生成物の著作権については、AIが自律的に作成したものは著作物でないが、利用者が主体的にAIを利用して作成した場合は利用者が著作者である
になると思います。

※私も、AIを実際に利用したことはないので不勉強なところはありますが、少なくとも、上記のようにスレイヤーズの元の作者さんが、「仮に、AIを利用してイラストを作成したとしても、」(自分の絵を下にしているのだから)元の著作権を大きく気にする必要はない上、新たなイラスト作成の道具としてAIを利用したに過ぎないのであるから、現行の流れからすれば、法的に大きな問題はないんじゃないかと思います。
もちろん、AIを用いることそれ自体が悪だ、という考えが根深く残るのも気持ちは分かりますので、そこはまだ議論が必要なところではあるでしょう。

上記文化庁の動画参照

7 参考資料(文化庁等)

色々書かせていただきましたが、実は、文化庁がたくさんの資料を公開したりイベントを開催したりして、アーティストさんの活動を盛り上げようと頑張っています。こちらもぜひ参考いただけたらと思います。

以下参考までに。
著作権テキストhttps://www.bunka.go.jp/seisaku/chosakuken/seidokaisetsu/pdf/93908401_01.pdf

フリーランスアーティスト・スタッフのための契約ガイド
https://precog-jp.net/wp-content/uploads/2023/02/contractguidebook_precog.pdf


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