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【障害者水泳 指導者養成研修】入水編②
■スイムキャップは、なぜ着用する必要があるの?
以前、ガンの治療の影響で髪の毛の全くない障害者とプールに行きました。
その人が、スイムキャップをかぶらないで泳ごうとしたら監視員が来て、
「お客さん!スイムキャップを着用してください。」
「えっ、なんで、かぶらなあかんの?」
「髪の毛が水質を汚染するからです。」
「ぼく、髪の毛、一本もないやんか?」
「それがルールなんです。(怒)」
こういう監視員は最低ですが、未だに、スイムキャップを着用しないと水が汚れる、と思っている監視員はたくさんいます。
全くの都市伝説で、髪の毛と水質汚染との因果関係はありません。
プールの水が汚れるのは、お客さんたちがほとんどシャワーを浴びてないからです。
プールに行ったとき、注意してよく見てください。全くと言っていいほど、みなさんシャワーを浴びていませんから。
スイムキャップを着用する理由は、髪の毛が邪魔で泳ぎにくいから、それをまとめるためです。
オリンピック選手が、水の抵抗を少しでも減らすために着用するためです。
スイムキャップの着用を強制しているのは日本だけで、欧米ではこういうルールはありません。
スイムキャップの着用を任意性にすべきだ、とプール・ボランティアは提言しています。
【参考資料】◆スイムキャップの着用を自由に!
◆スイムキャップの着用を自由に!
あなたのプールは、スイムキャップを着用しないと泳げませんか?
なんとなく昔からの感覚で「スイムキャップを着用しないと水質が悪くなる。」と思っていませんか?
でも、スイムキャップが原因でプールの水質が悪くなることは、今ではありません。
私たちは、スイムキャップの着用は任意でいいと考えています。
障害があって頭髪の全くない子どもやスポーツ刈りの中高生にまで、すべてスイムキャップを義務付ける必要があるのでしょうか?
すでに豊中市などの一部のプールでは、スイムキャップの着用は任意になってきています。
あなたのプールでも、ぜひ、この機会にご検討ください。
◆水質の汚染は利用客がシャワーを浴びないことに原因があるのであって、スイムキャップとは関係ありません。
・屋内の鶴見緑地プールや屋外の扇町プール、下福島プール、長居プールでは、スイムキャップを着用しなくてもいいのに、屋内プールだけは着用しなければいけないという違いについて整合性のある説明ができません。水質の汚染が原因であれば、両者とも、着用しなければいけないはずです。
・「毛髪の汚れ」については、ほとんどの利用客がメッシュタイプのスイムキャップを着用しており、毛髪の汚れは染み出してしまうのでスイムキャップでは防げません。
・「毛髪の抜け」については、頭にチョコンと載せている遊泳客や毛髪をスイムキャップからはみださせている遊泳客、わき毛、胸毛、ひげなどの「抜け」を考えると、その部分だけ義務付けても意味がありません。
・豊中市でもスイムキャップの着用が任意になっても、9割の利用客は自発的に着用しているのが現状です。ですから、スイムキャップが自由化になっても、実質的には現状とはほとんど変わらないのです。
・プールのろ過機能が向上しており、スイムキャップの汚れなどは問題にならないのです。
・スイムキャップは、頭髪をまとめることによって泳ぎやすくするために着用するものであって、頭を衝撃から保護するために着用するものでもありません。
※プール入場の際に、シャワーをしっかり浴びることを徹底したほうが、よほど水質の維持に効果があります。ほとんどの利用客がシャワーをしっかり浴びていないのが、水質悪化の原因です。スイムキャップではありません。
館内表示を「スイムキャップは、必ず着用してください。」から、
「スイムキャップはできるだけ着用してください。」に代えませんか?
