【障害者水泳 指導者養成研修】それぞれの障害者について①
■どの障害が難しい?
障害の内容、種類、程度はさまざまですが、一般的に考えてどの障害のタイプを指導するのが難しいと思いますか?
① 知的障害者
② 知的・身体の重複障害者
③ 身体障害者
これは、間違いなく①です。
どんなに重度の身体障害であっても、知能的に健常もしくは健常に近い場合は指導するにあたって本人とコミュニケーションがとれますので指導が楽にできるのです。
どうすればいいのか、本人が教えてくれるからです。
ボランティアに一番人気なのも、このタイプです。
ボランティアをしたという達成感や、やりがいが直接、本人から受け取れるからです。
最近、医学、科学、補助具の進化によって身体障害者と健常者の区別がなくなってきているなぁと強く感じます。
一人でプールに来て、一人で受付を済ませ、一人で更衣して、一人でプールサイドまで行って、一人で入水、退水ができる、こういうタイプの障害者は、もう水の世界では障害者ではないように思います。
で、難しいのは、①の知的障害タイプの指導です。
体は成人でも、知能の発達は2歳レベルという場合も多いですし、親でも頭の中で本人が何を考えているかわからないのに、ボランティアさんが理解するのは相当困難です。
体力的にも強く、チカラ的に負けしまうこともあります。
暴力、暴言、ウンコ、指示が通らない、上達が遅い、などで指導者の心が折れます。
指導に悩むのがこのタイプです。
②は、チカラ的には、指導者が優勢な場合が多いので、これも③の場合と同じく比較的に楽だと言えます。
ここでは詳しく書けませんが、実際に指導してみるとすぐに理解できます。
■聴覚過敏の障害者について
「聴覚過敏」という障害は、健常者にとって最も理解することが難しい障害の一つです。
視覚障害、車いす、聴覚障害などは、その障害の内容がなんとなく理解できるでしょ。
以前、NHKで放送されていましたが、健常者にとってはなんのことはないただの音が、彼らにとっては、「神経をフォークでザクザク突き刺される」感じになるそうです。
26年間、この世界にいるぼくでさえ、なかなか実感として理解することはできません。
親でさえ、難しいそうです。
館内放送、ラジオ体操の音、コーチの指導する大きな声、子どもたちのはしゃぐ音・・・
すべての音をシャットアウトすることはできなくても、館内放送はプラカードで対応できますし、コーチの声も、ラジオ体操の音も、できるだけ小さくすることで彼らに少しでも不快な思いをさせない配慮はできるはずです。
聴覚過敏の程度なども一人ひとり違うので、一律に対応するということも難しいのです。
その日によっても感覚が違うので、さらに難しいです。
「クワイアットタイム」のような配慮が、もっともっと進めばいいですね。
欧米では聴覚過敏の人が泳ぐとき「クワイアットタイムです。」と館内に告げて、音響に配慮をしてくれるそうです。
■クワイアットタイムの設定
プールの受付に
「当施設では聴覚過敏の方がご利用されるときには、館内の音を消すクワイアットタイムを設定する対応をしております。お気軽に受付でお申し出ください。」
って張り紙をしているプールは最高です。
「私は聴覚過敏なので館内の音を消してください。」って自分で言える聴覚過敏者は、まずいません。すんごく勇気が要るよね。
だから、施設側が先回りして、そういうことを申告しやすいように配慮すべきなのです。
障害者の側がプール施設に対していろいろな要望を出すたびに、
「また、あいつら圧力団体みたいに、わがままを言ってからに。」とか、
「一般のお客さんの迷惑を考えろや!」ってな感じで対応されることが少なくありません。
こういうのは、嫌な感じだね。
簡単にできることだし、他のお客さんが反対することなんて現実にはないのだから、シブシブするのじゃなく、気持ちよく「わかりました。」って明るく言って欲しいなぁ。
■脳性マヒの人は潜らせていいの?
脳性マヒの人は、潜らせていい人と潜らせてはいけない人がいます。
どちらのタイプかしっかり見極めてください。
経験上、口を閉じることができない人は潜ってはいけないんじゃないかな?
脳性マヒの成人女性で、25mの潜行ができた人もいますが、してはいけないかどうかは、本人や保護者や医師に確認してください。
そして、指導者もプールの現場で確認してみてください。
誤嚥性肺炎には、気をつけて。
■脳性マヒの障害者(余談)
26年前に、大失敗をしました。
脳性マヒの人は流ちょうに会話をすることができません。
全身を振り絞るようにして話すので、なかなか聞き取れないこともあります。
体の動きもフラフラしているし、顔の表情もなかなか読み取ることができません。
ぼくは、そういう人に対して子どもに話すように話していたのです。
知能的に遅れていると思ってしまったのです。
大失敗です。
彼らは文字が書けないので、地下鉄の時刻表、財布の中のお金、スケジュールなどすべてを頭の中に記憶しています。難しい政治の話もしてくれました。
すごく賢いのです。
みなさん!
脳性マヒの障害者を侮ってはいけません。
見た目に惑わされないようにね。
畏るべし!です。
さらに、余談
パラスポーツに「ボッチャ」という競技があります。
最初は、ちょっとバカにしていたのですが、これはホントにすごいスポーツです。
見ていて、すごく緊迫感がありますし、あんな一投、ほとんど神業です。
あんなすごいこと、よくできるもんやなぁ、って驚きますよ。
頭脳プレーがすごいのです。
ぜひ、観てみてください。
■体温調節ができません。
「ぼくは脳を損傷しているので、右半身は汗をかいたり、涙が出たりするのですが、左半身からは全く汗も涙も出ません。だから、体温調節が機敏にできないのです。」という障害者がいました。
プールに来る道中の気温、館内に入ってからの室温、更衣室の室温、シャワーの温度、プールの水温、周囲の温度は目まぐるしく変化します。
自律神経がしっかり働いているぼくたち健常者には、よく理解できない感覚です。
でも、実際には、こういう体温調節ができない障害者は少なくないのです。
どうしたらいいのか、本人や保護者によく確認することです。
そして、温度が変わるところでは、ゆっくり対応することです。
■周囲の温度の変化について
プールの更衣室や導線部分の室温調節ができていないプール施設がほとんどです。
冬場はすごく寒く、夏場はすごく蒸し暑い更衣室がほとんどです。
なんとかして欲しいと声をあげるのですが、なかなかこういう端っこの要望は真剣には取り組んではくれません。
そのプールの館長の資質に寄りますが、その都度、声をあげるだけでも大変です。
ほんまになんとかならんのかなぁ、っていつも思います。
こういう激しい温度差が発作の引き金になることが少なくないのです。