ウェルビーイングとは? 豊かさをどう見つけ、どう伝えるか
前回の続きです。
■土居通康さんの「記憶画」
午後の講義では、昭和10年代の当時の生活の様子を描いた絵画と、その絵の中に出てくる道具(民具)を観察するところから始まりました。
題材になった絵画は、小田地区に住んでいた土居通康さんが描かれた「記憶画」でした。
通康さんの幼少期(昭和10年代)の頃の生活の様子が描かれています。
「昭和のはじめ頃 茶の間の夕食」
「釜屋」
「玉蜀黍(トウモロコシ)の収穫」
「大麦の収穫(麦焼き)」
「三椏(みつまた)の皮剥ぎ作業」
「棚田と通学路」
「分教場の昼休み」
「終戦直後の村祭凡影」
記憶だけで描かれたとは到底信じ難いほど、そこには家具の配置、人物、作業の様子や手順、棚田の形などが精巧に描かれています。
これらの絵を、通康さんは病気がわかってからの2年間で描き上げたそうです。
下の資料に実際の絵が載っていました。ハッとすると思います。ぜひ見てみてください。
https://www.town.uchiko.ehime.jp/uploaded/life/135566_265294_misc.pdf
▶︎ たくさんの民具
絵の中には、たくさんの道具が描かれています。その数なんと200以上。それにより、当時の生活の様子、作業の様子が、よりリアルに伝わってきます。
会場には資料館からお借りした数十点の民具が並べられ、実際に触ったり観察したりしました。
▶︎ 幸せだった日々を描き残す
通康さんは幼い頃に戦争や病気で両親を亡くし、一家の大黒柱として生きてこられました。絵を描くのは上手だったけれど、大黒柱になってからは絵を描くことは封印していたそうです。
そんな通康さんは、病に倒れ、余命がわずかとわかってから急に絵を描きはじめました。
なぜそんなことをしたのか。
それは、幸せだった日々を描き残すためだったそうです。
「ここで、精一杯生きて楽しかった」
生前の通康さんはそんな言葉を残されています。
■絵画と民具から当時の生活を知る
私のグループは「大麦の収穫(麦焼き)」の絵と、「ふるい」「手おけ」「おいこ(しょいこ)(※)」という民具を観察しました。
(講座中に写真を撮っていいかわからなかったので、文字の説明だけでわかりにくくすみません💦)
※おいこ(しょいこ):カチカチ山でたぬきが背負ってるやつ
▶︎ 絵から感じたこと、考えたこと
大人と少年たちが働く側で、ちびっ子が真似して遊んでいる。→働く姿を自然と目にし、「いつか自分もこうするんだ!」と思っていた。憧れを持っていた。自然と教育になっていた。働くことは自然なことだった。
家族で同じ作業をしていた。
その年齢なりにできることを任されていた。
火を扱える=一人前で誇らしいのが表情に表れている。→作業の中で火の扱い方も自然と教わっていた。
▶︎ 民具から感じたこと、考えたこと
おいこ(しょいこ)は使う人に合わせてオーダーメイドで作られていた。
名前や購入した日付を記入して、ものを大事に使っていた。
すべて自然のもので作られている。(木、竹、布など)
釘は使われていない。→鉄は貴重だったから?
▶︎ 絵と民具から、暮らしの豊かさについて話し合ったこと
現代は「タイパ」などと言って効率重視なのに対して、時間がゆっくり流れているように感じる。
道具が今もこの形で現存していると言うことは、すごく長持ちするものだということ。リユースもしていた。
名前を書いて自分のもの。その人の体にフィットするように調整。→物を大事にしたり、使う人を思って作られる心や知恵は今も引き継がれているのでは?
家族との時間の共有。
核家族で閉じられた関係ではなく、親戚や近所の人も一緒に作業している開かれた関係。
■子どもたちにどう伝えるか?
今回の講座で一番頭を悩ませた部分でした。
絵や民具から、「暮らしの豊かさ」を子どもたちに伝えるとしたら、どのような方法がよさそうか?
私たちのグループは
「この道具は何で作られているでしょうか?」というクイズ形式にして、自然の材料で作られていることを知ってもらう。
グループワークで誰か一人の子ども役の子のために「おいこ(しょいこ)」を作ってみる。→グループで時間を共有することの良さを体感。
「おいこ(しょいこ)」とランドセルを紐付けることで、道具を通して親から子へ伝えたかった思いを感じてもらう。→道具から感じる豊かさを現代にリンクさせる。
という構成を考えました。
他のグループでは、こんな意見が出ていました。
「昔の生活は大変そう」と言う子どもたちに実際に体験させてみる。
遊具を用途を伝えずに渡してみる。
絵の中の遊びを実際にやってみてもらう。
「昔だからこうしてたんだよね」で終わらせず、体験したり作ってみたりすることで「なぜそうしてたのか?」を知る。→感情の体験
心の豊かさは「感謝力」。手間をかけること、名前が書いてあることに表れている。→現代でも物に感謝して使うことはできる。
絵の中の人物に吹き出しをつけて、セリフを入れてもらう。
役割を持つことの大切さを伝える。
▶︎ そもそも私たちも知らない
子どもたちにどう伝えるかが、なぜ難しく感じたのか。
それは、そもそも私たちも昔の生活を知らないからでは?と思いました。
「おばあちゃんちで見たことある」という人も何人かいましたが、私のおばあちゃんちにはありませんでした。
私にとっても想像するしかない世界を子どもに伝えるというだから、それは難しく感じても仕方がないこと。もしここに、実際その時代に生きて道具を使っていた人がいて話を聞けたとしたらずいぶん違うだろうと思いました。
井口先生のゼミで、地域の人たちの話を丁寧に丁寧に聞き取って、模造紙に書き留めていっていたのはそういう意味があったのかと腹落ちしました。
資料から読み取れる歴史も確かにあるけれど、「人」から伝わる歴史のリアルさや深さには敵わない。歴史に関わらず、アートでも教育でもなんでもそうかもしれません。
生の「人」に会って話を聞くという機会を、これからはもっともっと大事にしていきたいと思いました。
長くなりましたが、ここまで読んでくださりありがとうございました!
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