シャボン玉

「なんてこった、こんなに降るなんて」

 青年はそうつぶやいて、上着を頭から被った。晴、ときどきシャボン玉。それがこの日の天気予報だ。

 視界を埋め尽くすほどのシャボン玉が空から降り注いで、何かに当たると弾けて消える。地面は既にシャボン液でびしょ濡れになっていた。

 マンションの立ち並ぶ、緩やかな上り坂を青年は走った。シャボン玉の勢いはとどまることを知らず、ますます激しくなっていく。

 坂をのぼり切ったあたりで、白い塊が路地に置かれているのが目に入った。青年が思わず足を止めてみると、それは上下白い服を身に着けた人間だった。その人は膝を抱えてぐったりとしていた。

 シャボン玉アレルギーだと、青年はすぐに感づいた。放っておくと命に関わるので、家に連れ帰ってやることにした。

 家には誰もいなかった。誰かがいる気がしていたけれど、気のせいだったようだ。

 それからのことは、よくわからない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?