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意匠の類否判断を考える #3
様々な意匠と審決を見て、類否判断を考えるシリーズ。今回は、コンピュータ、瓦、やすりです。
コンピュータの意匠
以下のコンピュータ(本件意匠)と電子計算機(引用意匠)は似ていると思いますか?
答えは似ている(類似)と審決されました。
![](https://assets.st-note.com/img/1737771284-3VraMSOW49NFL275QPhDkwvy.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1737771294-iGk2uq45SBI1LFUPnDZ8pgoc.jpg?width=1200)
相違点
本願部分は、側面視において、ディスプレイ部と支持板との接続部の下になだらかな傾斜を有する幅広な凹部があるのに対して、引用部分には、そのような凹部がない点において相違する。
類否判断
本願部分は、ディスプレイ部縦幅の約1/2の位置に支持板の接続部があるのに対して、引用部分は、下から約1/3の位置に支持板の接続部があり、両部分の位置は相違している。しかし、支持板の接続部の位置は、以下の参考意匠1に見られるとおり、本願意匠と同様の位置にあるものも、引用意匠の位置にあるものも、いずれも普通に見られるから、この位置の相違は、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
両部分の大きさ及び範囲は、一致しているから、同一である。
瓦の意匠
以下の瓦(本件意匠と引用意匠)は似ていると思いますか?
答えは似ている(類似)と審決されました。需要者には施工業者・販売業者も含まれますが、背面形状は瓦の看者の注意を引かないと判断されています。
![](https://assets.st-note.com/img/1737771421-V9LwjmIDBolf5dTyN03a4enC.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1737771428-2v1z9Ntna5gPTdD4qpGcmiVB.jpg?width=1200)
相違点1(背面形状)、同2(女瓦の左端部の壁)、同6(男瓦の縮径段差部の溝の有無及び右側端の角度)、同7((i)女瓦の上端寄りの凸部の形状、(ii)左下端の角度)は、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない構成態様に関するものである。
意匠の類否は「需要者の視覚を通じて起こさせる美観」に基づいて判断されるべきものである。両意匠にみられる瓦は、屋根等を葺くための建築部材であって、瓦屋根の建築物を注文し、その所有者等となる施主が中心的な需要者であり、そうした需要者の求める美観は施工後の外観に係るものである。瓦屋根を施工する建築業者、瓦の販売業者等も需要者ではあるものの、そうした立場の需要者であっても、最終的には施主の満足を得させる施工後の外観が最も重視される。そうすると、両意匠における瓦については、施工後の状態から看取できない構成態様が意匠の類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるというべきである。よって、瓦を葺いた施工後の状態からは看取できない相違点1、2、6、7が、類否判断に及ぼす影響は相対的に小さいものにとどまるというべきである。
総合評価に基づく形状等の類否判断
以上のとおり、両意匠の要部は、本葺一体瓦において看者の注意を強く引く男瓦の連なりに係る構成部分であり、かつ、従来の意匠に見られなかった新規の創作に係る下方開口のコの字模様というべきである。その共通性が両意匠の形状等の類否判断に及ぼす影響は極めて大きく、他方、両者の相違点の中には、類否判断に一定程度の影響を及ぼす点はあるものの、その影響は相対的に小さいものと認めざるを得ず、全体として評価すれば、両意匠の形状等は類似する。
やすりの意匠
以下のやすり(本件意匠と引用意匠)は似ていると思いますか?
答えは似ていない(非類似)と審決されました。やすりのような実用的な物品に関して、「やすり面」や「やすり目」といった機能に関する部分は、類否判断に与える影響が大きくなります。
![](https://assets.st-note.com/img/1737771502-8AGMVOT4yJjHPwc2za3lpfrx.jpg?width=1200)
![](https://assets.st-note.com/img/1737771509-3ZjeA2VHaLKW7UMCXg5pBIJT.jpg?width=1200)
相違点
(ア)やすり面の範囲
本願意匠は、正面視略中央から左端まで、全長の約1/2の範囲の「表裏面」及び「こば」に、やすり面を設けているのに対し、引用意匠は、正面視左寄りから左端まで、全長の約1/4の範囲の「表裏面」及び「こば」に、やすり面を設けている点において相違する。
(イ)やすり目の形状
本願意匠は斜め格子状の複目であるのに対し、引用意匠は略うろこ状(青海波模様)である点において相違する。
(ウ)ひも通し穴の有無
本願意匠は、ひも通し穴が無いのに対し、引用意匠は、正面視右端付近(後端部付近)の屈曲部の真ん中にやや大きめの略円穴を設けている点において相違する。
(エ)色彩の有無
本願意匠は、線図による形状のみの意匠であるのに対し、引用意匠は、やすり本体は銀色、グリップは赤色に着色している点において相違する。
相違点の評価
相違点(ア)について、両意匠のやすり面の範囲は、大きく異なるものであり、当該相違点は、やすりをかける際の使い勝手に大きな影響を及ぼすものであって、需要者もこの点に注目するといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
相違点(イ)について、両意匠のやすり目は、具体的な形状が異なるものであり、当該相違点は、やすりをかける際の使い勝手に大きな影響を及ぼすものであって、需要者もこの点に注目するといえるから、両意匠の類否判断に与える影響は大きい。
相違点(ウ)について、引用意匠の紐通し穴は、やや大きいものであるが、この種物品の分野おいて、工具の後端部付近に紐通し穴を設けたものは、本願出願前よりごく普通に見られるものであるから(例えば、意匠登録第1409515号の意匠)、格別需要者の注意を引かないものであり、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。
相違点(エ)について、引用意匠の色彩は、この種物品の分野において、比較的多く見られるものであるから、両意匠の類否判断に与える影響は小さい。