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無慈悲でユーモラスな童話集 『年をとったワニの話』

数千年を生きたワニが、ある日、旅に出る。途中、12本足のタコに出会って恋をする。最愛のタコは、しかしおいしそうでもある。ワニは毎晩一本ずつ、タコの足を食べてしまう。タコは数を数えられないので気がつかない……。

そんなことが?というナンセンスな話ばかりの、レオポルド・ショヴォーの童話集『年をとったワニの話』。
子どものころ繰り返し読んだので、今でも筋書きを覚えている。

活字は大きいし、子ども向けの本として売られているし、出版社も福音館。
だけど、その魅力はどこから来るかというと、暴力だと思う。
たとえば、ワニがタコを食べてしまうこと。また、「トンカチザメとノコギリザメ」の話では、サメたちはクジラに叩き潰されて死ぬ。「メンドリとアヒル」の雛鳥たちはおかしな英才教育によって次々に命を落としていく。とにかく、登場する動物たちは簡単に死ぬ。死なずとも、殴る蹴るの連続。そこに痛みや悲しみなどはなく、物語は淡々と進行する。むしろ、不思議に明るい。なんだか白っぽい光に満ちているような感じがする。

先日、久しぶりに手に取ってみた。
巻末に、作者の息子オリビエ氏へのインタヴューが掲載されていた。それを読んで初めて知ったのだが、レオポルド・ショヴォーの人生は悲しい出来事が多いものだったようだ。4人の息子のうち2人を10代で亡くしている。三男を12歳で失ったのと同年に、妻も亡くなった。第1次世界大戦で軍医として激戦地で任務に当たった経験から、戦争に反対していたが、晩年には第2次世界大戦が始まり、混乱のパリから逃れる中で死去した。
童話は語り手「わたし」が息子の「ルノー君」に読み聞かせる形式で、実際に作者にはルノーという息子がいた。それが上記の三男であり、童話が出版される10年以上前に亡くなった。オリビエ氏によれば、作者の最愛の息子だったという。

亡くした息子に語る、無慈悲でユーモラスな物語。作者の胸の内を想像した。

作者自身による挿絵もとても良い。
単純で、子どもでも描けそうに見えるが、真似しようとしてもできない。遠近感や陰影が案外しっかりしていて、同じように描くのは難しい。


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