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周術期循環管理について

このnoteは、日々特定看護師として全身麻酔を担当する筆者が、学び直しを目的に作成している勉強記事です。
興味、関心がある方は御覧ください。

術前評価

周術期の心臓イベントの発生は予後に直結するため、術前の心臓評価は重要である。重症の心疾患がある場合は、予定手術より心疾患の治療を優先させる場合もある。

  • 高血圧

  • 狭心症

  • 心筋梗塞

  • 不整脈および心不全

これらを有する患者は、必要であれば追加検査(運動負荷心電図、ホルター心電図、心臓エコー、タリウムシンチグラフィ)を行う。

心臓の予備能を評価するため、NYHAの分類が有用。

循環生理

脳および循環器系には生命維持に必要な酸素貯蔵能力に制限があり、麻酔薬や関連薬剤によって心臓血管系に作用すると、循環系に大きな変化をもたらす。それらは、ときに生理的範囲を逸脱して病的状態へと移行する可能性があり、麻酔をする者は循環に関わる基礎的生理学の知識が必須となる。

心臓の酸素消費量と仕事

安静時の心臓の酸素消費量は約8ml/100g(心臓)/minであり、1/4が基礎的維持のために、3/4がポンプ機能に消費される。

また、平均肺動脈圧(PAP)は大動脈圧の約1/6であり、右室の仕事量は左室仕事量の約1/6といえる。

親近酸素消費量(MVO2)を表す指標として、TTI(tension-time index)がある。
これは、左室収縮期の血液駆出が心筋酸素消費量と比例することを利用している。

左室駆出量が多いと、心筋酸素消費量が多い

より簡易に「収縮期血圧✕心拍数(RPP)」を算出すると、左室MVO2の目安となる。12,000以上で心筋虚血の危険性がある。

例えば、sBP:150mmHg,HR:80bpmであれば、RPPは12,000である。

端的に言えば、心臓が血液を頑張って送り出せば出すほど、心筋は動きまくるので虚血になりやすい、ということだ。

血管における容量ー圧関係

正常では、血管内容量の約2/3が静脈系に存在し、動脈系には約1/6しか存在しない。しかし、圧配分は逆で、動脈系が血圧の大部分を占めており、静脈圧はわずかで小さい。このことから、動脈系を圧貯留槽静脈系を容量貯留槽と呼んだりする。

心臓への静脈還流

心拍出量について考えるとき、心臓への静脈還流と心臓の拍出能力について考察する必要がある。

静脈還流については、平均循環充満圧(PSF)という考え方がある。人のPSFは約7mmHgであり、PSFと右房圧の差が実際に静脈還流を推進する圧となる。

たとえば、右房圧が0mmHgのときは約5.5L/minの正常静脈還流であるが、右房圧が上昇するか、PSFが低下すると静脈還流量も低下する。

また、静脈は交感神経系によって主に支配されており、特に皮膚などの四肢表在性静脈が強く反応する。ショックなどで内蔵静脈が収縮すると、内蔵の予備血液が全身循環に入り、静脈還流と心拍出量を援助する。

心拍出量の決定因子

心拍出量(CO)=一回心拍出量(SV)✕心拍数(HR)

HR70のとき、安静時における正常成人のSVは80mlである。
また、安静時の左室拡張終期容量(LVEDV:left ventricular end-diastolic volume)は変動的であるが、約110-130mlの範囲にある。

駆出率(EF)は、SV/EDV(拡張終期容量)で求められる。
これは、正常で約67%である。

駆出後に残留している血液量がLVESV(収縮終期容量)と言われる。

つまりは、EDVとESVの差が1回拍出量であり、それぞれ収縮期および拡張期にある程度予備量があることになる。

また、左室が充満しきったときの圧(EDP:拡張終期圧)は前負荷を示し、左室が収縮して血液を送り出し終わったときの圧が後負荷を示す。

心筋の収縮性調節

1回拍出量(SV)を決定する因子として以下の4つがある。

  1. 前負荷

  2. 後負荷

  3. 心収縮力

  4. 壁運動

①前負荷

フランクスターリングの法則が適応される。
これは、拡張期に心室に流入する血液が多ければ多いほど、収縮がより強力になることを意味している。これは、心臓が収縮する直前のできごとであることから、前負荷といわれる。

正常心臓においては、左室拡張終期容量(LVEDV)が左室の前負荷であり、心エコー、左室造影などで求めることができる。

また、左室のコンプライアンスが正常であれば左室拡張終期圧(LVESDP)で代用できるので、スワンガンツを利用した肺動脈きつ入圧(PAWP)でも前負荷を評価できる

後述するフォレスター分類では、PAWPで18mmHgをカットオフ値とし、前負荷を用いた心不全分類につなげている。

②後負荷

後負荷とは左室の血液駆出に対する抵抗である。100mmHgまでの平均動脈圧では問題にならないが、これ以上になると駆出の抵抗となり、1回拍出量が減少する。

逆に、後負荷の減少は1回拍出量の増加させる。
後負荷は体血管抵抗(systemic vascular resistance:SVR)に相当し、以下の式で求められる。

SVR=80✕(MAP-CVP)/CO dyne.sec/cm5

③心収縮力

前負荷が同じであっても、心臓の収縮力が増強すると1回拍出量が増える

心臓の収縮力を高めているのは、ノルアドレナリン及びアドレナリンによって、アドレナリンβ1受容体背刺激を介している。これにより、心室収縮力がより迅速になり(VmaxおよびdP/dtの増大)、かつより強力になる。

心臓に分布する交感神経は心臓促進神経といわれ、Th1-4の脊髄中間外側核から出ている。

Ca、ジギタリスは陽性変力作用があり、同様に心収縮力を高める。
一方で、揮発性麻酔薬、バルビツレートは心筋細胞におけるCa利用度を低下させ、心筋収縮力を抑制する。

④壁運動

心臓壁で虚血が生じると、虚血部分では壁運動の低下が生じ、正常部分との境界部では壁運動が消失する。これにより、心収縮力の低下が生じる。

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