■「ひとり一人が、違う」①
障害者は、ひとり一人の個性が強くて「ひとり一人、全く違う対応が必要」になります。
つまり、A君とB君とは障害名は同じでも、A君に対する指導とB君に対する指導とは全く違うということです。
障害の程度、テンカン発作の有無や頻度、体格、性格、年齢、そして家庭環境によってもその接し方は違います。心に傷を持っている子も少なくありません。
健常者を指導するときも一人ひとりの個性が違うとは思いますが、障害者が相手の場合、その個性差が極めて大きいということです。
ですから、グループ指導というものが基本的にできません。
背景となる相手の家庭環境や人間性そのものを総合的に捉えて指導することが重要なのです。
■「ひとり一人が、違う」②
プール・ボランティアには、知的障害者はもちろん、気管切開児、脳性マヒ、四肢欠損、片麻痺、SCDなどの難病など、さまざまな障害者・児が泳いでいます。
この人たちも、一人ひとり、全然違うのです。
「十把ひとからげ」的な指導は全くできませんし、しない方がいいでしょう。
そこが、障害者水泳指導の難しく、面白いところです。
■「前回と今回、さっきと今も、違う。」
知的障害者を指導する場合、先週はガンガン泳いでいたのに、今週はシャワーの前でうずくまって動かない、あるいは、さっきまで楽しそうに泳いでいたのに、突然大きな声を出して好き勝手な行動が始まる、なんてこともよくあります。
なにが原因、きっかけなのかもわからないことも多いのです。
指導する場合は、こういうこともよくあることだと頭に入れて冷静に臨むことです。
■その場で判断する指導が必要
ウンチやおしっこに連れて行くタイミング、その日の体調や気分、その日の天候、プールの水温、室温、混み具合、音響など、いろいろなことを総合的に「その場で判断して」の指導が必要になります。
コミュニケーションがとれない知的障害者を相手にする場合は、なおさらです。
ですから、あらかじめ「一般的な障害者水泳指導マニュアル」というものを作れないし、作っても意味がないのです。
できるとしたら「その子の水泳指導マニュアル」でしょうね。
■「すべてにゆっくり、ゆっくり、ゆっくりとすること。」
私たちは、日常、テキパキ動くことを美徳としていて、ついつい指導もテキパキやろうとしてしまいます。これが、良くありません。
すべてにおいて、ゆっくり、ゆっくり、ゆっくりとするのです。
これが「コツ」です。
でも、これは健常者の指導者には、なかなか難しい。ホント難しいのです。
この感覚に慣れることです。
平易な言葉で表現するなら、根気良く、気長に、のんびりと、成果を焦らず、粘り強く、あきらめず、長い目で、あまり頑張らず、ってところです。
これは、すごく難しいですよ。
■「保護者とのコミュニケーション」
指導するのが子どもの場合は、保護者から日頃の生活のこと、どんな配慮が必要か、今日の体調のことなどを入水前にしっかりと聞いておくことです。
成人の場合も、本人や介護者に聞くのも同じことです。
そういう事前の知識を仕入れておくことが大事です。
てんかん発作やトイレなどの情報は、特に大事です。
プール・ボランティアでは「申し送りノート」を作って、保護者からの申し送りを入水前に確認し、退水した後は保護者や次に担当する指導者への申し送りをノートに書くようにしています。
■「社会性を身につける。」
障害者は、いろいろなボランティアや指導者と接することで社会性を身につけていきます。
コミュニケーション能力の向上です。
これが、実は水泳の上達と密接に関係していることが経験としてわかっています。
ですから、指導者は障害者と、どんどんコミュニケーションをとりましょう。
障害者はいろいろな指導者と、どんどんコミュニケーションをとりましょう。
プール・ボランティアでは担当する指導者を固定することはしません。いつも同じ組み合わせだとお互いにマンネリ化しますし、心が折れてしまうことも多いからです。
指導者によっていろいろなアプローチの形があり、それがコミュニケーション能力を向上させるのです。
■障害者と介護者の距離の問題
「介護者は障害者と離れないでください。」の意味は、物理的な距離を言うのではありません。これは、いわゆる「障害者と介助者との距離」の問題です。
身体障害者と知的障害者とでは、指導者の位置取りが全く違います。
身体障害者の場合は見た目にもわかりやすいのですが、知的障害者の場合は適切な距離を保つことが、とても難しいのです。
気管切開児や脳性マヒなどの身体障害者のプール指導の場合は、離れると危険なので至近距離で指導する必要がありますが、知的障害者の場合は近くによると怖がったり、ストレスを受けたり、逃げ回ったり、また、じっと見られたり体に触れられたりすると怒る場合もあったりしますので、その子どもによってその距離は全く異なります。
また、指導者がベテランの場合と初心者の場合でも微妙に位置取りは変わります。
単独で指導する場合と、複数で指導する場合も、それぞれの位置取りは変わります。
指導者はその子どもに合わせていろいろと距離を変化させながら指導することが大事です。
自立していて水泳大会などに出場するような知的障害者は、指導者がプールサイドに座って指導する場合もありますが、これはほんの一握りの障害者だけの話です。